エピソード28/成果

俊之としゆき達の通う高校では、すでに文化祭も体育祭も終り、つい先日、2学期の中間テストが行われた。


そして今日、その成績表が生徒達に配られて、絵美えみ由佳ゆか木綿子ゆうこの3人は俊之の家に集まっている。


因みに俊之はアルバイトで居なかった。


由佳「んで、絵美、あんたは何番だったのよ?」


絵美「えへへ~」


木綿子「何、勿体付けているのよ」


絵美「じゃあ、発表しまーす」


由佳「早く言いなさいよ」


絵美「37番でした」


木綿子「すごいじゃん」


由佳「本当に!?」


絵美「本当だよ。ほら」


絵美が成績表を二人に見せた。


由佳「確かに、殆どの教科で絵美には完敗だったけどさ」


木綿子「絵美って、こんなに頭が良かったの?」


絵美「私も自分でびっくりしているんだ」


由佳「ここまで差をつけられるなんて」


絵美「いぇーい」


絵美は由佳に向かってVサインをした。


由佳「なんか、すごいショック」


絵美「何でよー!?」


由佳「運動神経以外はどんな事でも、絵美にだけは負けないと思っていたからさ」


木綿子「あははは」


絵美「酷ーい」


由佳「だって、あんた1学期の期末テストは何番だったっけ!?」


絵美「ははは。それを訊かれると困るけど」


木綿子「何、今更、困っているのよ」


絵美「311番」


由佳「信じられないよね~」


木綿子「絵美、ズルをしたんじゃないの!?」


絵美「ズルなんてしていないよー。ちゃんと勉強をしたんだから」


由佳「それにしても、311番から37番って」


絵美「俊君が言っていたよ」


木綿子「何て?」


絵美「ウチの高校じゃ、真面目に勉強をしている奴なんて、そんなにはいないから、 ちょっとでも勉強をすれば、全然、成績が違ってくるって」


木綿子「確かに、そうかもしれないけどね~」


由佳「それで、その山ノ井やまのい君は何番だったの?」


絵美「1番だったんだって。さっきメールで喜んでいた」


木綿子「やっぱり、山ノ井君って頭がいいんだね」


絵美「俊君に勉強を教えて貰うと、先生に教わるよりも、全然、面白いんだよ」


木綿子「そうなんだ」


絵美「だから、私も勉強を好きになっちゃってさ」


由佳「それが考えられないんだよね。絵美が勉強を好きだなんて言う事自体」


絵美「あはは。自分でも、そこは本当に不思議だったりもする」


由佳「私も少しは勉強をしようかな~」


絵美「じゃあ、一緒に勉強をしようよ。私が教えてあげるよ」


由佳「あんたに勉強を教わったりなんかしたら、恥だわ」


絵美「何を言っているのよ。188番のくせに」


由佳「うっさいわね。まぐれでいい点を取ったからって、いい気になっているんじゃないわよ」


絵美「まぐれじゃないも~ん」


由佳「ねぇ、木綿子。一緒に勉強をしない!?」


木綿子「別に構わないけど。由佳と私じゃ、勉強にならないんじゃないかな」


由佳「確かに、そうなのよね~。木綿子とじゃ、あーでもない、こーでもないって、くっちゃべって終っちゃいそう」


木綿子「よっぽどショックだったんだね」


由佳「そりゃ、そうでしょ!?絵美にだけは負けっぱなしでいる訳にはいかないわ」


木綿子「私はどうでもいいけどね」


由佳「あんた、冷めているよね」


木綿子「そうかな!?」


由佳「それに木綿子は私よりも成績は良かったもんね」


木綿子「良かったって言っても139番だよ。絵美には、とても敵わないわ」


絵美「だから、みんなで一緒に勉強をしようよ~」


由佳「みんなで、ね」


木綿子「ははは」


絵美「俊君が居る時は俊君に教えて貰えばいいじゃん」


由佳「あんたは、それでいいわけ!?」


絵美「何で?」


由佳「だって、山ノ井君と二人きりの方が、いいんじゃないの!?」


絵美「別に勉強をする時は俊君と二人きりじゃなくてもいいよ」


木綿子「そうなんだ」


絵美「由佳や木綿子も一緒の方が楽しそうじゃん」


由佳「まあ、あんたはそれでいいのかもしれないけど、山ノ井君はそうじゃないのかもしれないじゃない」


絵美「それは今日の夜に訊いてみる」


由佳「じゃあ、山ノ井君がOKだったら、そうしてみようかな。木綿子はどうする!?」


木綿子「そうなったら、私も付き合うしかないじゃん」


絵美「じゃあ、それで決まりね~」


由佳「とにかく、絵美に負けっぱなしは、私のプライドが許さないわ」


木綿子「私も少し熱くなってみようかな」


