第45話 テレグ山道 3

 リョウゾウは飛竜のドロップアイテムを回収してキルマーの前まで戻った。


「飛竜の素材ゲット!ミッション達成だな」

「リョウっちやったね、いえーい」

「いえーい」


 2人はハイタッチをして喜びを分かち合う。


「あとは向こう次第だけど、合図は来たか?」

「いや、まだだよ。もうしばらくここで粘る必要があるね」

「しゃーねえな。なら俺らで敵をみんな倒してやるか」

「それいいね!……って思ったけど、ちょっと無理そうかも」


 キルマーは大きな羽音を聞いて顔を引きつらせる。いっしょに振り返ったリョウゾウは、それを見て思わずうめき声をもらした。

 そこには、彼らに向かって飛んでくる4匹の飛竜の姿があった。




 


 リョウゾウ達の後方、山の斜面の陰ではミミルがバリスタを構えていた。

 キルマーが打ち出した光球のおかげで、4匹の飛竜の姿が離れていてもはっきりと見える。


「ああっ!飛竜がいっぺんに来ただよ。いくらなんでも、これはまずくないだべか?」

「ミミルさん撃って、撃って下さい!」


 すぐ傍にいたいたピピリリがミミルに詰め寄るが、すぐにエロイサに止められた。


「ダメでありんす。いま撃ちなんしたら、こちらの居場所がバレてしまいんす。わっちらだけでは、飛竜を倒すことなどできんせん」

「でもキルくんが、このままだと危ない、です」

「あの2人ならまだ無事でありんす。わっちが応援に向かいんす。ピピリリは、ミミルさんを守ってておくんなんし」

「あ、エロイサ待って!」


 ピピリリが手を伸ばすが、エロイサはすでに闇の中を駆け出していた。

 消えた仲間の後ろ姿を寂しそうに見送るピピリリに、ミミルがそっと声をかける。


「ピピリリちゃん、きっと大丈夫だ。グレイさたちも今に戻ってくるで、なんとかなるだよ」

「うん、……そう、だよね」


 ピピリリは離れた場所で戦いを繰り広げる仲間たちを見て、こぶしを強く握りしめた。



◇◇◇



 遠くで光球が打ちあがるのが見えた。色は赤が三つ、マジヤバイピンチを知らせる信号だ。考えられるのは予想よりも敵が強かったり多かったりして、どうしようもなくなったというところだろうか。

 その後も連絡用の光球がポンポン打ちあがっているので、まだ少しは余裕がありそうだ。

 あれだけ大見得を切ったのだから、粘ってくれるだろう。

 それにしてもこっちはこっちで忙しいというのに、敵さんも予想通りに動いてくれないから困る。

 さてどうすればいい?考えろ、考えるんだ。限られた人数しかいないこの状況で、どうやってこのピンチを乗り切ればいい?

 まずは情報が必要だ。今どうなっているのかが分からなきゃ、決断のしようがない。


「ザラ、避難はどのくらい進んでいる?」

「八割がた終わってるわ。アタシはこっちじゃなくてヒュマ退治の方に行きたいんだけど」

「お前だとリョウゾウ達も巻き込むだろ。それにまだまだやってもらいたいこともある」


 ザラとともに周りの状況を見直す。

 ここにはヒュマにさらわれた亜人の村人たちが集められていた。そこの見張りを俺たち3人で倒し、抜け道を使って避難させている真っ最中だ。

 数が多いので少し時間がかかったが、全員無事に逃がせそうだ。

 自然に対して働きかけることができる精霊魔法は、大がかりな事をするのにとても便利だ。


「ザラはこの人たちを送り出したら一緒について行ってくれ。その時に作った道を塞ぐのも忘れるなよ。せっかく逃がしたのに、追いかけられると面倒だからな。リョウゾウ達の方はたぶん飛竜がいっぺんに出てきたんだろ。防衛のためにほとんど残すと思ったけどな」

「アタシにそんな面倒くさいことをしろって言うの?」

「我慢してくれ。それに飛竜相手だったら適役がいる。そうだろ、パドマ」

「お任せください。ワタシが全て退治して参ります」

「そこまでしなくていいから。あっちのヤツラと合流して、無事に逃げられるようにしてくれ」

「わかりました。では行ってまいります」


 理解が速いとこういう時にとても助かる。ザラも不満そうではあるが、村人に呼ばれたようでそっちへ行った。

 ここまではこれでいい。できることの最低限はこれでやった。

 問題はここからだ。

 俺は、どうすればいい?

