第22話 おもてなし

 ドワフ親子の再会を眺めながら、パドマに回復薬を渡す。ザラは木によりかかりながら周囲を見ていた。

 ミルドとポルトが野盗の武装解除をしていたので、協力しようと申し出た。


「おうグレイよ、ミミルが世話になったみたいだな。あのバカまさか戻って来ているとは思ってなかったべ」

「気にすんなよ。それに、ミミルも野盗を1人倒してたぞ」

「本当だべか?いったいどうやって」

「あの鎧で押しつぶしたんだよ。あれは俺もギリギリで持てるくらいだったからな。ヒュム1人には難しいだろうな」

「ガハハ!当たり前だべ。ドワフの力自慢たちにも無理だったくらいだべさ。しかしオークスがそれほど力持ちだとは聞いたことなかったべ」

「ただ単に、重量限界が大きいだけだ。技量はドワフに及ばないから、重い武器は使いこなせない」


 ゲームの攻略板には技量特化のオークス育成法なんてのもあったが、もともと不人気種族だったから使っている人を見たことがなかった。

 だが俺自身が強くなるためには、そういう方向も選択肢の一つかもしれない。ゲームの方法そのままは難しいかもしれないが、考えてみる価値はあるだろう。


 砦の外でのことを簡単に話してから、今度は中であったことを聞く。

 ミルドたちはザラの攻撃によって慌てた野盗のスキをついて、砦にうまく浸入した。野盗たちは完全に浮き足だっていて、まともな指示を出せる者がいなかったらしい。

 その結果、割と簡単に邪魔な野盗をひとりひとり無力化させることができて、地下に捕まっていた夫婦を助け出せたようだ。

 起きたことを分かりやすく話すのはポルトの方が得意なようだ。ミルドはポルトの話を頷きながら聞いて、時々あいづちを打つだけだった。


「中に残ってるヤツが少なかったから外は大変かと思ったが、要らない心配だったようだな」

「まあな。殆どパドマとザラが倒してくれたよ。俺はまた大した活躍はできなかった」

「いやいや、ミミルを助けたんだろ?十分なお手柄だよ」

「んだ。あのバカがしっかりしとらんから迷惑かけたべ」

「そんなことないよ。そもそもあそこでミミルを1人にしなければ、捕まることはなかったんだから。今回はミミルを叱らないでやってくれよ」

「だどもな……」

「グレイの言う通りだろうね。あそこで俺たちが追い払ったから、ミミルちゃんは捕まったんだ」


 ミルドは納得できないようだったが、ポルトに言われるとしぶしぶ頷いた。


「わかっただ。じゃあこの話はこれくらいにして、とっとと帰るべ。早く村さ戻らんと、日が暮れちまうからな」


 ミルドの提案に頷いて、俺たちは砦を後にした。


◇◇


 村への帰り道は、来る時とほとんど同じだった。変わったことといえば、助け出したドワフの夫婦が加わったことくらいだ。

 彼らは傷らしい傷もなく、けっこう丁寧に扱われていたらしい。ヒュムたちは奴隷にして鍛治をさせるために攫ったようだ。

 父親の名前がガルドで、母親はママル。ガルドの鍛治の腕は、辺境ではもったいないくらい見事なものらしい。ミミルだけでなく、ポルトもそれに同意していた。

 それとミミルがしきりにかついで欲しがってきたが、俺も疲れていたので回復薬を押し付けて痛めた足を治してもらった。不満そうな顔でなにかブツブツ言っていたが、なにがそんなに気に入らないのだろうか。


