第59話 脱出ルートと潜入ルート
薄暗い廊下を、ミミルと手をつないで歩く。本当は走りたいところだが所々が老朽化していて危険なために、気をつけながら進むしかない。
道が崩れていたりして行き止まりになっている場所があるが、何度も通っている俺には問題なかった。
「グレイさ、ザラさたちが迎えに来るまで部屋で待ってた方がいいんでないだか?すれ違いになっちまったらマズいべ」
「ザラたちが来るとしたら、きっとミミルが連れてこられたのとは別の道だ。見張りとかたくさんいたろ?上の方は倉庫と事務所を兼ねてるらしいから、商売道具を守るためにも厳重にしてるんだろうさ」
「別の道の方は誰もいないだか?」
「もちろんいるだろうな。あの怪物を運び込んだのもそっちの道だろうし。でも倉庫の方よりは少なくなってるはずだ。俺の
「グレイさの仕事、だか?」
ミミルの問いにうなずく。
今が俺が連れてこられた理由を話す時だろう。
「俺をここに連れてきたヤツは、顔見知りの商人でな。見た目通り、金のためなら平気でなんでもするようなヤツなんだよ。そいつが大きな損失を取り戻すために、デカい仕事を引き受けたんだ。とある怪物を手なずけるって仕事をな」
「それをグレイさがやらされてんのか?」
「ああ、俺は【調教】
「そんな大変な仕事だっただか。グレイさは平気なんか?怪我とかしとらん?」
ミミルに心配させないために、不敵に笑ってみせる。
「もちろん俺は強いからな。疲れはするが、死ぬほどじゃない」
「そっか、よかっただ。でも無理をしたらダメだべよ。……それで、その怪物ってどんなのだべか?オラ気になるベさ」
「ああ、あれは……」
◇◇◇
ミミルが倉庫内に連れて行かれた後、ザラたちは小さな二艘のボートに乗って合図を待っていた。
装備は後から合流したジークロードたちが用意した。ザラの役に立てたことを、ジークロードはとても喜んだ。
「まあオレは勇者の子孫だし?これくらい簡単さ。なんたって信用があるからな。ザラさんもオレをもっと頼ってくれていいんだぜ」
「ハイハイすごいすごい。わかったからしばらく黙ってなさい。そろそろミミルから合図がくるはずよ」
ジークロードはザラに褒められたことを無言で喜び、仲間に冷たい目で見られていた。
そのまま数分待機していると、風のうなる声がきこえてきた。ひとつは倉庫の方から、そこにいた男たちの慌てる声をいっしょに運んでくる。そしてもうひとつ、すぐ近くの水路の壁から聞こえてきた。
「そこ、板で塞がれてる所よ」
すぐにボートを近づけ板を押せば、見た目以上に簡単に外すことができた。一部だけ外しやすいように作られていたのだろう。中は意外と広く、塞がれた部分を全部外せばちょっとした船も通れそうだ。
「見張りは先の部屋に二人。それだけよ」
「では、ここはワタシが行きましょう」
言うが早いか、パドマがボートから跳んだ。そのまま水面を蹴って加速し、あっという間に木で組まれた足場にたどり着く。
音に気づいて見張りが飛び出して来たが、武器を構える前にパドマが制圧した。
「すげえ、水の上を走るとかウソだろ?」
「この程度、やってできないことではありません。それよりも早く来てください。何かイヤな予感がします。いそいでグレイ殿を助けなければ」
パドマに急かされ、全員が足場へ上がる。
占い師がジークロードに手をかしてもらう時に、彼へ小さく問いかけた。
「ジーク、あなたも気配を
「ああ、どうやら
ザラが先頭に立って、暗い廊下を早足に進む。風の精霊が知らせた道をたどっているのだろう。壁が崩れた部屋を通り、床に空いた穴に飛び降りて迷わず進んでいく。
ジークロードたちはそれについていくので精一杯だった。
「これ、敵にばったり出くわしたりしないよな?遭遇戦になったら危ないぜ」
「いないわよ。こっちにいたのはあの二人だけ。隙だらけにもほどがあるわね。もう少し先に大きな部屋があるわ。そこから先はもっと道が悪いから、アンタたちは待ってなさい。アタシたちだけの方が早く進めるわ」
「いや、そういうわけにはいかない」
「アンタたちに合わせると遅くなるのよ。戻る時はちゃんと連れてくから、大人しく待ってなさいよ」
ザラの言葉を聞いて一番驚いたのは、すぐ後ろにいたパドマだった。ザラがヒュマをここまで気遣うのを見たのが初めてだったからだ。そんなザラの様子を気にしていたせいで、ジークロードがすぐ横を追い抜いていくのを見過ごしてしまった。
ジークロードはザラの肩に手を置いて立ち止まらせる。ザラは反射的にその手を振り払おうとするが、彼が真剣な表情をしているのを見て手を止めた。
「なによ、何か言いたいことでもあるの?」
「この先に、大きな部屋があるんだよな?そこに本当に敵はいないのか?」
「え、ええ。そこに人はいないはずよ」
「そうか。でもそこにいるはずだ、オレたちが探しているヤツが。感じるんだよ、勇者の血ってやつのせいでな」
精霊魔法も万能ではない。精霊に協力してもらうために、意思を伝える必要がある。
ザラが風の精霊に頼んだのは【通れる道】と【人】の存在を教えることであり、それ以外のものは精霊が気まぐれを起こさない限り知ることはできなかった。
ザラの先導で道とは言えない道を通って、大きな扉の前までたどり着いた。扉の目の前には大きなものが通れるほどの道があるが、今は木箱で塞がれている、
ザラが扉の前で振り返ると、ジークロードたちは武器をかまえてうなずいた。ゆっくりと扉を開け、中の様子をうかがう。人の気配がないことを確認するとジークロードたちが一気に部屋に突入した。続いてザラとパドマが静かに入る。
ジークロードたちは戦闘態勢で身構えている。彼らの視線の先には、見上げるほどに大きな生き物の影があった。
その影がゆっくりと動き、正体を現す。
その怪物は、鋭い牙と爪を持つ竜であり、おぞましいことに、その体には全裸の美女が埋まっていた。
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