第24話 見えた光明
「それで、澤田くん。優香ちゃんって、学校ではどんな感じなの?」
「えっと、それは、まぁ」
部屋に通されたはいいが、自分の調子で話を続ける静香に洋介は困惑を隠さないままに付き合っている。
「お母さん、私の話を聞いてたかしら?」
その都度、優香が間に入って母の話を止めていた。このままでは時間ばかり過ぎてしまう。この母ならやりかねないと優香は思っていた。
実際、自分の話を始めると静香は時間を忘れて話し続けてしまうのだ。
「聞いていたわよ。あの浜に、珍しい鳥が流れ着いてなかったかってことよね。そういえば、ちょっと噂にはなっていたかしら。優香ちゃんが来る前日くらいね」
静香も話は聞いていたようで、すんなりと答えてくれた。
(そうです、それが聞きたかったんです)
この一言までが、とても長かった。洋介はすでに疲れてしまっている。
「本当、優香ちゃんは動物だけには甘いんだから。ここに来る時にもムーをどこに預けるか、たくさん調べていたらしいの。そうそう、そのムーを優香ちゃんが拾ってきた時にね」
また思い出話に移行しようとする意思を静香から感じ取った優香は、キッと強い視線で母を制した。少しだけ
「分かりました。その話は、また今度にしましょう。ね、澤田くん」
パチン、と可愛らしく片目を閉じる静香。こういう細かい所作が本当に若い。洋介の頭の中にある母親、という印象をことごとく壊していく。
「ははは、そうしましょう」
洋介は愛想笑いで肯定する。このままでは、話の進まなさに優香の苛立ちが頂点に達してしまう。その前に聞き出さなければいけない。
「でも、優香ちゃんから聞いてみると確かにおかしな話よね。珍しい、珍しいって話はたくさん聞いたのに実際にどんな鳥だったかは誰も言わないの。私も知らないけれど、きっと皆さんも知らないのね」
静香の持っている情報も、あまり他の人と変わらない。しかし、親身になって一緒に考えてくれるのは身内ならではだろうか。
静香の記憶にあるのは、世間話のような感覚で話されるものしかない。誰も見たことのない鳥がいた。誰かが捕まえたらしい。それは誰、という話は聞かない。どんな鳥だったのかも、誰も知らない。
「優香ちゃん、こういう
「お母さん、その話はいいから」
すきがあれば優香に関する昔話を洋介に聞かせたい静香に、優香は常に気を抜けない。何を話されるか、予想がつかないだけに恐ろしい。
「う~ん、もしかしたら捕まえたはいいけれど逃してしまったのかもしれないわよ。それだと、最初の発見者以外はどんな鳥なのかは知らないでしょう」
「……それはありえないのよ。他の人から聞いた話を考えると」
優香はリィルからの情報はぼかして静香に伝えている。
「ね、ね、何でコレ
その張本人は部屋の片隅でライツに耳を引っ張られている。確かに大きさは人と同じくらいだが、リィルのそれは丸みを帯びている部分が少しだけ角ばっている。
ライツ自身の耳は人間と同じ形をしているから、彼の耳の形が珍しいのだろう。だからといって、この空気の中で好奇心が優先されるのはさすがライツといったところか。
「ライツ。オレ、ねぇさん達の話聞いていたいから」
さすがにリィルも困惑していた。
(まぁ、あいつらは置いておこう)
洋介は視線を静香に戻す。それに気づいた静香は、優香と話している最中なのに再度ウインクをした。
話の流れは元に戻ったが、結局有力な話は出てこない。手詰まりか、そう優香達が思い始めた頃。
「奥様、それでしたら山向こうの鳥獣保護センターじゃありませんか」
思いもよらぬところから、新しい話が降ってきた。
「あら、
部屋に入ってきたのは、静香の生活を助けてくれている手伝いの大隅だ。時々検診にやってくる医者だけでは、という思いで優香の父が雇った人物である。
優香の家庭教師として雇われている
彼女も、この雇用にすぐに飛びついた。子ども進学のために町を出たということもあって、仕事を探していたから、この話は渡りに船だったのだ。
「お邪魔してます」
洋介が会釈すると、大隅はにこやかに笑った。
「こんにちは」
そして、すぐに優香の耳元でひそひそと話し出す。
「お嬢さん、ボーイフレンド連れてくるなら教えておいてくださいよ。そういうことだったら、私もちゃんと準備しましたから」
「……? えっと、私の友達が来ることは伝えておいたはずですが」
大隅の言葉に込められた意味に優香は気づかない。聞こえてくる単語で、大隅が何を言いたかったのか察した洋介は居心地が悪そうに座りなおした。
「それで、大隅さん。その鳥獣保護センターというのは」
優香は大隅のボーイフレンド発言は全く気にせず、自分の気になっていることを彼女に問う。
「そうそう。もし、野生の鳥ならそこに運ばれているんのではと思ったんですよ。一昔前ですけど、近くの島で固有種が見つかった時に研究施設が作られたんです。今は、野生動物を保護する活動をしていると聞きましたから、おそらく」
「そこにロォルがいるっ!」
リィルの大声で、大隅の最後の言葉は
「ふわぁ」
あと一人、ライツがあまりの声量に撃ち落とされてフラフラと床に舞い降りている。
「どうかされました、お嬢さん」
耳を気にしている優香に、大隅が声をかける。優香はニ、三度首を横に振って大隅に問い直した。
「ええ、大丈夫です。それで、その鳥獣保護センターはどこにありますか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます