第2話 恩の大きさ



 抗体組織 東京本部


「ふーん、本気で入れるつもりなの?」


 ……という事で、突発的に起きた非日常イベントをこなした俺は、抗体組織加入希望者を連れて、本部まで来ていた。


 目の前には、普通の会社と変わんないような建物。

 最初の頃は、たかが学生の身分で入るのは気後れしてたけど、今は慣れたもんだ。


 近藤さんを案内しながら、後始末班と入れ替わる様に本部へ。

 移動手段は徒歩じゃなくて、本部提供のワゴン車だった。

 

 一応今はまだ目撃者という扱いなので、逃亡の恐れがあるかもしれないとこういう感じ。

 俺としてはあんまり好かないけど、しょうがないよな。

 ここで起これたらちょっと格好いいんだけど、同じ学校に通っている身でも、近藤さんとは何の接点もないし、まだどういう人かよく分かっていないし。

 

 ああ、出現していたナイトメアは、無事に退治されたらしい。

 後始末班がプロとしてちゃんと討伐したそうだ。

 元は人間だから、色々手続きとかあるし、目撃者がいた場合の記憶操作も必要なので、まだ現場にはエージェントが数名残ってるはずだが、小一時間もしない内に終わるだろう。


 で、そういう専門の部署の人の所まで付き添った後は、一時お別れ。


 近藤さんは手続きの為に今は別室にいる。

 俺は報告書を書くために、部屋の一つを使っているところだ。

 だが、話を聞きつけたらしい理沙と水菜がやってきたのだった。


「組織は、危険な業務をこなすわ。一般人がやりたがるとは思えない」


 それで、さっそく二人からはそんな感想。


 俺だってそう思ったよ。

 でも、あの後色々言ってみたけど、近藤さんの意思は固いようだったし。

 何を言っても、入ります戦いますの一点張りだった。


 とりあえず思い当たる理由としては、


「実は血の気が多かったとか?」


 それぐらいしかなかったが、まさかだろう。

 見た所気弱な少女その者と言った感じだったし。


 ケンカ上等な人間には見えなかった。


 首をひねっていると、水菜が思わぬ角度からきっかけをもたらしてきた。


「彼女、もしかして。貴方に庇われた事があるんじゃないかしら」

「ふぁ?」


 俺が助けた事がある?


 そう思って真っ先に思い浮かんだのは、理沙と水菜、北海道支部の職員たちだ。


 俺の長くない人生の中で、明確に人を助けられたと感じたのはあの時の出来事だけだろう。思えば空回りの多い人生だった。


 なんてプチ人生改装してると、何かがひっかかった。

 いや、待て。

 前になんかあっただろ。


 ちょっと格好悪い感じに終わったけど、確か……。


「あの時のカツアゲのか!?」


 北海道に飛ばされる前に、上級生に絡まれてる女の子を助けた事があった。

 その時の女の子の顔が、ちょうど近藤さんに重なる。


 どうりで俺の名前をよんでたわけだ。

 同じ学校だったから、悪い意味でしってたのかなーとおもったんだけど。


 とりあえず謎が一つとけた。

 接点があったと言うのなら、俺にノート貸してくれたのも分かるし、ナイトメアから助けた時もすんなり助けられてくれたわけだ。


 けれど、そんな小さな恩、命をかけてまで返すもんじゃないはずだ。


 世界中のどこでも起こってるような出来事で、貸しを一つ作ったに過ぎないのに。


 水菜はそんな俺の顔を見て、こっちの考えを否定するように首を振った。


「恩の価値は、その人にしか分からない事が多いわ。例えばあの日の北海道支部での出来事……私達にとってはかけがえのない大切な友人を解放してもらって、一般人である貴方に助けられた恩がある。けれど、貴方にとっては縁のない敵を倒して、縁のない人達を助けたにすぎないのだから」

「なるほどなぁ」


 水菜様の分かりやすい例えだった。


 俺がささいな事だって思ってても、近藤さんにとっては何か大きな事だったのかもしれないな。

 カツアゲから救ってあげた事自体は大した事だと思わないけど、彼女にも色々な事情があるのだろう。



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