第3話 付きあってって、どういう事ですかい?



 あのいけ好かない男と水菜の関係は何なのか。

 未踏鳥が去った後、俺は水菜に一言謝った後尋ねていた。


「ナイトメアウイルスを消滅させるための散布役の研究だって?」

「そう、その為にデータを提供している。悪い事ではないわ」


 何か似たような事は効いた事があった。新しい薬を開発したとしてもすぐに使うことはできなくて、実際に被験者みたいな人が、使ってみて様子をみるみたいな。


 内容としてはそんな感じで、人の役に立っているような話だったが、だからと言って「はいでーですか」と頷けるわけがない。

 同意を求めて理沙に聞いてみるのだが……。


「あんな物言い、許せるかよ。理沙はどうなんだよ」

「わ、私だって許せないわよ。でも、あんたあの人が誰だか分かって言ってるの? 組織のトップよ。私だって……、私だって……」

 そんな反応だ。


 うつむいて、拳を震わせるだけ。

 こいつ、意外とビビりのようだ。


 それとも、簡単にキレる俺がおかしいのか。

 でもナイトメアには果敢に立ち向かえたのに、権力が怖いとかおかしくねぇか。


「何にせよ、貴方はこれ以上、気にしなくていい事よ」


 色々事情を聞いたが、水奈は頑なな態度で教えてはくれなかった。

 前に訓練室にいる時に、二人の名前についての話を聞いたことがあったが、それについて関係があるのだろうか?


 それはそうとデートをする事になった。


 ……。

 …………。


 ちょっと待て、何かおかしくないか?

 何でそれで、デートなんだよ。





 訓練、日常、訓練、日常……そんな休みのないハードな日々に一区切りつけるように休日がやって来た。

 俺は駅前の広場、噴水の前に立ちながらぼけーっと、している。


 目の前でハトが誰かが落とした食べ物をついばんでるという、割とのんびりした光景を眺めながら、こんな事になった理由を考えてみた。


 あの後、組織長とか呼ばれた男が退室していった跡、水奈は俺に向かって一言言った。


「今度の日曜日、予定が空いているなら付きあってほしい」


 何の前触れもなく。

 そんな事を、だ。


「ちょ、水奈、アンタどういう」


 理沙が慌てた様に水奈の顔を覗き込んでいる。


 うん、俺の思考回路おかしくないよな。

 びっくりするのが普通だよな。


「えー……と、それって新しい訓練とか、そういう類のイベントだったりするのでしょーうか?」


 俺はあまりの同様の大きさで若干バグった言語機能で、そんな風に聞き返した。

 要約して再確認。


 円滑なコミュニケーションをするには必要なことだよな。


 しかし、水奈は首をふるふると振って否定。


「私の、個人的な時間を共有してほしいというお願い」

「「え」」


 ……え?


 エェ――――ッ!!


 何だこれ、何が起きてんだこれ。


 え、現実?

 俺の耳壊れてたりしてない?

 もしくは脳発狂してたりしない?

 もてない男のひそかな願望が行き場を失って現実を都合よく見せてるとか、そういうのじゃないよな? 本当に。ほんとうのほんっとうに。


 頭を抱えて、妄想が剥がれ落ちないかブンブンと振ってみる。


 ……落ち、ない!

 現実……だと!?


「ちょっと、二人っきりで……でっ、デートなんて駄目よ。ヘタレで一見無害そうに見えなくもないけどこいつ男なのよ。襲われたらどうするのよ」


 一足早く復帰したらしい理沙が猛抗議。

 色々言いたい放題だな。

 そういうのは本人がいないところで発言してくれませんかねぇ。


 で、それに対しての水奈の反応は、無表情に……。


「問題ない」


 そう、発言した。


「!」


 も、問題ないっ!?


 爆弾だった。


「彼はそのような人間ではないと私は思う」

「そ、そっちか」


 いや、ただの不発弾だったようだ。良かった。

 でもな、そんな全幅の信頼寄せられると何かこっちも重いっていうか。

 理沙の発言を肯定するわけじゃねけけど、俺だって一応男だぜ?


「そっちでも問題よ! 危機感を持って! 状況によっては男と二人っきりなるかもしれないのよ、水奈!!」

「どうして理沙がそこまで言うのか、私には分からない」

「いい加減自分の容姿を自覚して。今まではそういう事言う輩はいなかったけど、水奈の目の前にいるのは、欲望に忠実な何も知らない一匹の雄なのよ」


 おい。


「水奈だって聞いたでしょ、前にこいつが水奈の事をその……か、かわ…とか言うの」

「皮?」

「可愛いとか変態発言するのよ。……いひゃいっ!」


 さすがに我慢ならなかった。

 理沙の柔らかなほっぺをつまんんで、軽く捻らしてもらった。


 お前なぁ、さっきからちょっと言いたい放題すぎるんじゃねぇか?


「水奈の意識も大概だけど、お前の男嫌いも大概だぞ。何だよ。何か恨みでもあんのかよ」


 理沙は、頬をぎりぎりしてた俺の手を払いのけると、涙目になりながら反論してくる。


「違うって言うんなら証拠見せてみなさいよ」

「そんなのお前等とこんな格好で一緒にいて、何もないのが証拠じゃねぇか」


 トレーニングウェア。

 運動しやすくかつ発汗性の良い服。

 たいへん薄くできていらっしゃる。


「こ、こんなかっこ……、い、いやらしい目で見ないでっ」

「おーまーえーはぁっ!!」


 理沙は自らの体を抱きしめ、鳥肌を立てている。

 被害妄想極まりすぎだろ。

 どういう育ち方したら、こんな娘さんになるんだよ。


「なら、理沙も一緒に来ればいい」


 このままでは埒があかないと判断したのか、水奈が仲裁案を出してきた。

 やっぱそうなるんだなぁ。

 こいつら何か、片方ついてきたらもう片方もオマケでついてきそうな関係だな。



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