第113話 七条歩:追憶 6
「や、やめてくれええええええッ!!!!」
「いやだ、死にたくないッ!!」
「もう……殺してくれ……」
「いやあああああッ!!」
幼い少年は、すでに20歳を迎えていた。青年となった彼はいまだに殺し続ける生活をしていた。真っ白な部屋に放り込まれる人間。彼は最近になって知ったが、殺されに来る人間はすべてが犯罪者らしい。それも凶悪犯罪で死刑を言い渡された人間。表向きには死刑だが、行っているのは人体実験に近い。こうして、彼が殺している様子を何十年もモニタリングし続けているのだから。
「はぁ、飽きてきたなぁ」
彼は自己というものを獲得していた。思考はできるし、自分の意見をいうこともできる。ただ、言われたとおりに生きるのが自分の人生だと思い込んでいる。今日も、いつもの日課の作業を終わらせると返り血を流しにシャワールームに向かう。
「ふぅ、いい気分だ」
シャワーを浴び終わって、読書でもしようかと自室に向かっている最中に彼は見知った顔の人間をみつける。
「
「あら、××くんじゃない」
白衣をまとった長髪の女性。名前は月子と言って、彼とは親しい人物である。最近は彼は何となく、彼女のことが気になるようになり会うたびに話しかけるようにしている。
「月子さん、なにしてるの?」
「ちょっとデータの整理。やること多くて嫌になるわぁ」
「今日は話す時間ないの?」
「うーん、いまからならちょっと時間あるけど」
「やった!! じゃあ、また面白い話きかせてよ!」
「えぇ~、学生時代の馬鹿な話しかないわよ?」
「いいよ、月子さんの話はなんでもおもしろいから!!」
それからしばらく、二人は話し合って別れを告げた。
夜になり、消灯時間になる。22時を過ぎれば室内には電気が通らなくなる。そのため、この時間になると就寝するのが当たり前だった。その生活を20年も続けてきたのだ。もはや、習慣になっているも最近は寝付けないことが多くなっていた。
(どうして俺はここにいるんだろう?)
彼はじっと真っ暗になった天井を見上げながら、考え始める。
月子と出会ってから、彼は外の世界というものを知った。そこには友達という存在もいて、ツライこともあるけど楽しいこともあるらしい。本当は、彼には余計な情報を与えてはいけないことになっている。だが、彼女は特別に彼と仲良くし、いろいろと話をしている。
(あぁ、外に行ってみたいなぁ)
そんなことを考えながら、彼は眠りにつくのだった。
§ § §
翌日。なにやら朝から大規模な手術が行われた。そして、目覚めたときにはCVAが発現していた。直感的に理解できた。このCVAというものの扱い方を。両手をぐっと握るとそこからわずかにワイヤーが漏れ出す。そう、彼が手に入れたCVAはワイヤーだったのだ。
「LAは無理か」
「でも理論的には、人工的なLAの開発は可能なはず」
「またワイヤーか」
「しかし、
「また経過観察だな」
なにやら話している声が聞こえるが、彼にはどうでもよかった。今は手に入れた新しい
「あああああああッ!! 腕が、俺の腕がぁあああああッ!!!!」
「ははははははッ!! 最高だよ!!」
今日も今日とて、作業の時間である。しかし、以前のような退屈さはなかった。どうやってワイヤーを動かせば、四肢を切断できるのか。どうすれば効率よく殺せるのか。試行錯誤に、適切なフィードバック。彼はこの作業を自分が楽しめる遊びへと昇華させていた。
ワイヤーを伸ばして、四肢に巻き付けそのまま締め付けて切断。肉を切るのは容易だが、骨になるとなかなか大変な作業になる。いかに、骨を効率よく切り裂くか。やはり、ワイヤーの強度と骨の強度をよく知る必要がある。彼はそう考えると、いままでにしなかった行動もし始めた。殺した相手に近づくと、じっと切断した面を見る。切り裂かれている部分を自分なりに考察して、次に活かす。
それこそが、彼の新しい楽しみになっていた。
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