第64話 夏はトップで!

 季節の進行とともに水温も上がってきた。

 それに伴い、魚達の活性もますます上がってくる。

 既に、チビやブルーギルが盛んにアタックしてきだしている。

 こうなると、熱くなってくるのが表層での釣り。


 トップウォーターの季節到来だ!

 

 

 

 中学生の頃やっていたのを「夏の釣り」として取り上げたことがあったが、今回はその大人バージョン。

 社会人になってから財力は上がった。よって、戦力は中学生の頃とは比べ物にならないほど上がっている。そしてユキと桃代は少し前結婚したため、互いのタックルも自由に使えたりするから、充実度もかなりのものとなっていたりする。

 その中でトップの位置づけなのだが、時期も限られ実行に移す機会も少ないものだから、それほど重きを置いていない。しかしながら楽しいことは分かっているので必要と思えるアイテムは最低限以上にある。

 あとはテクとタイミング。

 どれだけ腕は上がったのか?いい条件を見極めて、納得の成果を出せるのか?はたまた返り討ちにされるのか?


 というわけで、今回のお題はトップ!

 ヒットの瞬間上がる、あの水しぶきとワクワクドキドキを求めて!


 夏はトップで!


 始まります。




 二回目のバスブームが始まってどのくらい経っただろう?


 既にスピニングによるフィネスが通用しないポイントが何カ所かある。

 ワッキーやネコリグが通用しないポイントもある。

 それどころかワーム自体通用しないポイントもある。

 かといって、プラグで攻略できるかといえばそういうわけでもない。


 とにかく渋い。

 とにかく食わない。


 しかし、通用しないとはいってもたまに釣れるから、口を使わせる方法や条件はあるのだろう。が、どうにもそこまで辿り着けないのだ。


 それなのに今回は、あ・え・て・のトップ!


 トップ自体は大人になって久しぶりにやったわけでもなく、これまでずっと毎年やっている。で、ポツリポツリとは釣れている。ただ、最も結果が出にくい釣り方なので、他の釣り方のように検証はしなかった。フィネスですら食わないからやろうという気が起こらなかったのだ。


 幼馴染達を呼んでの家飲み。

 当然釣りの話になる。そして、季節的なものもあり、ネタはトップへ。


「あの頃より上手くなっちょーはずやし、もしかして釣れるんじゃね?」


「なら検証してみよう!」


 と、アルコールの勢いで釣行決定。




 検証当日。

 場所は少し下流のゴロタ場。

 大人数で入って検証するのに適した規模のポイントを選択した。


 実際、大冒険なのである。

 返り討ち必至。


 今回のお題は先程も述べたがトップ。

 シバリのルールとして、サーフェスクランクで釣ったのはトップとして換算するということ。逆にダメなのが、バズベイトが沈んでいるとき食ってきたヤツ。判定は難しいが、ここは申告者の自己判断と良心ということで。

 勿論、保険的な意味合いでワーム用のタックルは持ってきているが、いよいよ出ないときの切り札としてしか使わない気でいる。


 この日のメンバーはユキ、菜桜、千尋、環。後から桃代が合流することになっている。

 ちなみに夕飯の買い物で、近所のホームセンター兼スーパーに行っている。

 この中で唯一の既婚者で子持ち。ある程度独立した家族であるため、家事をする必要がある。しかも好きなので率先してやる。

 子持ちという点では環も同じだが、今の時点では相方がいないため張り合いがない。それなりに家事はしているものの同居だし、母親の手伝いをするくらいの感じ。休日、幸に昼食を作るくらいである。近々結婚はするから変わりそうだけど。

 ちなみに千尋と菜桜も近々結婚する。

 幼馴染達の結婚ラッシュがこれから始まるのだ。


 結婚の話はさておき。

 準備開始。

 全員巻きとワーム(ベイトフィネス)のタックルを1セットずつ。こいつらのオカッパリスタイルで言うところの「そこそこ重装備」である。これは、通常のオカッパラーに言わせると通常装備なのだが。

 幼馴染達の考える通常装備とは、サオ1本のみのことである。


 トップのタックルは以下の通り。

 ユキ

 サイラス68MG+カルカッタコンクエスト100

 ナイロン16ポンド

 サミー


 千尋

 白疾風+ミリオネア凛牙SLC

 ナイロン14ポンド

 ポップX


 菜桜

 サイラス68MG+ジリオン100P-CC

 ナイロン16ポンド

 ラトリンチャグバグ


 環

 ブラックレーベルFM701MHFB+タトゥーラ103H-TW

 ナイロン16ポンド

 YABAIチュッパ


 桃代

 ブラックレーベルFM7102MHRB+リョウガ2020

 ナイロン20ポンド

 ガニッシュ



 思い思いの場所に散って実釣開始!

 只今時刻は13:00。

 初夏の昼過ぎ。


 朝マズメのようにはいかないか?


 しかし、真夏の真昼間でもトップには出る。これは実釣で実証済みなので信じてやり続ける。

 延々とキャストしては巻き、キャストしては巻き。

 が、食わない。

 回遊してきてないのか?それともプレッシャー?

