地元愛に溢れる物語です。
熊本の土地勘に明るければ、ああ、なんとなくあの辺りで褌一丁だったのかとその様子が目に浮かびます。虎退治と息巻きながらも、将棋を指して荒事を起こさず解決しようとする様が滑稽で愛らしいです。どこか抜けている熊本人です。
して大きな猫がたいぎゃむぞらしかです!(そして、大きな猫がとっても可愛いです)
誰や、虎んごたるとかいうたモンは!(誰だ、虎のようだとかいう奴は!)
物語を読み進める最中、そんな風に頭の中でツッコミを入れていました。
作者の芝村さんについて今更言うまでもない話ですが、セリフや解説に頼らず、言い回しや小道具、背景、わずかなキーワードでその時代を表現される手法が大好きで、いつも勉強させていただいております。
追伸
熊本でしたらまた飲み会開きます!
この作品がおもしろいのは、著者がプロだから? 有名人だから? いいえ、違います。おもしろいからおもしろいのです。たとえこの作品が無名の誰かが書いた物語でも、間違いなく私は「おもしろい」と言っていました(作品を見つけることができるかどうかはさておき)。そして、そんな作品を書ける人間は決して多くありません。
「大きな猫がいる」という、ただそれだけの状況、たった1つのフックからここまで魅力的に掌編を描ける人が、どれだけいるでしょうか。文体の端々から感じられる筆力と、たしかな知識にもとづいた説得力のある描写。そして、猫と熊本への愛。
この物語の舞台となった場所へ行きたいと、そう強く思わせる魅力がこめられた作品です。