第66話 パーティー当日


「うわぁ・・・・・・すげえな、こりゃ」


「確かにこれは圧倒されるね」


「これは凄いですね。歩さんはこのような所は初めてなんですか?」


「そうだね。こんな所は来たことないよ」


 いつものメンバーが全員集合し、各々がパーティーが開かれるビルの高さに圧倒されていた。今回のパーティーは、そのビルの70階のフロアを貸し切って行われるようで、雪時と歩と翔はその凄さを思わず口に出してしまうのだった。


 そのビルは、御三家が所有する超高層ビル。主に会議や祭典の時に使われる場所である。普段は有栖川家の会社のオフィスとして使用されている。




「確かに凄いけど、僕は学会で何度も来てるから新鮮味がないね」


「私も学会で来たことあるけど、やっぱりすごいわね!」


「葵は、相変わらず葵だね」


 

 紗季と葵は割と落ち着いていたが、椿と彩花はすこしおかしなテンションになっていた。




「凄い凄い! 私が今からここに入るの!?」


「うひょー! これは世界大会の会場並みに凄いね!」


「さすがに椿は慣れてるみたいね。私は初めてだから嬉しいけど、ちょっと不安になってきたわ」


「大丈夫ですよ! 何とかなりますって! さぁ、楽しみましょう!!」



 そう言って椿は1人でスタスタとビルに入っていく。



「じゃあ行こうか、みんな」


 そして、歩に続いて皆もビルに入って行くのだった。




 会場にはすでにかなりの人がいた。そこには学生の姿はほぼない。いるのは御三家に縁のある者や、有名な会社の重役達。そんな中、一際異彩を放つ女性がいた。




「あ、みんな来たのね。わざわざ足を運んでもらってありがとう」


 微笑む華澄の表情は相変わらず魅力的なのだが、彼女の服装は年相応とは思えない派手なドレスだった。その真っ赤で派手なドレスは華澄が着ているからこそ、とても映えていた。また髪もアップに纏めており、かすかに見えるうなじがさらに艶かしさを演出する。


 これには女性陣でさえも圧倒されていた。




「華澄綺麗だね!! 凄いよ!! とっても可愛いよ!」


「ふふ。ありがとう、葵」


「いやはやこれは凄いね。さすが有栖川の令嬢だ。とてもよくお似合いだよ」


「あら、紗季が素直に褒めるなんて珍しいわね」


「僕も素直なときはあるよ。それほどまでに僕は華澄に圧倒されたのさ」


「そう言ってもらえると嬉しいわ」



 一方、彩花と椿は遠目から華澄の姿をみて何やら話し込んでいた。




「ちょっと椿! あの華澄の姿はマズイわ! 歩が惚れちゃうかも!」


「ふふふ。大丈夫ですよ。こんな時はお経を唱えるんです。うふふふふふ」


「ちょっと! 現実逃避してる場合じゃないわ!」


「ハッ! そうだった! と、とりあえずお兄ちゃんのところに行きましょう!」


「もう手遅れみたいね」


「え?」


 二人が話している間に、すでに歩は華澄のところに向かっていたのだった。



「華澄。今日は招待ありがとう。それにしてもよく似合っているよ」


「あ、ぁありがとう。そ、それじゃあ私はまだ挨拶があるから行くわね。ま、また会いましょう。それじゃ!!」


「歩、君はまた何かしたのかい? 華澄の様子がおかしかったようだけど?」


「え!? いや、心当たりがないんだけど」



 歩は本当に心当たりがなく焦っていたが、紗季の方は何となく華澄の行動を察しており大変なことになるなと他人事のように考えていた。






「そうえば葵さん。よくお兄ちゃんにご飯を作ってあげているようですね」


「まぁ時々ね。え、何か問題あった?」


「いえ別に。ただ、ちょっとは遠慮してほしいかなー? なんて?」


「うーん。まぁ椿ちゃんがそういうならすこし考えてみるわ」


「お願いしまーす!」


 椿はその間に葵に釘を刺しておく。兄の友人が増えるのはいいが、恋人はダメだ。それは許せないと思っているからこそ、このような行動に出る。しかし、葵は疑問に思っていた。


 あれ? そうえば、椿ちゃんて妹よね? なんで私が歩と食事してたら嫌なんだろ? は! まさか、そういうことなの!? インセストなの!? キャー! これは凄いことに気がついちゃった!


