第111話 七条歩:追憶 4
「はぁッ!!」
「ぐッ……負けました……」
それと同時に相手はCVAを解除する。一方の歩は疲れを見せているものの、まだ戦えるだけの気力を見せていた。
あれから詩織とのトレーニングを積み重ねることで、彼は急に頭角を表し、VAの発現に至った。手に入れたVAは
今となっては、天才である妹の椿にも模擬戦で勝利を収めるほど。彼の戦闘スタイルは本能でただ突き進むものではない。理詰めで戦闘を考え、相手に得意なことをさせないかつ、自分の得意な領域に引き摺り込む。試合巧者とは彼のことを言うのだと、養成所では噂になっていた。
「ふぅ……」
一息つくと、歩は自宅に戻る準備をすると同時にデバイスを触る。開くのは、世界大会のページだ。現在は世界大会が開催されており、詩織が代表として戦っている。彼女の試合を見るたびに、彼は自分の心が高鳴るのを感じていた。
圧倒的な
報道される内容も彼女のことで満たされている。
クリエイターは例外なく近接系が有利で、ユニーク系は圧倒的不利だと評されている。しかし、詩織はその前例を自身の存在で覆す。クリエイター界に現れた新星としてメディアはこぞって彼女の特集記事を組み、未だに報道が止むことはない。
各国も、自分の国の選手よりも彼女に注目しているようになっていた。
歩はそんな彼女を見てどこか誇らしいと思うと同時に、いつか自分もあの舞台で戦ってみたい。そして、彼女を超越できるようなクリエイターになりたい……そう思うようになっていた。
「お兄ちゃーん!! 帰ろ!!」
「あぁ。帰るか」
椿が走ってくるのを見て、微笑みながらそう答えると二人は自宅へと向かうのだった。
「ねぇねぇ、詩織さんすごいね」
「あぁ。まさか、あそこまで戦えるなんてな」
「現地に行って見たかったな〜」
「今回はイギリスでの開催だからな、仕方ない」
「アメリカでやってくれたらよかったのに〜」
「まぁ、ライブで観れるからいいだろ」
「生で見たいの!! それにしても……お兄ちゃん、強くなったね!!」
「まぁ、VAに頼っている部分も多いし、まだまだだよ」
「これは私もいつかお兄ちゃんに負かされちゃうかもね〜」
「ふふ、そうだな。いつか椿を完封できるほど強くなってみせるさ」
「負けないからね!!」
「……あぁ」
仲睦まじい会話をしながら、二人は進んでいく。これから人生最大の悲劇が起きるとも知らずに……
§ § §
「歩、ちょっといいか?」
「ん? なに、父さん?」
自宅に戻り夕食をとり、自室で今日の模擬戦のデータを整理していると彼の父が部屋にやってくる。基本的に研究者である両親は家にいないことが多いのだが、今日は珍しく二人とも家にいる。
「最近、頑張っているそうじゃないか」
「詩織さんに出会ったおかげだよ」
「あの人は……確かにすごいな。もう準決勝だ」
「あぁ。あのままだと優勝するかも」
「そう……だな」
何やらおかしい。的を得ない会話。一体何しに来たのだろうか。父がこうして部屋にくるほどだ、ただの世間話ではないのは間違いない。
「歩、今は楽しいか?」
「楽しいよ。何より、ちゃんと生きてるって感じがする。色んな人に出会って、こうして成長できるのが嬉しく思うよ」
「そうか……そうか……いや、ありがとう。父さんも決心が決まった」
「? そう? それなら良かったけど……」
何気ないか会話だと思った。なんの変哲も無い、父が子に近況を尋ねるだけの会話。でも、それが最期になるとは夢にも思わなかった。
§ § §
更新遅れて申し訳ないです。完結までの目処は立ったので、このまま駆け抜けようと思います。どうか最期まで宜しくお願いします。
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