 ルアーをローテーションしながら、なおも続ける。そして約一時間。

 ポイントを休ませるためにオフ。

 30分ほどみんなで駄弁る。桃代も既に合流している。


 次は、目線を変えさせる意味も込めてベイトフィネス。これに反応してくれないと、今日持ってきているタックルじゃなす術が無くなってしまう。

 4インチカットテール。カラーは黒。オフセットフックを使用し、ストレートセッティング。シャンクに板オモリを巻いてフォールスピードを速くする。


 ゴロタ場の境目にキャスト。


 ツ―――…


 ファーストフォールでは食ってこなかった。2回目はどうだ?

 サオを立て、ワームを浮き上がらせる。


 ツ―――…


 ?


 糸の生み出す波が僅かに変化。魚の突くような動きが沈んでゆく糸に出る。聞くと若干サオ先が残る感じがした。


 バイト!


 一呼吸待って思いっきしアワセる。が、すっぽ抜け。


「何じゃ?ショートバイト?それともギル?」


 すかさずその場でフォール。

 再びツン!ツン!とサオに感じるほどのアタリ。

 アワセる。

 が、ノらない。


「ギルか。」


 とりあえずアタリが出たということは、食う可能性があるということ。

 しばらくこちらで頑張ることにする。

 一旦回収し、少々ポイントをずらしてキャスト。


 ツ―――…


 突如沈む速さが変わる。比較的大きな波を立て流心方向に走り出す。


 食った!


 一呼吸おいてサオを大きくあおり、アワセを入れる。

 弧を描くサオ。まあまあの重量感。ドラグが僅かに滑る。


「来たばい!」


 申告するユキ。

 全員が集まってくる。


「結局ワームか。やっぱ、トップはキビシーかの?」


「うん。そうかも。でもオレ、これ上げたらトップ再開するよ?」


「そーなん?じゃオレも続行する。」


 ファイトを見守る千尋。

 上がってきたのはガリガリに痩せた40up。8ポンドフロロでも軽く抜き上げられた。


「うわ~…どアフター。でも、エビのヒゲ出ちょーきエサは摂れよるみたいやね。」


「こげなんばっかなら、トップ出きらんかもね。」


「かもしれん。早過ぎたかな?」


「かもね。」


 ハリを外し、記念撮影をした後、そっと水に浸けてやると勢いよく戻っていった。

 各々いろんなことを想像しながら元の場所へ戻ってゆく。




 ユキはポップX。

 トップのタックルに交換し対岸を狙う。ちょうど沈んでいる杭が数本あるポイントだ。このタイミングで弱いながら風が吹き出した。


 もうチョイ強くなったらトップ難しいかな?でもポッパーで爆風の中釣ったことあるしな。頑張ってみよっかな?


 とは心の中の声。


 隣(といっても互いにフルキャストしてもなお余裕がある)で釣っていた環が


「おっしゃ!」


 声を上げる。そちらに目を移すとサオが大きな弧を描いている。


「環ちゃん、いーなー。」


 そうつぶやき、サオをそっと置いて環の元へと走って行く。





 環目線ではこんな感じ。


 ん?風…。


 頬に風を感じた。

 川面には小さなさざ波が立ち始める。


 んじゃ、バズ。


 風が吹いてきたタイミングでゲーリーのバズベイトに交換していた。

 そして小移動。

 狙うのは対岸にある大木のオーバーハング。先程狙ってはいたがしばらく休ませていたポイントだ。サイドハンドで低弾道のロングキャスト。さらにスキップさせて奥までねじ込んでいく。


 ヴ―――ン…チャポ。シャラララララ…


 表層を一定スピードで引いていた数投目。


 チュボ!


 金属音を立て、水しぶきを上げながらこちらに向かっていたバズベイトが突如消えた。

 ちょうどオーバーハングの境界線辺り。


「おっしゃ!」


 後ろにのけ反りながら、力いっぱいアワセる。

 同時に弧を描くサオ。

 ファイトが始まった。

 反転し、オーバーハングの中へ突っ込む。

 絡むものはなかったはず。

 巻くのを止め、耐える。

 突進が止まるとサオを立て、強引にリールを巻いてゆく。

 エラ洗い。

 ブレイドが太陽の光を受け輝いた。


「つえーぞ!」


 必死こいてリールを巻く環。

 全員が寄ってくる。

 腕力は女子としてはある方だが、桃代ほどではない。

 苦戦していた。

 突っ込みに耐え、エラ洗いをかわし、徐々に寄せてくる。

 激しく抵抗を見せるものの、アシストフックが付いているので慌ててはいない。

 さらに強引に巻く。

 足元まで寄ってきて、掛かり具合を目視。

 アシストもメインも両方掛かっている。


「せーの、よっ!」


 両手でサオを持って抜き上げた。


「イエイ!トップ第一号!」


 誇らしげにピースし微笑んだ。

 測定すると42cm!

