第55話 Another View 10 彼女の本当の想い
「ああああああああああアアアアアアアァァァアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああアアアアアアアァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。頭が割れそうだ。どうして私はこんなに苦しんでいるのだろう。歩は平然とこちらを見ている。あぁ、彼は一体どこまでいくのだろうか。
そう考えていると、私は完全に氷に覆われてしまう。
「あああ・・・・? ・・・・・・」
閉ざされた世界の中で何か声が聞こえる。
七条歩を求めろ。七条歩を求めろ。七条歩を求めろ。七条歩を倒せ。七条歩を倒せ。七条歩を倒せ。
何なのだろうこの声は。というより私はどうなってしまったのだろう。
身体が冷たい。感覚はそれしかない。それだけ。
そうしていると私は突然外の世界に放り出される。
あぁ、そうだ。試合だ。勝たなきゃ。勝って、歩を手に入れなきゃ。
「そうだ・・・ 倒さなくちゃ、歩を。私は手に入れるんだ、彼を・・・」
彼は私なんか見ていない。彼は遥か高みをすでに見ている。それなら振り向かせるまで。私が彼をどうにかしてみせる。
「渡さない。歩は・・・ 私のものよ・・・」
そして、私の左腕には少し小さめの氷の鎌が手首から生えているように生成されていた。
あぁ、私は彼を手に入れるためにさらなる進化を遂げたのね。これならなんとかなるかもしれない。
彼の心は、戦意が挫けることは決してない。それはあの目を見れば嫌という程理解できる。ならば、意志など関係ないぐらいに身体を痛めつけるだけだ。それだけが、彼を倒す方法。
さぁ、本番はここからよ。
しかし、彼には今の私の技は通じなかった。もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、力を。歩を倒せるだけの力を。
「あははははははは!!!!!!!! 痛い、痛いよ!!!!! 歩ぅ!!!!!!!!! 痛いよおおおおおおお!!!!!! あははははははあっッッはああアアアアアアアァァァアアアアアアアアアアアアアアア・・・!!!!!!!!!!!!」
歩の攻撃を受け、全身に激痛が走る。だけど、私は負けない。だって、歩を手に入れられない人生に意味なんてないのだから。
その先にあるのは今まで通り退屈で地獄のような人生。ずっと、ずっと、独りぼっちの人生。
そんなのは嫌だ。私は認めてほしい、褒めてほしい、孤独は嫌だ。
そう考えていると、私は
唐突にこのフィールド上にある氷の全てを完全に掌握した感覚。自分が何をどうすればこの氷を変化させることができるのか、唐突に理解した。
欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。彼が、欲しい。
その想いが氷を手の形に変化させ、彼を襲う。
しかし、難なく避けられてしまう。もっと、もっと実用的な形でやらなきゃ。氷を手ではなく、触手のような形にするとそれを歩に向ける。
それと同時に彼の足元を炸裂させ、肩に食い込んだ破片を爆破する。
あはははははははははは。歩の肩がぐちゃぐちゃになっちゃったよ。アハハハハハハハハハハハハハハハハあははははははっっっっ?
そうだ。これでいいのだ。
しかし、相変わらず彼の目は死んでいない。むしろ何か決心したようで、その目は燃え上がっているようだった。
でも何をしてこようと、こうなった私を止めることなどできない。
私はこの時はそう思っていた。
「あはははははッッはははははああははははっはははははっはははっは!!!! いくら縫合しても無駄だよ!! 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度でも破裂してあげるね。ぐちゃぐちゃにしてあげるよぉ。アハハッハハッハハッハアアアアアアハハハハはっはは」
興奮して叫ぶも、歩の姿はすでに消えていた。
「
そう呟く声が微かに聞こえた気がしたが、肝心の姿が見えない。
え? どこにいったの? 歩はまだ何か特殊なVAを持っていたの?
そう考えていると突然、背後から蹴りを食らう。バキバキバキと音を立てながら、肋骨が粉砕されていく。
「あああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!」
私はあまりの痛みに叫びながら、防御体制を作る。
これなら。この氷の防壁なら大丈夫だろう。
しかし、彼は素手でそれを砕く。
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。何がどうなっているの? なぜ素手で、体術のみでそんなことができるの? あなたはワイヤー使いでしょ? 何が、何が、どうなっているの?
もう、ここまでくると気持ち悪い。歩は一体何なのだ。今までクリエイターに喧嘩を売るような戦闘スタイル。まるで近接武器など関係ないと言わんばかりの、圧倒的強さ。
心が恐怖で震える。背筋が凍る。でも、まだ負けていない。まだよ。まだ、私はやれるわッ!!!!!!!
