協力者か、共犯者か。
退魔師の世界には明確な序列が存在する。しかし、唯一その序列から離れている人物がいる。
––––彼女の名を「
–––––某日、光陽台市。
町外れにある、鎮守の森に囲まれた小さなオンボロ神社「神代神社」の片隅に作られた、掘っ建て小屋の縁側。
巫女服を模した、白い
退屈そうにぼんやりと空を仰ぐ彼女の傍らにひらりと白い人影が忍び寄る。
「ハローハロー、お久しぶりね!純刃ちゃん。私よ、アウローラよ。ちょっと家に入れてくれないかしら」
零れ落ちそうな金色の瞳、粉雪色の肌に絹のドレス。燐光を放つ白髪を揺らし、アウローラは気さくに話しかけてくる。天女の如き容貌に不釣り合いな
「ハァ……。私に一体何の用なの?毎度毎度アポも無しに来やがって、嫌がらせのつもり?」
「やっだぁ、そんな訳ないじゃない!私、こう見えて忙しいんだから。で、物は相談なんだけど。ちょっと私の息子に加勢してくれない?」
子どもにお使いでも頼むような口ぶりでとんでもないことを言い出すアウローラ。もはや純刃は二の句が継げない。というか、彼女の無茶ぶりはいつものことだった。過去にもさんざんワガママを言われていた彼女は、とっくに諦めモードに入っている。
「……どうせ、そんなことだろうと思ったけど。託人さん、今度は何と戦っているの?」
「うふふ、なんと私の元主人よぉ。どうだ、凄いでしょう!驚いたぁ?」
悪戯が成功した子どもみたいに笑う彼女に、
「あぁもう、あんた本当に親なの⁉︎いくらなんでもそれは危険よ!たとえ私がいたとして、生きて帰れる保証なんてない!いや……、きっと失敗する。みんな、死んでしまう……」
悲愴な表情でアウローラの胸倉を掴み、言い募った。
「考え直して!今すぐ止めて。駄目よ、それだけは絶対に、駄目っ……」
「……安心して。あの方の封印は、完全な形で解けた訳じゃないの。あの方は能力の大半が使えない。
真っ青な顔で世界最高峰の巫女は尋ねる。
「……詳しく説明しなさい」
何故、夜光姫が「最強にして最恐にして最凶」とまで言われ、「万能にして無敵」と畏怖されているのか。
それは、彼女が持つ能力に所以する。
一言で言えば、異世界そのものを創成する能力。
例えば一面火の海の大地の世界。例えば夕暮れに包まれた街並みの世界。例えば荒廃した未来都市の世界。例えば無限に広がる工場の世界。
それら異世界–––––タウンと呼称されるものには、固有の特性が存在する。火の海の世界は煉獄を生み出すことができ、夕暮れの街の世界は対象を過去の時間に閉じ込める効果を持つ。
その特性は現実世界において「能力」という形で作用する。煉獄を生み出す特性ならば、炎の剣を作り出すといったように。
つまり、彼女の生み出した世界は、そのまま彼女の能力となる。だからこそ、夜光姫は「万能」と謳われた。
「
「まだ、肝心なことを聞いていない。何故貴方はあの化け物を復活させた?何の目的で」
厳しい目線で真っ直ぐにアウローラをぴたりと見据え、純刃は追及の手を緩めない。
「ふふふ、それはナイショ♪……と言いたいところだけど、それでは貴方が納得しないでしょう。だから、ヒントを上げる。それは……千年前よ」
千年前。その言葉に彼女から一切の表情が消え去った。
「…………そういうこと。やっと分かった、アンタの狙いが。だから今回はその目論見に乗ってあげる。でも忘れるな。お前は、いつか必ず、私と託人さんで封じてやる」
憤激に輝く黒曜の双眸と愉悦に染まる金の瞳がかち合う。
「いいわ、ずっとずーっと、待っていてあげる。貴方達が私を殺しにくるのを」
あはは、と笑いながら空気に溶け消えていく純白の後ろ姿を睨めつけ、巫女は宣言した。
「馬鹿を言うな。私達退魔師は殺し屋じゃない。殺すものか、それよりも辛い目に合わせてやる。覚悟しろ!」
自身が宮司を務める神代神社の宝物殿へ入り、純刃は一振りの刀を手に取った。文庫本と同じくらいしかない小さなその短刀は、殺傷を目的としたものではない。
退魔師が自分より強い妖怪・魔物を倒す時のための守り刀だ。
「逃すものか、絶対に。この私が全力を尽くして必ずお前を斃す。だから、
––––力を貸して」
巫女として、退魔師として、一人の人間として、純刃は誓いを立てる。手の中の短刀が仄かな光を纏い始めた。
TO:夜光姫による独話
ずいぶんと昔の話なのだけど。どうか聞いてくれる?あら、酷い。そんな嫌そうな顔をしなくてもいいじゃない。え、年寄りの話は長いから嫌だって?まあ、否定はしないけど…って、こんな美少女に年寄りってどういうこと?
まぁ、とにかく。
私ね、生まれた頃からずーっと独りぼっちだったの。失礼ね、別に可哀想な女じゃないわよ。もう、話を逸らさないで。……ごほん。
私は、人間が持つ恐怖という本能と想像力から生まれたこの世で最も恐ろしい化け物。だからこそ規格外のチカラを有している。人間に近い見た目なのは、私ができるだけ人から浮かないようにするためよ。……けれど、どんなに人に近づけても、人間の真似をしてみても、人にはなれない。それに気付いた時、もう私は永遠に独りだと、全て諦めてしまったの。
……でもね、そんな私を好きだと言ってくれた、変わったやつもいた。
え、誰かだって?嫌よ、貴方になんか教えてあげない。そうね、でもヒントをあげる。千年前のことよ。ここまで言えば分かるでしょう?
はぁ、サッパリ分からないだって。ああもう、仕方ないなぁ。本当にこれはとっておきの秘密なんだからね、話してあげるだけ感謝しなさいよ?
昔々、まだこの国が「平安」と呼ばれていたころのことよ––––……。
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