エピソード63/二人になると

高校2年生になって、木綿子ゆうこあつしが交際を始めた。


それまで毎日の様に俊之としゆきの家に集まっていた絵美えみ由佳ゆかと木綿子だったが、木綿子だけが平日にアルバイトをする様になる。


そして木綿子が俊之の家に来るのは週に1度、あるかないかになっていた。


由佳「絵美と二人だと、中々、勉強に身が入らないわ」


絵美「そうなんだ」


由佳「まあ、絵美は元々、余り集中はしていなかったからねー」


絵美「そうかな!?」


由佳「そうだよ」


絵美「木綿子が居れば、集中が出来るの?」


由佳「木綿子が居ると、木綿子には負けたくないってなれるんだけどね」


絵美「木綿子に勝った事なんてあるの!?」


由佳「うるさいわね。あんたは、いつもドベでしょう」


絵美「違うもん。一度だけ、由佳にも木綿子にも勝った事があるじゃん」


由佳「まぐれで一度、勝ったくらいで、いい気になっているんじゃないわよ」


絵美「いい気になんて、なっていないもん」


由佳「とにかく、今の内に木綿子を抜くチャンスでもあるんだけどね~」


絵美「そっか。チャンスなんだ」


由佳「絵美にはチャンスはないわよ」


絵美「何でよー」


由佳「だって、あんたと木綿子じゃ、50番以上、離れているでしょう!?」


絵美「そうだけどさー」


由佳「こんな風におしゃべりをしていたら、50番をひっくり返すなんて、出来る訳がないじゃん」


絵美「うーん」


由佳「私だって、おしゃべりをしていたら、無理だと思うし」


絵美「由佳は学年末テスト、何番だったっけ!?」


由佳「私は53番」


絵美「由佳とも30番、近く離れているのかー」


由佳「絵美は此処のところ、ずっと80番、前後だったよね!?」


絵美「うん。まぐれで37番になった後は、ずっとそう」


由佳「本当にあんたの37番には驚かされたわ」


絵美「えへへ。私もすごく、びっくりはしたけど」


由佳「先ずは、それを超えないとね~」


絵美「私は多分、もう無理かな。まぐれだから」


由佳「多分、木綿子は今度のテスト、少し成績が落ちると思うんだ」


絵美「そうかな!?」


由佳「だって、勉強をする時間が減っているんだから。それで、30番~40番くらいになるんじゃないかって、私は踏んでいるんだけどね」


絵美「そうなんだ」


由佳「だから、絵美のまぐれを超えれば、木綿子に勝てるかもって」


絵美「もっと落ちないかな?」


由佳「80番までは落ちないと思うよ」


絵美「そっか」


由佳「って、木綿子が落ちるのを期待して、どうするのよ」


絵美「由佳だって、そうじゃん」


由佳「私のは、あくまでも冷静な予測の範囲よ」


絵美「うー」


絵美はそれ以上、言い返せなくなってしまった。


そんな絵美には構わず、由佳が話を続ける。


由佳「でも、このままじゃ、私も木綿子にお付き合いをして、順番を落としそうだわ」


絵美「そうだよ。由佳が80番くらいまで落ちてくればいいじゃん」


由佳「何が、いいじゃん、よ。他人が落ちるのを期待するよりも自分で頑張らなきゃ」


絵美「だって、木綿子と大竹おおたけ君の事が気になって、勉強どころじゃないんだもん」


由佳「そうなのよね~」


絵美「上手くいっているのかな~!?」


由佳「っても、この間、付き合い始めたばかりだからねぇ」


絵美「この間の日曜日に映画へ行ったって言っていたけど」


由佳「私、映画なんて、ずっと観ていないわ」


絵美「私も~」


由佳「あんたは山ノ井やまのい君と一緒に行けばいいじゃん」


絵美「そうなんだけどね。俊君とは余り映画とかは行かないから」


由佳「そうなんだ」


絵美「今度、一緒に行かない!?木綿子と大竹君が観た奴」


由佳「止めておくわ」


絵美「何でよー!?木綿子達がどんなのを観たのか気にならないの!?」


由佳「あんたと二人で行っても空しくなるだけだもん」


絵美「そうかなー」


