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そんなある日、いよいよ彼が自分の行ってきたことの恐ろしさに気づく時がやって来たんだ。彼が家に篭りきりになって一週間が過ぎた頃だっただろうか。突然、彼宛に手紙が届いたんだよ。彼自身、手紙をよこすような友人に心当たりがなかったから、不審に思いながらも封を切ったんだ。するとね、そこにはこう書いてあったんだよ。
『突然お手紙をお送りするご無礼をお許しください。窓辺に佇む貴方のお姿を陰ながらいつも拝見している者です。私はずっと以前より、貴方に惹かれ、焦がれていました。そうして貴方のことを遠くよりずっと見つめていたのです。ただ最近の貴方は特定の女性にばかり気を取られて、すっかり私のことなど忘れてしまわれているようですね。私がこれほどまでに貴方に焦がれているというのに……。あの女性の部屋が貴方のお部屋から見えることは私も存じ上げております。それでも何とかして貴方のその思いを断ち切りたい。忘れさせてしまいたいのです。その為なら手段は選ばぬ所存で、このお手紙を書きました。どうか私の気持ちに気付いてください。そうでなければ私が壊れてしまいますわ。貴方の為ならどのような事でも致します。貴方があの女性を忘れてくれるのなら、私の中に芽生えた悪意を実行に移すことだって躊躇いませんわ。それほどまでに貴方が好きなのです。早く私の存在に気付いてください。』
その手紙を読み終えた彼は震えてしまってね、恐ろしさのあまり、慌ててカアテンを閉めたんだ。そして一瞬だけ正気に戻った彼は気付いたんだよ。彼が今まで行ってきたことの恐ろしさにね。Aさんへの想いの大きさから行ってきた数々の行動が、不気味に思い返されてね、彼もどこかで誰かに同じことをされていると思うと、居ても立ってもいられなくなったんだ。まぁ、彼が行ってきた愚挙は人としてあるまじき行為であることは間違いなかったからね。彼は一度だけ大声で叫んだ後、その場に蹲り動けなくなってしまったんだ。
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