 お腹の凹みも分からなくなり、尾びれは欠けてはいるが、血は出ていないアフター回復系。


「いーなー。」


 桃代が羨ましがっている。

 風の吹き始めたタイミングを読んで出した一本。

 見事としか言いようがなかった。

 記念撮影後、そっと逃がすと深場へゆっくり戻っていった。

 全員、元の場所へと散っていく。




 千尋は対岸のブレイクを狙っていた。

 ワームでの実績場で、先程4インチヤマセンコーでデカいのを数本釣った。

 いるのは分かっているのだが、果たして…。


 ポップXのカラーローテーションで狙い続けていた。

 数回ポップ音を立て、波紋が消えるまでポーズを繰り返す。

 丁度ブレイクを真下にしてポーズ。

 すると、


 パチャ!


 ルアーが浮いている辺りで小さな飛沫が上がる。


「ん?」


 念のためアワセると、ゴミが引っ掛かったような重量感。


 浮いちょった葉っぱでも拾ったかな?


 そんなことを考えながらルアーを回収すると、細長い銀色の魚が。


「ははは。ハスやん。」


 15cm程のハスが食ってきていた。

 まあまあ常連のお客さん。

 コイ科では恐らくウグイと並んでメジャーな部類。

 ハスはフェザーの付いたフックが好きだったりする。ポップXのリアフックのフェザーを食っていた。


「とりあえずトップでも釣れた!これもカウントしていい?」


 喜んでいる。


「イチオーバス釣りぞ?それは入れたらいかんやろ。」


 菜桜からダメ出しを食らう。

 ハスは弱いのであんましガッツリ握ると死んでしまう。フックを持ち、何回か振って外してあげると勢いよく水中に消えていった。


「さ。次はバスやな。」


 ヤル気満々でキャスト再開。




 そうしている間に菜桜。

 ぼちぼち暑いピークは過ぎ、日も傾きかけたタイミング。

 オフってみたり、小移動したり、ワームに替えてみたりしながらスレさせないように頑張った。

 今のところチビバスをベイトフィネスで数本上げている。ボーズではないが、やはりここはトップで釣っときたい。

 ベイトフィネスから巻きのタックルにチェンジした一投目。

 ルアーはラトリンチャグバグのホットタイガー。


 ヴ―――ン…ポチャ。


 キャストして波紋が消えるまでポーズ。


 最初のアクションで、


 カポッ、カポッ…


 バシャ!


 水柱が上がって、ルアーが視界から消えた!

 同時に糸が走る。

 それを確認してアワセ。


「よっしゃ!」


 重さがサオに乗り、一気に対岸へと突っ走る。

 耐えて、巻く。

 菜桜のリールはギア比が低いためゴリ巻きできる。


「うお~!よー引く!」


 走られながらも必死に歯を食いしばり、リールを巻き続ける菜桜。

 千尋が、


「頑張れ!」


 応援している。


「おぅ!任せろ!」


 エラ洗いしない。

 重く鈍い引き。


 違う魚?


 それでもいい。

 トップで出てくれたことに感謝だ。

 目の前、数mまで寄ってきた。

 ここで反転。


 体色が見えた!バスだ!しかもかなりデカい。


 前まで寄ってきているものの、そこからがなかなか寄ってこない。

 流心に向かって突進したり、横方向に走ったり。

 フックの掛り具合が分からないためかなり怖い。

 更にサオを立て、リールを巻くと、やっと魚体が見えた。


 太い!


 ハーモニカ食いしているので抜き上げたいが、ちょっと重すぎる。

 サオが折れそうなのでハンドランディング。

 口に手を突っ込めないので、腹辺りを鷲掴み。


「取った!」


「ぅお~、ふって~!」


 桃代が感動している。


「すげぇな。」


 環も絶賛感動中。

 1kgは楽勝で超える丸まると太ったいい魚だ。

 全長を測定すると46cm。


「これがトップで出たら検証成功やろ!」


「そやね。環もデカいの釣ったしね。」


「よーし!あとは釣ってないヤツらでガンバろ!」


「おぅ!」


 いつもの如く記念撮影後、魚を逃がすと全員元の場所に戻っていく。

 必死で頑張ってみるものの…釣れない。


 結局トップで釣ったのは菜桜が最後だった。

 夕方になり、糸も見え辛くなってきたので、今回の検証は終了とする。


 釣果が伸びないところがいかにもトップらしい。

 しかし、返り討ち覚悟で挑んだトップ縛り。

 この厳しい条件下での2本は大したものだ。


 後日、この結果は参加できなかった幼馴染達にも伝えられ、各々がそれぞれのスタイルのトップで頑張ることとなる。

 意地になって釣った甲斐あって、この年は全員トップで1本以上は釣ることができた。





 なかなか釣れないトップ。

 だからこそ釣れた時の感動は特別で、大きくなくてもひときわ輝いた魚となる。

 いくら釣れなくなってしまったとはいえ、条件さえそろえば反応してくれるヤツがいる。

 だから、これからもこの感動を求めて、意地になって頑張ってみたいと思う幼馴染達であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る