キレイな翼


 いつもうつむき加減だった顔を上げ、自分の事をアヒルだと思っていた白鳥は湖を泳いでいました。

 自分が白鳥だと分かってから、アヒル達は意地悪をしなくなりました。

「あら、あら。白鳥さんではありませんか。なんのごようでしょう?」

「まさかお前が白鳥だったとは。綺麗になったな」

 こうやって、少しアヒル達と仲良くなったのです。

 白鳥は、他の白鳥とも仲良くなりたいと思いました。だって、自分はアヒルとして育った白鳥なのですから、それができるはずなのです。

「まあ、あなたアヒルとして育てられたんですって? 苦労したでしょうねえ」

「これからは、私達の仲間よ」

 いつも一人だった白鳥にとって、それは何よりも嬉しい言葉でした。

 友達の白鳥はにっこりと笑って続けました。

「お昼、皆でおしゃべりをしましょう。アヒルさんたちとも一緒にね。湖の真ん中でまっているわ」

 言われた場所に来た白鳥は、ずっと他の鳥たちを待っていました。しかし、誰もくる気配はありません。ふと辺りが静かなのに気がつきました。見回すと、まわりに他の白鳥も、アヒル達もいません。いつも水を飲むために岸を歩いている鳩も、騒がしいカラスすらいないのです。異様な雰囲気に、嫌な予感がしました。

 急に、岸でしげみが動きました。草の間から、黒い筒が覗いていました。それが人間の使う猟銃だと分かる前に銃声が鳴り響き、白鳥は撃たれ、沈んでいきました。


 猟師が白鳥の死体を持っていったあと、それぞれの隠れ場所からアヒルが、他の白鳥がぞろぞろと出てきました。

「鳩の言う通り、本当に猟師がきたわ」

「お姫様のコサージュを作るために、鳥の羽を狙っているっていう話は本当だったのね」

「でも、コサージュでよかったわ。あいつ一匹ですんだもの! 大きいドレスや布団だったら、どれだけ仲間が犠牲になったか!」

 そう。人の近くにに住んでいる鳩が、狩の予定があることを聞きつけ、白鳥とアヒルに教えてくれたのです。しかし白鳥も、アヒルも、誰も撃たれた白鳥にだけはそれを教えてあげなかったのでした。それどころが、あの白鳥に狙いがいくよう、湖の真ん中におびき寄せたのでした。

 猟師が去って行った方をみながら、アヒル達はこそこそと話合いました。

「まったく、あの不細工が白鳥だったなんて! 私達は、がんばったって白鳥になんかなれないのに!」

「嫌な奴だったわ。自分がきれいになったのを、見せびらかしに来てたのよ! 仲良くなりたいなんて白々しい! いじめられていたのをまだ根にもってたんだわ!」

 白鳥達もひそやかに囁き合いました。

「下賤(げせん)なアヒルのところで育ったんでしょう? それなのに私達の仲間になりたいなんて、身の程知らずもいいところですわ」

「育ちが違いますものねえ。動作も無様で優雅さがありませんでしたわ。白鳥界のつらよごし……」

 白鳥達は岸に視線をむけました。そして、青い葉っぱの上にたれた赤い血が残されているのをみて、さもけ汚らわしいというように顔をしかめました。

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