第138話 遠く近く… 二

 一方の拮平は、人形屋の娘と結納を交わしていた。今回はすべての日程を先方に任せた。祝言の日取りは女側が決めるものだが、今までの轍を踏みたくなかった。年末だから年明けに、一周忌が済んでからと言っているうちに、駄目になってしまった二人の弥生とのこともある。

 ここに来て、申し分のない縁組が転がり込んできた。今度ばかりは番頭を始め店の者たちの表情も明るい。そして、一応、両家の顔合わせも行われることとなり、拮平の方は叔父夫婦と従兄弟が出席の予定だったが、それは日延べされた。理由は、遠縁の幼い娘が亡くなり、そのことを相手の娘、お花が悲しんでいるとのことだった。


男  「白田屋の旦那ですね」


 そんなある日、出先から戻って来た拮平は、一丁ほど先で若い男から呼び止められる。


拮平 「そうだけど」

男  「ちょいと、お話が…」


 知らない顔である。


拮平 「何だい」


 と、道の隅に移動する。


男  「この度は、人形屋のお嬢さんとご縁組みとか。めでたいことで」


 そのことが、この男と何の関係があるのだろう。


拮平 「そう言う、お前は誰なんだい」

男  「かわら版屋ですよ」

拮平 「どこのかわら版だい。名前は」

男  「一匹狼とでも言っておきやしょう」

拮平 「へえ、その一匹のかわら版屋が何の用さ。えっ、ひょっとして、俺の縁談

   載せる訳、ないよね」

男  「ええ、まあ…」

拮平 「それなら、もう、用はないっと」

男  「いえ、それが、ちょいと…」

拮平 「なに、勿体つけてんのさ。用があるならさっさといいな。こちとらこれで

   も忙しんだよ」

男  「わかりました。では、旦那。前に侍の娘と付き合ってましたよね」

拮平 「それが、どうした」

男  「それが、これ、先方に知られるとまずいんじゃないです」

拮平 「先方って、人形屋にかい」

男  「そうですよ」

拮平 「別に知られたって構やしないさ。終わったことじゃないか」

男  「終わってないでしょ」

拮平 「おい、この一匹野郎。お前、俺になんか恨みでもあるのか」

男  「まあまあ、そう、焦らずに」

拮平 「何も焦ってなんかいるもんか」

男  「あの侍の娘、弥生さんとか言いましたよね。ええ、確かに旦那と別れて、

   今は婿を迎えて子も生まれましたよね」

拮平 「それが」

男  「それがって…」

拮平 「あのさ、こう見えても俺は忙しいのっ。そんな昔の話に付き合ってる暇な

   んかないさ」


 そんな押し問答のような話をしている時だった。


真之介「拮平、久し振りだな」

拮平 「これはこれは、本田真之介様ではございませんか」


 本田真之介と聞いたかわら版屋の男は、ちらと真之介の方に目をやる。


男  「では、旦那。お近いうちにまた。失礼しやす」


 と、真之介に形ばかりの会釈をして足早に立ち去って行く。


真之介「誰だ、今の」

拮平 「かわら版屋だって」

真之介「そのかわら版屋が、お前に何の用だ」


 たまたま、見かけた拮平がお店者でもない、職人でもない、遊び人風の男と何やら話をしていた。それだけなら、取り立てて声をかけることもないが、男の方が妙に胡散臭かった。           


