第2章 Rapport-Love Addiction-

ICH 東京本校 校内選抜戦 予選

第21話 校内選抜戦 前日

 

 校内選抜戦。三校戦ティルナノーグに出場する5人の枠を決定する為の戦い。3学年それぞれタイムアタック上位10人をまず選出する。そして、学年の代表10人でリーグ戦をし、その中から上位3人を学年代表とする。


 最後に各学年3人の代表が決まったら、今度はその最終戦として9人でリーグ戦をし上位5人を代表とする。このルールはICH東京本校、大阪校、福岡校共通である。


 例年1年生の代表はほぼおらず、3年生が代表の過半数を占める。しかし、今年は名門有栖川家の令嬢とテロリストを撃退したと噂される謎のワイヤー使い。この二人の存在によって、今まで以上に校内選抜戦の熱は高まっていた。



「おい、歩。とうとう明日からだな」


 昼休みになり、学生食堂で歩と雪時は昼食をとっていた。


「あぁ、そうだな」

「実際どうよ? 体調は大丈夫なのか?」

「あの事件からまだ一週間しか経ってないからな、本調子ではないな」

「おい、そんなんでタイムアタックはいけるのか!? 予選落ちは勘弁してくれよ!!」

「は? 俺の本戦出場と雪時になんか関係性があるのか?」

「あれ、歩は知らないのかコレ」


 そう言うと雪時はデバイスに映したモニターを歩にみせた。


「えーっと、現在優勝オッズ1位は生徒会長、2位は有栖川華澄? なんだこれ?」

「賭けだよ、賭け。学校非公式だけど、もはや公認されてるようなもんだな。毎年結構な金が動くみたいだぜ?」

「まじかよ... 意外とそういうエンタメ的要素もあるのか、一種の祭りだな」


 雪時は歩の話しを軽く聞きつつ、デバイスを懸命に操作していた。


「歩は……お、7位だな。無名の一年にしちゃ大分だいぶ上のほうなんじゃねぇの?」

「まぁ例のテロ事件が関係してるかもな」


 理想アイディールとの戦闘の詳しい内容は噂されていないが、歩が何かしたという噂はICH 東京本校でかなり広まっている。歩はその噂が関係していると考えた。


(でも、おかしいな。噂の広まり方が普通じゃない。いくら超情報社会だからと言っても限度がある。これは第三者が故意に拡散してるな、どういう目的かは知らないが……)


 少しの間黙って考え込んでいると、雪時が再び話しかけた。


「で、予選のタイムアタックはどうなんだよ」

「タイムアタックはなんとかなるかな。俺のCVAはワイヤーだからタイムアタックに向いてる。ただ全力は出さない。本戦に向けて出来るだけ情報は少なくしたいからな」

「でも、歩のCVAとVAはもう漏洩リークされてるだろ」

「そうだけど、実際に見られると見られないのとじゃ大違いさ。そこは上手くやるよ」


 歩は食事の残りを食べながらそう答えた。


極限集中アブソリュートゾーンを使ってちょうど一週間。CVAの展開は大丈夫。だけど、支配眼マルチコントロール俯瞰領域エアリアルフィールドの使用はもうしばらく控えた方がいいな。こりゃ、一筋縄じゃいかなさそうだ)


「で、本戦はどう考えてるんだ?」

「今年もおそらく生徒会長は必ず最終戦までくるだろうな」

「あの人は別格だよなぁ、去年の三校祭ティルナノーグ準優勝だもんな」

「会長はCVAとVAは基本的なものだが、熟練度がもうプロの域に達してるからな、正攻法で勝てる学生は間違いなくいないな」


 歩と雪時は食事を終えたが、これから始まる校内選抜戦についてしばらく話し合った。


「あとあのルックスな! 黒髪長髪であの日本刀は似合い過ぎだぜ! そりゃ、あんなに強くて可愛けりゃ人気もでるよな」

「確かに、会長可愛いよなぁ……」


 歩も同意する。しかしそこで第三者が話しかけてきた。


「誰が可愛いって?」

「「え???」」


 歩と雪時が振り返ると、そこには華澄と彩花がいた。


「やっほ〜、二人とも!」


 彩花が挨拶をする、華澄もそれに続く。


「あなた達、どうせ会長の事でも話してたんでしょ? どうなの、歩」

「いやぁ、華澄には敵わないな……そうだよ、会長のことだよ……」


 何も後ろめたいことはないのに、歩は物凄く緊張していた。そしてとりあえず華澄のことを持ち上げておいた。


(なんだ? このプレッシャーは? 何かとてつもない威圧感を感じる……)


「ふーん、二人ともああ言うのが好みなんだね。かなりミーハーだよね……」


 彩花は皮肉をこめて二人にそう言う。同性としての嫉妬か、クリエイターとしての嫉妬かは分からないが彩花と華澄が不機嫌なのは明らかだった。


「あ、ふたりはどうなの? 明日から予選だけど」

「お、そうだそうだ。有栖川さんは本戦狙ってるんだろ?」


 咄嗟に話題を変えようとする、二人。その表情はかなり疲弊しているようにみえた。


「何言ってるの? 全戦全勝で代表入りするわよ」


 唖然あぜんとする3人。華澄と一緒にいる彩花までも呆気あっけにとられたようだった。


「でも、実際のところあの会長とどう戦うんだ?」


 歩はすぐさま疑問を投げかける。というのも、華澄が何か対策をもっているなら聞き出したいと思ったからだ。


「それは……」


 昼休みの終わりが近づいてくるが、会話はさらに熱くなっていく。



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