「負けらないのよッ!!!!!!!!!!! 私はッ!!!!!!!!!」
そして、手掌で氷を操作し歩を襲う。完全に入った。これで終わった。終わったのだ。今思えば長かった。何度も、何度も、心が挫けそうになった。でも私はそれでも前に進んだ。今までみたいに逃げなかった。
とうとうやり遂げたのだ、私は。嬉しい。嬉しい。やっと、報われた。やっと、歩を手に入れることができた。
「歩は、歩は私のもの!!!!!!! あははははっははははははあっはははアハハハハハハハ!!!!!!!!!!!」
歓喜。悦びで思わず声に出てしまう。
あぁ、私はこれでやっとたどり着くことができた。これからは歩と二人で寄り添って生きていくのだ。子どもは二人欲しい。そして、温かい家庭を作るのだ。もちろん、子どもには私のような思いはして欲しくない。伸び伸びと、子どもの意志を尊重して育てよう。きっと、幸せになれる。私はこれから幸せになるのだ。
余韻に浸っていると彼の姿が見えてくる。
あれ? 無傷?
そんなはずはない。あの攻撃は彼の能力でも避けることはできなし、ワイヤーで防ぐこともできない。
一体どうやって?
「どうやって、どうやって防いだの・・・? あなたのCVAじゃ防げるはずはないわ・・・」
「砕いたよ。全部、砕いたんだ。体術だけで全てを粉砕したんだよ。それだけのことだよ、葵」
砕いた? 体術だけで?
確かに、先ほどからワイヤーを生成せずに体術のみで戦っている。しかし、ここまでなのか? クリエイターはここまで素手で戦えるのか? そんな人は見たことがない。脳が理解しない。理解できない。
あいつは誰だ、と心が問う。あれは七条歩だ、と答える。
私は改めて思い知った。彼の想いの強さを。彼の努力の真髄を。
でも、私も想いの強さなら負けない。まだやれることはある。
「
氷の剣を大量に生成し、彼めがけて放つ。
しかし、やはり防がれてしまう。そして私の背後に回り込むと、彼は話しかけてきた。
「葵、もう終わりだよ。こうなった俺を止める
「まだよ。まだ私は負けていない。ただ攻撃を防いでるだけじゃない・・・ そんなのでいい気になるなんて、歩もまだまだね」
「そうか。じゃあ、ちょっと本気で行くよ」
「え・・・?」
私が、虚勢を張り、精一杯の強がりを言うと、彼はさらに加速する。
これはもはや、
でも、それが分かったところで何の意味も成さない。
徐々に彼が詰め寄ってくる。今度こそ、今度こそ、終わりにしてやる。
「私は負けられないのよおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」
創造する。万を超える氷の剣と触手を。触手で彼を狙いつつ、剣でピンポインで狙ってやる。万単位ならば、勝てる。私は謎の確信を得て、解き放つ。最後の力を、すべて振り絞って。
「四聖――――――
確かにはっきりとそう聞こえた。彼の髪の毛が微かに白色になると、次の瞬間彼はまた消えた。
だが、消えたと同時にフィールド上の万を超す氷で生成されたものが砕け散っていく。
歩の姿は見えない。でも氷だけは砕かれていく。
私はその様子を呆然と見ていた。
あぁ、なんだろうこの景色は。これは人間の領域を超えている。もはやファンタジーの世界だ。
なんて、綺麗なのだろう。次々と氷が砕けていく。あまりにも幻想的で現実離れした風景。
もはや、悔しいという感情はない。ただただ、美しいのだ。この光景が。そして、彼の心のあり方が。
さっきまでは気持ち悪いと思ってた。だが、やっと本当の意味で理解した。七条歩は純粋に上に行きたいのだと。どこまでも遠くに行くという向上心が彼の心を支えてるのだと。確かにその想いは常軌を逸しているかもしれない。でも、彼の根幹にあるのはそれだけな気がする。
一体全体何をどうすれば、あそこに辿り着けるのだろう。人の領域の外側に足を踏み込んでいるのではないだろうか。クリエイターはまだ進化するのか。
私は綾小路紗季の後天的能力理論は正しいと思う。才能なんてない。そんなものがあれば幼少期から誰が成功するかなどすぐわかる。しかし、現実は努力したものが成功している。才能ですら私たちは後天的に獲得し、創造できるのだ。
だからこそ、歩の努力はすでに人を超えている。これは生まれつきの才能などという言葉で片付けられるものではない。彼は、この歳にして辿り着いているのだ。私たちが遠く及ばない、未知の世界に。
あぁ、私は今まで何をしていたのだろう。彼が欲しかったのではない。私は・・・ 私は・・・・・・・
歩がフィールドに拳を叩きつけると、残り全ての氷が四散していく。
あぁ、終わったのだ。七条歩が勝利し、長谷川葵が敗北したのだ。なぜかこの時は客観的にそう思った。
今までの狂気じみた想いはもうどこにもない。彼の力に当てられてしまったのか、もう全てを知ってしまった。彼の本当の想い、そして私の本当の想いを。