 戦力としては並。体力はあるが攻撃力は普通で素早さはダメ。敵が高機動の飛竜あるいは手に負えないくらい沢山の兵士だとしたら、足手まといになりかねない。

 ならザラと一緒に村人を避難させるか。それなら最初の予定通りだし、もしかしたら追ってくるかもしれない兵士相手なら余裕でこなせる。

 そうする方がいいんだろうけど、向こうの方がどうしても気になってしまう。


「グレイ、ちょっとこっち来て!」


 どうするかを決めかねたまま、呼ばれるままに行く。ザラの周りでは数人の村人が、兵士から奪った武器を持っていた。

 俺が近づくと、村人の中で一番ガタイがいい男が寄ってきた。


「あんたが大将だな。頼みがある、俺たちもヒュマ退治に加わらせてくれ」

「何を言ってるんだ。そんなことさせられない」

「頼む!ヤツラはオレたちの村を台無しにしやがったんだ。それにアンタたちが助けてくれなかったら、オレたちは奴隷にされるところだったんだ。やり返してやらなきゃ気が済まねえ。オレたちだって戦えるんだ。足手まといにはならねえ。なあ、いいだろ」


 男は目に怒りをみなぎらせている。俺はその目の奥を黙って見つめ返す。


【種族:フェルパー

理性:32    】


 公開情報が少なすぎる。俺たちのことを信用しきれてないのだろう。

 でもそれは当然だ。突然現れた見知らぬ冒険者を完全に信用することなんてできるはずがない。

 ただそれだと俺の言うことを聞いてはくれないだろうから、彼らの安全のためにも連れて行くことはできない。


「ダメだ。早く避難するんだ」

「なんでだ!オレだって絶対に役に立つ!」

「アンタらの仕事はヒュマを退治することじゃない、村の仲間を守ることだ。ヒュマに台無しにされた村を、再び立て直すことだ。ヒュマと戦えば死ぬかもしれない。そうしたら、アンタの村の仲間はどうなる?家を直すこともできず、麦を収穫することもできず、冬に暖まることもできなくなる。アンタの力が必要なのは今じゃない、これからだ」

「オレの力が必要なのは、これから……?」

「そうだ。俺はアンタの村のことはよく知らない。だがアンタは村のことを知っている。そうだろう?でも俺はヒュマとの戦い方を知っている。だからここは俺に任せて、アンタらはアンタらの戦いをするんだ。それは俺みたいな冒険者にはマネできない、大変なことだろ」

「そう、か。そうだな。分かったよ。オレたちは、オレたちの村を守るよ。時間を取らせて悪かった。オレたちのことはオレたちに任せてくれ。その代わりに大将たちは、ヒュマをこてんぱんにやっつけてくれよ」

「おう、任せとけ」


 彼らが最後だったようで、遅れた村人たちを守るようにして抜け道を進んでいった。

 ザラは村人たちを追いたてるようにして、呪文を唱えて抜け道をふさいだ。それから戻ってくると、俺の頭を軽くはたいた。


「言うじゃない。見直したわ」

「褒めてくれるのは嬉しいけど、そんないいモノじゃないよ」


 聞こえの悪い本音を隠さなきゃならないのは、俺が強くないからだ。

 弱そうだから心配されて余計な気を使わせて、でもそれだとマズイから騙すようなことをしなくちゃならない。

 俺だって本当はこんなことたくない。胸を張って俺に任せろと言いたいのに、自分に自信がない。


「照れることないわよ。さあ、ヒュマ退治に行きましょう」


 そう言って笑うザラの期待に応えられるようになりたいと思った。

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