由佳「そうよ。私達だって、ちゃんと勉強をしさえすれば、絵美になんて負けるはずはないんだから」


絵美「100番以下の人達に""なんて、言われる筋合いはないじゃん」


木綿子「あ、今のちょっとカチンときたかな」


由佳「いい気になっていられるのも、今の内だって」


絵美「ふ~ん。いいも~ん。それじゃ、ちょっと私はお風呂掃除をしてくるね」


絵美が立ち上がる。


由佳「あんた、本当にそこは偉いって思うよ」


木綿子「もう花嫁修業をしているんだもんね」


絵美「えへへ~」


そして絵美がリビングから出て行く。


木綿子「ねぇ、由佳」


由佳「何?」


木綿子「本当に勉強をする気なの?」


由佳「だって、絵美に負けっぱなしは我慢がならないもん」


木綿子「そっか」


由佳「それにさ」


木綿子「何?」


由佳「絵美と山ノ井君が、どういう風に勉強をしているのか、見てみたくない!?」


木綿子「それは、ちょっと見てみたいかも」


由佳「でしょ~。それとさ~」


木綿子「何?」


由佳「ウチの親、勉強しろしろって、うるさいんだよね」


木綿子「そうなんだ」


由佳「木綿子は言われないの!?」


木綿子「ウチの親は何も言わないな~」


由佳「いいな~。私、今度のテストの成績を見せたら、もっとうるさく言われそう」


木綿子「そっか~」


由佳「だから、いい機会かなって思ってね。木綿子に付き合わせちゃうのは悪いけどさ」


木綿子「気にしなくていいよ。私もちょっと本気で勉強をしてみようかなって思うから」


由佳「そっか」


木綿子「それに私達、どうせ大して、する事がないじゃん」


由佳「そうなんだよね」


木綿子「彼が出来たら、勉強なんてしてらんなくなるのかもしれないし」


由佳「そうだよね」


木綿子「だから、それまでは勉強をしてみるのも、悪くはないかなって」


由佳「なるほどね。それにしても、絵美って変わっているよね」


木綿子「あはは。確かにね~。でも、山ノ井君も変わっていない!?」


由佳「そうだね。だから、本当にお似合いなんだけどね」


木綿子「山ノ井君、アルバイトがない時、私達と一緒に帰る様になったもんね」


由佳「そうそう。普通は二人っきりになりたいって思うはずよね」


木綿子「ねぇ、由佳は今、二人っきりになりたい人はいるの?」


由佳「今はこれって思える男の子はいないんだよね~」


木綿子「そうなんだ」


由佳「木綿子はいるの?」


木綿子「うん」


由佳「誰?」


木綿子「大竹おおたけ君」


由佳「やっぱり」


木綿子「やっぱり!?」


由佳「だって木綿子、時々、大竹君の話をしていたじゃん」


木綿子「そうだよね。由佳にはバレちゃっているよね」


由佳「木綿子って、面食いだよね」


木綿子「自分でも、そう思う」


由佳「でも、大竹君って彼女がいるみたいじゃん」


木綿子「そうなんだよね。だから、勉強をしてみてもいいかなって」


由佳「そっか~。私もさ」


木綿子「うん」


由佳「井上いのうえ君っているでしょ!?」


木綿子「じゅん君?」


由佳「違う。名前なんだったかな~」


木綿子「じゃあ、孝太こうた君かな!?」


由佳「そうそう。その孝太君に付き合って欲しいって言われたんだけどさ」


木綿子「そうだったんだ」


由佳「全然、タイプじゃないっていうか、有り得ないでしょ!?」


木綿子「あはは。そうだよね。私は絶対に嫌」


由佳「でしょ。私だって嫌だよ」


木綿子「それって、いつの話?」


由佳「もう夏休み前の事なんだけどね。絵美は知っているはず」


木綿子「そうなんだ」


由佳「純君の方だったら、まだ有り得ないって程じゃないけどさ」


木綿子「そうだよね」


由佳「孝太君は有り得ないって」


木綿子「あははは」


由佳「だって、あの子、私の胸の辺りばかり、じろじろ見てさ~」


木綿子「やだ~」


由佳「本当に気持ち悪いったりゃありゃしないっての」


木綿子「本当に有り得ないよね」


由佳「まあ、そんなんだからさ、ロクな男の子がいないな~、なんてね」


木綿子「それは言い過ぎじゃないのかな~」


由佳「そうなんだけどさ、ちょっとでも、いいかなって思う男の子がいてもさ」


木綿子「うん」


由佳「そういう男の子って、すでに彼女がいちゃったりするじゃん」


木綿子「それは、そうだね」


由佳「大竹君だって、そうじゃん」


木綿子「うん」


由佳「それに私の場合、絵美みたいに堂々と付き合ったりは出来ないからねぇ」


木綿子「それは絵美の方がおかしいだけだよ」