 そう考える彼女の頰は心なしか赤く染まっていた。



「あ、歩さん。始まるみたいですよ」


 翔がそういうと会場の明かりが落ちると同時に、一箇所だけにスポットライトが当たる。



 そして、有栖川要がそこに行き、マイク越しに話し始める。



「今回はわざわざこうしてお集まりいただき感謝します。例年は慎ましく行なっていたのですが、今年からは規模を大きくしました。どうかぜひ、楽しんでください」



 大歓声とはいかないまでも、軽く拍手が起きる。こうして御三家の主催するパーティーが開催される。






「うおお! すげぇ! この料理は見ただけでもうまそうだな!」


「おい、相良。少し落ち着けよ。ここは一応、御三家主催のパーティー会場だぞ? もう少し礼節というものをだな・・・・・・」



 翔がそういうも雪時は無視して、出されている食事を楽しむ。



 一方、歩はさっそく御三家に声をかけられるのだった。



「ヤッホ〜。彩花、久しぶり〜」


「げ、奏。やっぱり来てたのね」


「一応、西園寺さいおんじ家の長女だからね〜。そちらは例の七条くん?」


「七条歩です。よろしくね、西園寺さん」


「苗字で呼ばれるのは嫌いなの。かなででいいわ。私も歩でいいでしょ?」


「そうだね。よろしく、奏」


「うふふ。こちらこそ」


 握手を交わす奏はじっと彼を見つめていた。



 彼女は感じていた。七条歩が放つ独特な雰囲気を。



 間違いなくこの男は強い。映像だけでは分からなかったが、明らかに纏っているモノが普通のクリエイターと違う。いつか戦うことになるのは間違いない。そう思いつつも、彼女はそのまま話を続ける。