由佳「あんたは山ノ井君がいるからいいけど、私は彼氏がいないんだからね。木綿子達がどんなのを観たのかなんて、気にしていらんないわ」


絵美「だったら、早く彼氏を作りなよー」


由佳「うるさいわね。これじゃ、いつもと同じ展開だわ」


絵美「あはは。そういえば、最近はいつも、こんな展開だね」


由佳「それが嫌だから、勉強の話をしていたのに、いつの間にか、こうだもんね」


絵美「そうだね~」


由佳「そうだね、じゃないわよ。あんたの所為でしょう」


絵美「そう!?」


由佳「絵美が最初に木綿子と大竹君の話をしたんじゃん」


絵美「だってー」


由佳「だって、じゃないわよ。全く」


絵美「ごめんなさ~い」


由佳「と言ったところで、今一、勉強をする気にはなれないし」


絵美「だったら、いいじゃん」


由佳「ところで、あんた、さっき映画は余り行かないって言っていたけど」


絵美「うん」


由佳「あんたは山ノ井君と、普段、どんなデートをしているのよ!?」


絵美「え!?私達は外でデートをするのは月に1回くらいだから」


由佳「そうみたいだね」


絵美「ホテルに泊まって」


由佳「あ、そう」


絵美「次の日に公園みたいなところに行って、まったりって感じが多いかな」


由佳「それじゃ、ずっと、まったりしっぱなしじゃない」


絵美「えへへ。そうだね」


由佳「山ノ井君と付き合っても、余り面白そうじゃないわね」


絵美「そうかな~」


由佳「だって、月に1回のデートなのに、そんなんじゃ、物足りない気がするわ」


絵美「私は俊君と一緒に居れるだけで楽しいけど」


由佳「それは、そうかもしれないけどねー」


絵美「俊君は人が大勢いるところって、余り好きじゃないみたいなんだ」


由佳「そうなんだ」


絵美「それに、私も俊君と二人きりで、ゆっくり出来る方がいいし」


由佳「それも分からないでもないよ」


絵美「でしょう」


由佳「でも、そればっかりじゃ、メリハリがないじゃん」


絵美「そんな事はないと思うけど」


由佳「まあ、あんた達の事はいいわ。私は月に1回のデートだったら、もっと楽しめる様なところに連れて行って欲しいわ」


絵美「でも、そういうところって、お金がかかるじゃん」


由佳「そんなのはアルバイトをしているんだから、平気でしょ!?」


絵美「俊君がアルバイトをしているのは、大学へ行く為の貯金をしているんだもん」


由佳「そういえば、そうだったわね」


絵美「アルバイトなんてしていても、結局は私達みたいな学生じゃ、由佳の言う様なメリハリなんて、無理なんじゃないのかな」


由佳「それも、そうかもしれないわね」


絵美「由佳んチはお金持ちだからねー」


由佳「そんな風に言われる程、お金はないって」


絵美「だったら、由佳の言うメリハリは、単なる贅沢じゃないの!?」


由佳「そうよ。でも、いいじゃん。夢を見るのは」


絵美「そうだけどさー」


由佳「現実には中々、そうはいかない事くらい、分かっているわよ」


絵美「やっぱり、由佳も早く彼氏を作りなよー」


由佳「何で、そうなるのよ!?」


絵美「だって、由佳のそういう話も聞いてみたいじゃん」


由佳「そりゃ、私だって、いつも、いつも惚気られてばかりいて、そのお返しをしたいところだけどね」


絵美「いいよ。じゃんじゃん返してよ」


由佳「腹立つわね。余裕を見せちゃって」


絵美「別に余裕を見せている訳じゃないけど」


由佳「とにかく、今に見ていらっしゃい。その内、うんざりする程、惚気てやるんだから」


絵美「楽しみだな~」


由佳「あんた、本当にむかつくわね」


結局、二人は勉強には手がつかず、夕方まで、おしゃべりを続ける。


木綿子が来ない時は、いつも、こんな状態だった。


そして木綿子が来たら来たで、今度は木綿子も交えての恋バナに花が咲く事になる。


桜の花はもう、殆どが散ってしまったが、絵美達の頭の中では、まだ春満開の様だった。

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