由佳「それは、そうだけどさ。ウチの親は本当、嫌になる」


木綿子「由佳のお父さん、すごく厳しいって言っていたもんね」


由佳「厳しいなんてもんじゃないわ。子供を可愛がるにも程があるでしょ!?」


木綿子「ウチのお父さんは厳しくない訳じゃないけど」


由佳「うん」


木綿子「お母さんに完全に尻に引かれちゃっているからさ」


由佳「そうなんだ」


木綿子「お母さんさえ味方につけちゃえば、平気かな」


由佳「ウチとは全然、逆なんだね。羨ましいな~」


木綿子「でも、お母さんに怒られている、お父さんの姿を見ると複雑だよ」


由佳「あはは。そうなんだ。ウチはそんなところ、見た事がないからねぇ」


そして絵美がリビングに戻ってきた。


絵美「何の話をしていたの?」


そう言いながら、絵美が木綿子の対面に座った。


由佳「親の話をしていたんだ」


木綿子「絵美んチの親は亭主関白なの?」


絵美「う~ん、どうなんだろう」


由佳「ウチは完全に亭主関白だわ」


絵美「ウチも表面上は、そうかな~」


木綿子「表面上って?」


絵美「だから、表面上はお父さんの方が主導権を握っている感じ」


由佳「それは分かったわよ」


絵美「うん。でも、実際に主導権を握っているのは、お母さんだと思うな」


由佳「それって、絵美と山ノ井君も、そんな感じじゃないの!?」


絵美「そうかな!?私は全部、俊君に任せちゃっているけど」


由佳「だって山ノ井君、普段は偉そうだけど、絵美に対してだけは頭が上がらない感じじゃん」


絵美「あはは。私がむくれた時だけは、そうかもしれないけどね」


木綿子「絵美んチの親は、そういう感じじゃないの!?」


絵美「ウチは殆どは、お父さんが決めるんだけど、いざって時になると、お母さんが強くなるんだ」


木綿子「そうなんだ」


絵美「私が俊君をお父さんとお母さんに紹介した時にさ」


由佳「うん」


絵美「お母さんが私に、お父さんが反対をしても、お母さんが何とかしてくれるって言ってくれて」


木綿子「そうなんだ」


絵美「でも結局、お母さんの出番はなかったんだけどね~」


由佳「絵美はお父さんが、お母さんに怒られているところって見た事ある?」


絵美「それはないかな~」


木綿子「普通はそうだよね」


絵美「由佳は見た事あるの?」


由佳「私はある訳ないじゃん。木綿子の方よ」


絵美「そうなんだ」


木綿子「ウチはそんな事はしょっちゅうだよ」


由佳「ウチは逆だったら、しょっちゅうだけどね」


絵美「ウチはお母さんがお父さんに怒られているところも、余り見た事はないかな」


由佳「そうなんだ」


絵美「ちょっと窘める様な感じの場合はあるけどね」


木綿子「絵美んチの親って仲がいいんだね」


絵美「そうなのかな!?」


由佳「ウチのお父さんも、あんなに威張っていて、お母さんはよく怒られてはいるけど、決して仲が悪いって訳じゃないんだよね」


木綿子「ウチも、そうも思うんだけどさ、お父さんが怒られていると、なんか、可哀相になってくるんだよね」


絵美「そうなんだ」


由佳「山ノ井君のお父さんって、どんなお父さんだったんだろうね?」


絵美「俊君も余り覚えていないんだって」


木綿子「そうなんだ」


由佳「お母さんは気さくで、とても優しそうなお母さんだよね」


絵美「私もそう思った」


木綿子「絵美、山ノ井君のお母さんとも仲が良さそうだもんね」


絵美「うん。すごく良くして貰っていると思う」


由佳「絵美は姑さんにも恵まれているんだね」


絵美「まだ結婚が出来るって、決まった訳じゃないよ~」


由佳「そうかもしれないけどさ」


絵美「でも、私は俊君と結婚が出来たら、いう事はないかな」


由佳「はいはい。ご馳走様」


木綿子「本当にいつもこれだもんね」


由佳「それじゃ、私達はそろそろ帰るね」


由佳が立ち上がる。


木綿子「絵美はまだ居るんでしょ!?」


木綿子が立ち上がる。


絵美「うん」


由佳「どっちみち、こっからは絵美とは帰り道が逆じゃん」


木綿子「そうなんだけどね」


そして絵美が立ち上がって、玄関まで二人を送る。


由佳「そんじゃ、またね」


木綿子「またね」


絵美「バイバイ」


由佳と木綿子は自分の自転車で自宅へと帰って行った。


絵美は二人を見送ると、洗濯物を取り込みに行く。


隣の家にある柿の木が実をつけているのが絵美の目に入ってきた。

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