「そうえば、彩花と奏は友達なんだね」


「うん! 恋人なの!」


「ちょっと! 私はそんな気は無いって言ってるでしょ!」


「え〜。こないだも一緒に寝たじゃ〜ん」


「それはあんたが勝手に入ってきたんでしょ。歩も何か言ってよ!」


「あー、その。二人が同意してるならいいよ思うよ?」


「もう少しフォローしてよ!」


「うふふふふふ。彩花もちょっとは成長したみたいね。特に胸のあたりが・・・・・・・」


「いやー!! 私の貞操がー!!!!」


「なんてね。続きはホテルでね。そうえば、歩」


「ん? 何か聞きたいことでも?」


「先日の試合ですごい体術使ってたよねぇ?」


「あー、まぁね。御三家ならあの試合のデータを持っていても不思議はないだろうし。でも詳細は話せないよ?」


「えぇ〜。いけずぅ〜。イイコトするからぁ〜、お願いぃ〜」


「それは無理だね。それに、イイコトって性的に何かサービスしてくれるの?」


「え!? そ、そんな直接言われると照れちゃうわ・・・・・・」




 顔を真っ赤にする奏を見て、彩花は呆れたようでそのまま彼女に苦言を呈する。




「あんたね。いつも照れるぐらいならそういう事を言うなって言ってるのに。歩は意外と性的な話は構わず言及してくるから気をつけたほうがいいわよ」


「そういう事は早く言ってよ!! うぅぅ。恥ずかしい」


「あははは。ごめんね。ちょっと意地悪したくてね」


「おやおや。楽しそうだね。僕も混ぜてくれよ」


綾小路あやのこうじ紗季さき・・・・・・・」


「おや、西園寺家のお嬢様に知ってもらえてるとは僕も有名になったものだね」



 紗季は何食わぬ顔で嫌味を言うが、奏は一目見て理解した。この女は完全に相性が悪いと。だが、紗季はさらに嫌味を重ねてくる。



「それにしても、歩が失礼をしたみたいだね。彼は意外と素直だから気をつけたほうがいいよ? 君みたいなお嬢様にはちょっと荷が重いかもね」


「ふーん。そーゆー事言うのね。私は大人だから大丈夫よ!!」


「じゃあもう経験があるのかい?」


「え! そ、それは・・・・・・興味はあるけどまだって言うか・・・・・・」


「僕は歩と経験済みだよ? どうだろう。彼に処女を捧げるのは」


「「「え!!!??」」」




 歩、彩花、奏の3人は紗季が日常会話と同様にそのような事を言うので驚いてしまう。御三家主催の正式なパーティーだというのに、ここでは猥談が繰り広げられていた。




「大丈夫、嘘だよ。でも歩なら頼めばそうさせてくれるかもしれないよ? どうなんだい、歩?」


「え!! ま、そういう事に興味がないわけではないけど・・・・・・学生のうちは学生らしい生活を・・・・・・ね?」


「あははは! そうだね! まぁいつか時が来たら頼むよ!! 僕もさすがに処女で死ぬのは嫌だからね!」


「もうやだ・・・・・・本当にこの女は何なのよ・・・・」


「彩花の言う通りね・・・・・・さすがの私でも手に負えないわ・・・・・・」



 奏と彩花はそのまましばらく、ぐったりとしているのだった。






「おや、奏。もう他の友達ができたのかい? それと彩花ちゃんは久しぶりだね」


「あ、お父さん」

「伊織さん。お久しぶりです」




 若者の中に突然、西園寺家当主である西園寺伊織がやってくる。これには全員が緊張してしまうのも無理はない。


 ちなみに彩花は西園寺家に遊びに行くことが多々あるので、すでに伊織とは面識がある。



「とうとう来たね、歩。うまくやれよ?」


「まぁ、なんとか頑張るよ」


 小声でそういうと、伊織が二人に話しかけてくる。



「綾小路さんお久しぶり。元気にしているかな?」


「西園寺さん。ご無沙汰しています。先日の学会ぶりですね」


「あぁ、そうだね。相変わらず君の研究は素晴らしいよ。それで、今はクオリアだったよね? どうだい? 進んでいるのかな?」


「おかげさまで割と進んでいますよ」


「そうかい。それは良かった。興味があれば、ぜひうちのラボにも来て欲しい。もちろん待遇はそれなりのものを用意するよ?」


「何度もお誘いいただいて感謝していますが、今の環境に満足していますので」


「あはははは! またフラれちゃったな! おや、そうえば君は七条歩くんだよね? 一応、初対面だと思うけど」


「西園寺家の御当主に会えて光栄です。七条歩と言います」


「西園寺伊織だ。よろしくね、七条くん」



 そう言って握手をするも、伊織の目は何かを見定めているようだった。



「あ、そうだ。僕の友人も七条くんに会いたいと言っているんだ。どうだろう? ぜひ、来てもらえないかな?」


「はい。構いません」


「それじゃあ行こうか。みんなもパーティーを楽しんで欲しい。では」



 歩はそのまま伊織の後ろについていく。その背中は何かを覚悟したようにも見えた。



「あーあ。止めなくてよかったの? うちのお父さんめんどくさいよ?」


「歩なら大丈夫でしょ。今日もある程度覚悟して来ているだろうし」


「彩花の言う通りだね。彼なら大丈夫さ」


「ふーん。信頼されているのね」



 歩と彼女たちが強い絆で結ばれているのを理解した奏は、どこか羨ましそうにそういうのだった。








「紹介するよ。有栖川ありすがわかなめさんと清涼院せいりょういんあまねさんだ」


「よろしく七条くん。華澄が世話になっているようだね」


「いえいえ。こちらこそ華澄さんにはお世話になっています」


「私はあまねっていうのぉ。周ちゃんでいいわよぉ?」


「いえ、それは流石に・・・・・・周さんと呼ばせてもらいますね」


「うふふふ。今はそれでいいわ」



 それぞれ握手を交わすが、歩は内心で多くのこと考えていた。



 彼らの目的はおそらく、武器創造クレアツィオーネかクオリア。さっきの西園寺さんの会話を聞くに、紗季の研究テーマは知っているようだからクオリアの可能性が高いかもしれない。ここはうまくやらないとな。



