第102話 七条歩 VS 有栖川華澄 3
徐々に髪の毛が毛先から白色に変化し、それは彼女の長い髪の三分の一まで侵食している。
つまりは、その浸食が深くなればなるほど力は増すということだ。
現に華澄は避けるだけでなく、反撃に転じるほど余裕ができていた。
「もっともっともっとッ!!!! アハハハハハ!!!!」
「くそッ!!!」
四聖での攻撃スピードは落ちていない。むしろその速度と精度は上がっていくばかりだ。だが、それでも届かない。すでにクオリアを不完全ながらも開花させつつある彼女には、どの攻撃も意味を為さない。
鮮血。歩の血が至る所に飛び散る。四聖の発動で自身にダメージを負っているのもあるが、今はわずかにだが華澄の双剣の刃が彼に届いているのだ。
そして、そのわずかな出血は馬鹿にできない。血を失えば脳の機能が正常に働かない。本能ではなく、理性と計算で戦っている歩にはそれは致命傷足りうるのだ。
(ここは、一旦……いやでも……迷っている暇はないッ!!! ここで
そう考えると、歩は華澄をどこかに導くように少しずつ後退していく。彼女は歩が逃げの姿勢に入ったのだと思い込み、そのまま攻撃を続ける。
双剣の乱舞は止まることはない。徐々に勢いを増しながらその速度をあげていく。すでにいつもの華澄の限界は超えている。不完全ながらもクオリアにより解放された力は、彼女をさらなる高みへと連れていく。
(もう少し、もう少し、ここだッ!!!!)
瞬間、歩が右手を横に薙ぐと周囲に隠されていたワイヤートラップが起動。その数は100を優に超えており、華澄の身体めがけて射出される。
「こんなものッ!!!!」
もちろん、今の彼女のCVAとVAがあればすべてを躱すことなど容易い。だが、彼女の身体はその一瞬だけ思うように動くことはなかった。
「なッ!!!?」
すでに時は遅く、華澄は四肢をワイヤーによって縛り上げられてしまう。双剣も地面に落としてしまい彼女になす術はもうなくなってしまった。
「なんとか……間に合ったか。はぁ……はぁ……はぁ」
歩の仕掛けたトラップ。それは、十字架に貼り付けたように、相手を縛り上げるものだった。木々の中にワイヤーをわずかに埋め込み、それを
歩のこれまでの行動は全てここに持ってくるための陽動。四聖があそこまで通じなかったのは誤算だが、何とか成功させることができた。
まさに圧巻としか言いようがない。歩がこのトラップを戦闘をしながら仕掛けているのに気がついたのは観客の中でも片手もない。もちろん、華澄は全く気がつかなかった。
さらに、彼女はクオリアの特性を完全に把握できていなかった。連続攻撃の際に起きるわずかな体のズレ。脳が命令しようとも体がそれをスムーズに実行させるようにするにはかなりの訓練がいる。クオリアといえども万能の力ではない。歩はそのことを知っていたからこそ、彼女の微かな隙をつくことができたのだ。
「あははは、アハハハアハハハハハハハハ!!!!!! さすが、さすが歩ね!!!! やっぱりあなたは最高だわ!!!! アハハハアハハハハハハハハ!!!!!!」
苦し紛れに叫んでいるのか、華澄は縛られた状態にもかかわらず不安な様子はみられない。
そして、右腕から大量の血を流しながら彼がゆっくりと歩いてやってくる。
「華澄、終わりだ……負けを認めてくれ」
「本当にそう言うと思ってる? 知ってるんでしょ? 私がLAを使えること」
「知っているさ。だからこそ、出させずに終わらせる。CVAがなければ発動はできない」
「そう、普通ならね」
ニヤリと微笑むと、彼女の周囲に黄金の粒子が溢れ出す。
「そうか……君はまさか3人目の……」
「……そう、完全到達者よ」
クオリアの完全到達者。それは現在二人しかこの世界に存在しない。だが、今ここに3人目が世界に認知されることになった。
一ノ瀬詩織、七条歩、そして有栖川華澄。
華澄が完全到達者であることを知っていたのは本人しかいない。そのため、この中継をみている者は誰もが驚くことになった。
さらに、完全到達者同士の戦闘。それはこの世界で最も興味を集めるものだと周りの人間は思っていた。
その中には当事者である歩も含まれていた。
「LAを使えるのは知っていた……でも、君が完全到達者になるなんて……」
すでに縛り上げていたワイヤーは黄金の粒子によって分解されていた。華澄はすでに自由になっている。しかし、その場から動くことはない。溢れ続ける粒子が収束するまで彼女は待っているのだ。
「……ふぅ。こんなものかしらね」
全身、純白。その体は髪の毛でなく、皮膚の色、睫毛、眉毛さえも純白になっていた。
この特徴は間違えようがない。華澄は完全到達者である事実は揺らがない。歩は想定にない状況になってわずかに動揺していた。
一方の華澄は優雅に振る舞う。自身の変化に戸惑うことはない。まるで今までと変わることなどないかのように一歩一歩、歩き始める。
そして、彼女の右手には三又の矛が握られていた。
「さぁ、今度こそ終わりにしましょう?」
にこりと微笑む純白の天使が今、舞い始める。
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