彼は血まみれになりながらも近づいてくる。もはや恐怖はない。ただただ、尊敬する。彼の心は、その意志は崇高なものだと。決して揺らがない、鋼のような人だと。
それに歩の目も、以前カフェで話していた時と同じ、私が初めて恋したあの時と同じ目をしていた。
あぁ、彼を好きになってよかった。この想いが間違いでも彼でよかった。
でも、私は間違えてしまった。何か決定的に間違えてしまった。今思うと、深夜に殺人を行っていたのも理解できない。思い出すだけでも吐きそうだ。あれは本当に私なのだろうか。
あぁ、罪多き人生。きっともう、まともには生きれないだろう。その想いを込めて最後に歩と会話をする。
「歩ぅ・・・・・・・ 私、どこで間違えちゃったんだろうね・・・ 私はあなたが欲しかったわけじゃないの・・・」
「うん」
「私は、私は友達が、仲良く些細なことを話せる、そんな関係を求めていたの。認められなくてもいい。褒められなくてもいい。ただ純粋に心から笑っていたかったの・・・」
「うん」
「ごめんね・・・ 今まで迷惑かけて・・・・・・ 本当にごめんなさい。私どうかしてたわ。まるで誰かに迫られているようにあなたを求めて・・・ もう、私は・・・ これからどうしたらいいのかしら・・・・・・」
「葵、俺と今度こそ友達になろう。また二人でカフェに行ったり、料理を作ったりして色々と話そう。VAについて話してる君はやっぱり、どこか楽しそうだったよ。研究も続けなよ。俺は葵とこれからもっと話したいんだ。俺は、友達を見捨てたりしない。今の君はもう誰かに依存したがっている君じゃない。これからは、一人の人間として、長谷川葵として生きることができるよ。それと、以前葵言ったよね。助けてくれるの? って」
「うん、言ったけど・・・ あの時は・・・」
「葵。俺は君を助けるよ。ただのお節介かもしれない。迷惑かもしれない。でも、友達が困っているいるのに助けないわけないだろ? だからもう、今は休みなよ。また会おう。その時は二人でまた色々と雑談でもしようよ」
「そう・・・ ね。ありがとう、歩。じゃあ、私はもう疲れたから先に休ませてもらうわね」
「うん、じゃあまたね」
「うん、また会いましょう?」
私は、本当は認められなくても褒められなくてもよかったのだ。笑い合える、一緒に楽しく過ごせる友達が欲しかったのだ。
学校で楽しそうに過ごしている同級生が羨ましかった。彼らの笑顔は本物だ。私と違って仮面を貼り付けたような偽物ではない。
キラキラと宝石のように輝いている。
本当は、私の思い込みだったのかもしれない。女子に避けられているのも、男子に好奇の目で見られているのも。
私には一歩踏み出す勇気が足りなかったのだ。
でも、歩は最後に踏み込んできてくれた。今まで散々迷惑をかけてきたのに、やはり彼だけは私を救ってくれる。
でも以前のような想いはもうない。きっと彼は友人ならば誰でもそうするだろう。私だけが特別じゃない。
それでも私はこの瞬間、初めて誰かと友達になった気がした。友人には定義がない。友情とは論理や定義の届かない範囲に存在するのではないだろうか。
本能で悟る。
私は報われたのだろうか。もう、誰かのために生きなくていいのだろうか。自由に、長谷川葵として生きていいのだろうか。
きっと、もう私は誰かに認めてほしいや褒めてほしいといった感情は抱かないと思う。だって、自分が自由に生きれればそれでいいのだから。
誰の承認もいらない。一個人として、生きればいいのだから。
本当は両親にすら認められなくても良かったのだ。好きなように生きたい。私はやっぱり研究が好きだ。
VAについて考えている時、あらゆる理論を考えている時、苦しくて逃げ出したくても論文を書き続ける時、そこに私は確かにいたのだから。
私はもう見つけていたのだ。本当に好きなものを。生きるべき道を。
気がつかなかっただけなのだ。私は、私は今度こそ自由に生きる。
七条歩のように自由に、自分の想いのままに生きるのだ。
これから私はどうなるかわからない。脳が軋むように痛いし、殺人を犯した罪もある。もう、まともな生活は送れないかもしれない。
でも、初めて友達ができたのだ。きっと、歩はこれからもずっと友達でいてくれるだろう。今後どうなろうが私はそれがたまらなく嬉しかった。
意識を失う前に微かに声が聞こえた。
「あとは任せてくれ、葵。全ての元凶は俺が打ち砕くよ。君の友達の七条歩がね」
あぁ。ありがとう、歩。私はあなたに会えて幸せだったわ。ありがとう、本当にありがとう。
それ以降、私の意識は途絶えた。でもきっとその時、私はちょっと嘲笑していたと思う。
なぜそう思うか知りたいって? それは秘密。私だけの秘密よ。
この想いは一生忘れないわ。ありがとう。
そして、さよなら、歩。
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