 その一方で、周りの人間はそこにいる4人を見つめていた。



 現御三家当主の中に、あのワイヤー使いの学生がいる。間違いなく彼は御三家に勧誘されているのだろう。



 各企業の重役たちは後で歩に声をかけようとその一角を熱心に見つめているのだった。






「七条くん。あの試合、見させてもらったよ。私はあの時会場にいたんだ。とても良かったよ」


「有栖川さんはあの試合を見ていたのですか? それは気が付きませんでした」


「いやそれは無理もない。それほどまでに君は集中していただろうからね」




「これは西園寺家ではなく、一人のクリエイターとして聞きたいのですが。七条くん、あの技は君のオリジナルかい?」



「詳しくは言えませんが・・・・・・・そうですね。あれは僕のオリジナルの創造秘技クリエイトアーツです」


「あらあらあらぁ。すごいのねぇ。七条くんは。オリジナルの創造秘技クリエイトアーツを創っちゃうなんてぇ。おばさん感動しちゃうわぁ」


「おばさんだなんて。まだまだ、周さんはお若いですよ。それにとても美しいですよ」


「あらあらあらあらあらあらあらあら。お世辞まで上手いなんて・・・・・・・私ちょっと気に入っちゃたかもぉ。どう、うちに来てみるつもりはない?」


「と、申しますと?」


「うちには中学生の娘がいるの。七条くんが良ければ婚約して欲しいのよぉ。もちろん婿養子になるけど、それなりのポストは用意するわよ?」


「あはは。ご冗談が上手いですね。僕はただの一介の学生です。御三家になれるほどのものではありません」



「七条くん。謙虚も過ぎると嫌味に聞こえるよ? 西園寺家も君を歓迎するよ。先ほど奏と仲良く話していたようだけど、君がいいのなら奏を嫁にしてもいいのだよ?」



 そう話しているとそこに要が入ってくる。



「二人ともやめないか。七条くんも困っているだろう」


「はぁーい。また今度時間があるときにねぇ。これ、私のデバイスのプライベートナンバーとパーソナルデータ。いつでもかけてちょうだいね」


「それなら私も渡しておこう。西園寺伊織のプライベートナンバーだ。仕事用じゃないよ? それだけ君を買っているんだ」


「はぁ。全く、伊織も周さんも困ったものだ。まぁこの流れなら私のナンバーも教えておこう」



「あはは。ありがとうございます」



 歩はデバイスを取り出し、3人のナンバーとパーソナリティデータを受け取る。一介の学生ならば御三家当主の連絡先を知っているなどありえない。だが、歩は知ってしまった。それだけ期待しているのだ。彼という才能を3人が欲しているのは間違いない。



 だからこそ、歩はこれからの対応が重要と思いさらに会話を続ける。



「それで七条くん。君はあれを知っているのかな?」


「あれ、とは何の事を言っているのでしょうか?」


「もちろんクオリアだよ。知っているんだろう?」


 要は強い視線で歩を見つめる。それは明らかに糾弾している目。並のクリエイターならばその視線にたじろいでしまうのだが、それに対して歩は真正面から向き合う。



「クオリアについては知っています。でも、詳しくは知りません」


「君は至っているのではないかい? クオリアに」


「それは分かりません。綾小路紗季さんと仲が良いので、それで知っているだけです。僕が知っているのはクオリアという物質が存在するということだけです」


「なるほど。よく分かったよ。君はクオリアについて詳しく知らないし、至ってもいない。そのような認識でいいのかい?」


「それで間違い無いです」


「要さん。それぐらいにしましょうよ。七条くんも困っていますよ」



 二人の会話に伊織が加わる。もちろんそれは歩を助けるためではなく、彼と話すためである。



「七条くん。君の才能は偉大だ。これからも頑張ってほしい。三校祭ティルナノーグでの活躍を期待してるよ」


「うふふ。私も楽しみにしてますわ。それでは」


「すまないね。糾弾するような形になってしまって。それでは私も失礼する」




 もちろん、歩はクオリアについて色々と知っている。だが、そこは嘘を押し通した。もちろんその事は要も分かっている。



 互いの腹の中の探り合い。情報を漏らしてはならない。歩は心的捜査メンタルスキャニングと人脈によって、普通のクリエイターよりも莫大な数の情報を持っている。だからこそ、それ相応の責任が伴う。彼は知っていることが多過ぎるのだ。



 御三家は欲している。クリエイターをより高みへと導く情報を。彼達は使命と思っている。クリエイターとオーディナリーをより良い世界に導くための使命が自分たちにはあると。



 しかし、それは考えの一つ。今は純粋に力を求めている。欲望が加速する。どこまでもクリエイターを高めようという欲望。


 歩は知っている。その欲望を今まで何度も見てきた。御三家の三人も同じだ。彼らも力を欲している。だからこそ渡すわけにはいかない。クオリアの真髄に至ったクリエイターの真実を伝えてはならない。そこにはクリエイターの存在そのものを揺らがしてしまうほどの力がある。


 彼はそう思い、その場を去るのだった。

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