他の幼馴染たちはといいますと

第65話① 渓が!(カンチョー。)

 桃代とユキが結婚した。

 

 幼馴染女子チーム全員の好意がユキに集中していたため大きな衝撃を受け、しばし途方に暮れることとなる。


 この中でいち早く立ち直ることができたのは菜桜。

 結婚のショックからおよそ一カ月。正月休みで実家に帰ってきていた千尋と偶然会って救われた。今では互いに結婚する意思を固め、幸せの真っ只中にいる。


 環は向こうで結婚して既に子供が一人いるらしい。



 上の二人はなんとかなりそうなのでいい。

 こうなってくると問題になってくるのが、残った幼馴染達+ミクである。

 全員顔はブスじゃない。というか、平均を上回るレベル。普通に告白される程には可愛く、性格も全く問題無い良物件なのだ。

 だがしかし、全員見事なまでにユキへの思いを拗らせ、他の男に目を向けることができなくなってしまっている。

 それほどまでにユキの優しさは心の奥深くまで浸透する。

 これを消滅させるには、強烈なインパクトとエネルギーが必要になってくるのだ。


 どうにかしないと!


 本人達も強く思っている。

 このままではいつまでも好きな人の幸せな姿を見せつけられてしまい、精神的にも非常によろしくない。

 頭では分かっている。

 しかし、どうにも切り替えができないでいた。




 そんな中、まず渓に動きがあった。


 年度初めのバタバタも一段落。通常業務に戻ったゴールデンウィーク明け。

 仕事が終わったタイミングで、


 ピロン。


 着信音。

 電話をポケットから出し画面を見ると母親。買い物の依頼だった。

 家の近所のホームセンター兼スーパーに寄ることにする。

 頼まれていたモノを見つけ、立ち止まる。

 棚の少し低いところに置いてあったため前屈みになり取っていると、背後で誰かがしゃがみ込む気配がした。


 下の棚のモノ取ろうとしよっちゃろか?はよ取って退いちゃらんと邪魔になりよるな。


 そんなことを考えていると、


「カンチョー。」


 聞き覚えのある声。

 直後、ケツの割れ目に指が入って来た。

 懐かしい感触だった。

 幼稚園から小学校低学年まで毎日のようにやられていたことを思い出す。

 ビクッとなり、ケツの肉が引き締まる。


「おっ!引き締まった!」


 このバカ!


 イラッとくる渓。

 人の目も気にせずこんなことをやってくるバカはあいつしかいない!


「え~くそ!」


 真後ろでウンコ座りして、渓のケツの割れ目に指を差し込んでいるバカタレの頭を振り返りざまに思いっきりぶっ叩く。


「いでっ!あははは!」


 ほらやっぱし。


 敬壱だ。


 会うのは高校を卒業して以来ぶり、な気がする。


「久しぶり!ツインテールやめたって?でったん可愛いやん。」


 本気で褒めてくれているっぽいが、人前でカンチョーされ恥ずかしかったため全く嬉しくない。


「お前ねぇ…久しぶりなら久しぶりらしくせんかい。人前でカンチョーやらすんなちゃ。ここ、スーパーぞ。恥ずかしいやねーか。バ~カ。」


 完全に呆れ果てている。


「ははは、ごめんごめん。渓のケツ見たら懐かしくなって…ついついカンチョーしたくなったっちゃ。」


 おバカなノリが懐かしいやら腹立たしいやら。

 チッ!と舌打ちし、


「アホか。ぜんっぜん理由になってねぇちゃ。」


「いーやん!久しぶりなんばい?」


 その「いーやん!」の意味が分からない。

 だから、


「いーわけあるか!久しぶりやきカンチョーするんか?女にカンチョーとか普通やったら通報もんぞ?普通に話しかけて来いちゃ。バ~カ。」


 ついついムキになる。

 が、


「分かった分かった。今度からそげする。で、今日は?」


 これっぽっちも悪びれちゃいない。

 それどころか、何事もなかったかのごとく話を変えてくる。

 ある意味スゴイと感心してしまうレベル。


「ん?親から買い物頼まれた。」


「オレも。この時間、よぉ買い物来るん?」


「たまにね。」


「そーなん?オレ、よぉ来よぉけど、初めて会ったよね?」


「そやね。高校ぶり?」


「うん。多分そげな感じ。」


 久しぶり!な会話をしながら買い物を続ける。

 レジを済ませ、


「さぁ、帰るかな。んじゃまた。」


「おぅ!じゃーね!」


 手を振って別れ、クルマに向かう。

 ドアを開け荷物を積み込んでいると、向こうから、


「渓っ!渓~!ちょー待って!」


 敬壱が走ってくる。

 声の方を振り返り、


「ん?どげした?」


 尋ねてみると、


「電話!電話おしえて?」


 だそうで。


「あら?お前、おしえちょらんやったんかね?」


 普通に仲が良かったため、既におしえていたはずだ。


 んじゃ、なんで?


 不思議に思いつつ再度おしえると、


「だいぶん前、ユキと釣り行ったとき電話水没させてからくさ。ポケットからポロン、コロコロコロげな。参ったね。完全にぶっこわけてデータ戻らんやったっちゃ。よかったぁ。ありがと!近いうち連絡すんね!今度飲み行ったり遊び行ったりしよ?」


 とのこと。

 渓との通信手段が復活して嬉しそうに微笑む敬壱。


「そやね。」


 返事をすると、立て続けに、


「そぉいやまだ釣りはしよぉん?」


 聞いてくる。


「うん。幼馴染とちょいちょい行くばい。」


 現状をおしえると、


「そぉなん?オレ、この頃仕事忙しいであんまし行けてないっちゃんね。今度やっと有給取れるごとなったき、日にち決まったら一緒行ってみらん?」


「うん、いーよ。」


 釣行が決定する。


「よし!じゃ、また近いうち連絡する。呼び止めてごめんやったね。」


「ううん。ならまた。」


「バイバイ!」


「バイバイ。」


 相変わらずバカなヤツ。

 でもまあ久しぶり会ってちょっと楽しかった。


 地元に住んどるのに会わん知り合いもまだまだおるんやな。


 そんなことをしみじみ思った渓だった。

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