もしもの話

有瀬 悠

彼岸達成

「遅効性殺人薬?」

「そ。これを飲んだ人は、5年後に死ぬ」

「んなアホな……」

「お前がアホに悩まされてるから、こんなアホな薬を持ってきてあげたんだ。感謝せえよ」

「確かにアホには悩まされてるけどさ」

「そんなアホなお前がアホを殺すためのアホな薬」

「どさくさに紛れて俺をディスらないで」

「薬の使い方は簡単。相手に飲ませるだけ」

「簡単なように見えてハードルが高い」

「大丈夫さ。この薬は液体。無味無臭。水とパッと見て変わらん」

 ぼくは瓶に入った透明な液体を渡した。

「これ、本当に効くのか。本当に5年後に死ぬのか」

「シミュレーションは全て成功。生体実験はもう少しで結果が出る。おおかた、間違いなく効果があるだろうな」

「ふうん……」

 お前はそう言って瓶を静かに見つめた。

「もう一度言うが、効果が出るのは5年後だ。ま、5年も後だから、お前がアホを殺した事なんて、誰にもばれないだろうさ」

「でもよ」

「悩むくらいなら動いてみろ。知ってるぜ? お前があのアホに悩まされて、色んな機関に協力を仰いだり、医療機関に診てもらってる事」

「確かにそうだけど」

「生体実験の結果が出てるわけじゃない。もしかすると効果はないかもしれない。効果が出たとしたって、分かるのは5年後だ。お前が悩む必要はない」

 うつむくお前をよそに、ぼくは内心笑ってたんだ。

「ま、絶対にばれないとはいえ、自衛のためとはいえ、殺人だもんな」

 ぼくは台所へ行く。戸棚を漁る。

「ほら、いったん水でも飲んで落ち着いたらどうだ」

 そうしてぼくは透明な液体の入ったコップを渡した。

「うん、ありがとう。……これ、例の薬じゃないよね?」

「何言ってんだよ。ほら」

 ぼくはコップに入った水を飲んで見せる。

 お前はそれを確認すると、同じコップの水を静かに飲んだ。

「ま、この薬を使うかどうかは、家に帰ってゆっくり考えればいい」

 ぼくはお前の手に瓶を持たせる。

「うん……ありがとう。じゃあ、また」

 そう言ってお前は帰った。




 数分後、外で何かが倒れる音がした。


 ぼくはそれを見に行く。


 外で、お前が倒れていた。

 苦しそうな顔をしていた。


 ぼくはにやりと笑う。


 そうして、お前の手をとる。


 すかさず脈をはかり、拍動が無い事を確認した。



 ぼくは、忘れないからな。

「そんな研究、何の役に立つの?」

 そういったお前の事を。

 だから飲ませたんだよ。


 お前に、薬を、5年前に!




 生体実験は成功だ。

 ぼくの悲願は達成されたんだ。

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