 そんな風にして村に辿り着いたのは、空が赤く染まり始めたころだった。

 森から出ると、空の広さにひとり感動していた。こんなに広い空を見たのはいつ以来だろうか。ビルも電柱もない世界は青く深く、とても清々しい。

 村に入ると、ミルドとポルトは冒険者ギルドへ報告に向かった。残された俺たちはミミルとその両親によって、彼らの家に招待された。


 ミミルの家は、祖父母・両親・ミミル・弟とその奥さん・妹の7人家族だった。

 広い面積に石造りの平家があり、そこに鍛冶屋が併設されている。今は親父さんが受け継いでいるが、お祖父さんも弟も一緒に働いているらしかった。


「危ないところを助けていただき、ありがとうごぜえました。この恩は一生忘れねえべ」


 全員の紹介が終わったところで、ガルドが頭を下げてきた。


「そこまでかしこまられると困ります。俺はミミルたちに頼まれて、力を貸したにすぎません。お礼なら彼女たちに言ってください」

「いやいや、あんたらがいてくれんかったら、ワシもママルも助からんかった。それはミルドも認めてるべ。だから、精一杯のお礼をさせて欲しいべ」


 ガルドが頭を下げると、並んだ家族も一緒に頭を下げた。

 なんというか、すごく背中がこそばゆい。俺はこういうのには慣れていないんだ。


「わかりました。それじゃあ、よろしくお願いします」


 こうして俺たちは、ドワフの鍛冶屋一家にもてなされることになった。






 1時間もしないうちに日が暮れると、ビルも街灯もないこの世界は先の見えない闇に覆われる。でも家の中は不思議な光る石で明るく照らされていた。

 これは俗にトーチと呼ばれるもので、結界石と同じように魔力を込めて使うものらしい。冒険者たちは棒の先に取り付けて、懐中電灯みたいにして使っているのだとか。

 俺たちはお客様なのだからと、座っているだけで次々と料理が運ばれてくる。パドマが手伝いを申し出たが、いいからいいからと力強く座らされていた。

 ザラはミミルの妹に色々質問されて困っている様子だったが、その妹がママルに怒られ連れて行かれると、少し名残惜しそうな顔をしていた。

 ある程度料理が出てきたところで、ガルドが大きな樽を運んできた。中身は麦酒らしく、嬉々として大きなジョッキに注いで俺たちの前に置いた。そして自分とお祖父さんの分も用意してからジョッキを掲げた。


「全部そろうまで待ってる必要ねえべ。ワシらはもう先に始るべさ。ちゅうわけで、ワシらを救ってくれた恩人に感謝だ!乾杯!!」


 料理を食べながら、ガルドにこの世界のことを聞く。

 辺境の村であるこの村は、ヒュムたちが多く住む国とそれ以外の国を分ける国境線の近くにあるらしい。

 大きな大陸の北半分がヒュムの国。南半分がそれ以外の国なんだとか。

南半分の東側には森と沼地と砂漠と草原があって、西側にはでっかい山がどどんとあるらしい。

 それと、ヒュムの国については全然知らないようだ。


 そんなものすごく大雑把な説明を、ガルドさんが身振り手振りで話してくれた。

 お祖父さんも一緒になって話しているけれど、内容は大して変わりない。鍛冶についてならいくらでも話せるようだが、それ以外のことについてはあまり興味がないようだ。

 他の国について知っていたのも、どこそこではどんな鉱石が採れるのかという方面から調べたようだった。


「ところで、この村は大陸のどの辺りになるんですかね?」

「それはだな……えーと」

「真ん中の北辺りだべ。東に森のキレっ端、西にお山の裾があって、石も燃料も手に入りやすいここに開拓村を作ったって曽爺ひいじいちゃんが言ってたべ」


 言いよどんだガルドの横から、料理を両手に持ってきたミミルが代わりに答えてくれた。そして料理を俺の目の前に置くと、なにが面白いのかニコニコしながら戻って行った。


「ここはドワフの開拓村だったんですか。だとすると、この村に住んでいるのはほとんどドワフ族ですか?」

「いやいや、ドワフばっかだったのは最初だけだべ。森も山もダンジョンエリアになっとるのが近くにあるから、すぐさま冒険者ギルドがやってきて、あれよあれよという間に色んなのがやって来るようになっちまったべ。まあワシらの道具がよく売れてくれるから、別にいいっちゃいいんだがな」


 あまりよく回れなかったけれど、この村は意外と広いらしい。村の施設の場所を聞いていると、想像していた村の規模をはるかに超えていた。

 村の中央に大きなかなめの結界石があり、それがあるから壁を作らなくてもモンスターが近寄ってこないのだとか。


「この村さ作ったのが、ドワフの王子様だったんだべ。だから気合いいれてでっけえ石さ持って来ただよ。今じゃ村の守り神さまだっちゅうて、お宮まで建てちまっただ。冒険者ギルドの近くにあるっけ、明日見に行くといいべさ」


 そう言ってガルドは、ミルドとよく似たガハハ笑いをした。


 料理が出そろったタイミングで、ミルドとポルトもやってきた。ギルドへの報告にけっこう時間がかかったらしい。


「グレイよう、悪いが明日また砦まで一緒に行ってほしいだ。ギルドから言われてな、砦に置いてきたヤツラの回収の手伝いしろと言われたんだべ。だども、もちろん金はギルドに出させる。んで、グレイたちのギルド加入の査定に追加されるように説得してきただ」

「本当か!ありがとう。俺みたいな出身の怪しいヤツはダメだとか言われたらどうしようとか思ってたんだ。助かったよ」

「冒険者の半分くらいは素性の怪しいヤツラだべ。グレイは実力もあるし協力的だし、嫌がるギルドなんてあるわけないべ」

「おうミルドにポルト、お前たちも座れや。もう一度乾杯のやり直しをするべさ」


 ガルドにうながされて2人も席につき、大家族に囲まれての夕食が始まった。すでにけっこう食べていた俺は聞き役に回って、いろいろなことを教わった。

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