拮平 「それが、笑わせてくれるじゃない。俺が弥生さんと付き合ってたことが、

   先方、人形屋に知られてもいいのかって。だから、別に知られても構わな

   いって言ってやったさ、もう終わったことだし。でもさ、妙なこと言いや

   がったんだよな。まだ、終わってないんじゃないかとか」

真之介「あれから会ったりしたことは?」


 以前、弥生がどうしても拮平に逢いたいと言うので、その手筈をしたことがあった。


拮平 「いや、あの時以来、逢ってない。本当だよ」

真之介「そりゃ、妙だな」


 とは言ったものの、引っかかることはある。


拮平 「それとさ、何か、うちの店のこと、あれこれ知ってるみたいでさ。ちょい

   と、いやな気分だったな」

真之介「まさか、お前、二股かけてたとか」

拮平 「ああ、そっちからの?そりゃ、ないよ。真ちゃんじゃあるまいし」

真之介「俺が何やった」

拮平 「俺は基本二股なんてしないよ。重なったくらいのことはあったけど、真

   ちゃんみたいに七股なんてしないもの」

真之介「三股。けどよ、そりゃ、昔のことじゃないか。今は見ろ。真面目なもん

   だ」

拮平 「だから、俺はずっと、真面目。特に女に関してはっ」

真之介「そんなことより、先ほどのかわら版屋の名は」

拮平 「それが、一匹狼だとさ」

真之介「ますます持って、胡散くせぇ」


 繁次に聞いたことがある。近頃は取材の名を借りた、ゆすり集りまがいをやる輩がいると。

 まさか、弥生とのことをネタに拮平をゆすろうとしているのか…。


拮平 「大丈夫だよ。俺ももう前みたいにひ弱じゃないから。それにさ、弥生さん

   とは終わったことだよ。人形屋がそれでも駄目って言うんなら、仕方ない。

   また、別口探すまでさ」

真之介「しかし、あの人形屋がその程度のことを気にするとは思えんがな」

拮平 「そうだよね。そう言や、おかしなこと言ってたな」

真之介「おかしなこと?」

拮平 「弥生さんとは終わってないのでは、とか何とか…」

真之介「……」

拮平 「世の中には変な野郎がいるもんだね」 

真之介「ああ、次からは相手にするな。寄って来ても、知らん顔して立ち去れ」

拮平 「うん、そうするわ。それより、若様はおかわいらしくおなり遊ばされま

   し、ましたことで」

真之介「ああ、やっと、人の顔になってきたわ。気が向いたら、いつでも顔を見に

   来い」

拮平 「どっちに似てんだろうねえ。まあ、どっちに似ても飛び切りかわいいけ

   ど」


 途中で拮平と別れた真之介だったが、やはりと言う思いにとらわれていた。

 弥生の生んだ子は、拮平の子ではないのか…。

 弥生の婿取りの早さ。いくら、拮平のことを忘れてしまいたい、早くけじめをつけたかったにしても、何か唐突と言う感じが否めなかった。坂田夫妻に聞いてみれば、弥生の方が急かしたと言う。そして、すぐの懐妊。

 その時、真之介はもしやと思ったが、肝心の弥生が何も言わないのだから、そのままにした。いや、別に、どちらでもいい。このことは誰でもない、弥生が選択したことだ。拮平も気づいているだろう。しかし、口さがない世間はともかく、そんなことで拮平をゆすろうとする輩もいるのだ。

 数日後、又もあの男が拮平の前に現れる。


拮平 「おい、そんなに言いたきゃ、俺なんぞに構ってないで、さっさと人形屋に

   行って、これこれこうですって言やぁいいだろ。それで、この話壊れたっ

   て、俺、何ともないからさ」

男  「本当にそれでいいんですかい」

拮平 「いいって言ってるじゃないか」

男  「困るんじゃないですか」

拮平 「別に、困るも何も、俺んとこ、強請っても金ないからさ。今は隣の本田屋

   のお陰で何とかやっていけてる状態。そりゃ、持参金付きの嫁って魅力だけ

   どさ。駄目なら駄目で仕方ない。どうにもならなくなったら、隣に言って、

   うち、買い取ってもらうわ。うまく行きゃ雇われ主人で、そのまま置いても

   らえるかもしんないしぃ。それでいいと思ってる。ひょっ、ひょひょっとし

   て、何年か先に買い戻せたりして。人生、浮いたり沈んだり、先のことは誰

   にもわからない」

----話が違う…。


 男の顔が険しくなる。


拮平 「だからさ、お前もこんなこと、やってないで、真っ当にかわら版屋やりな

   よ。ほら、繁次って野郎知ってるだろ。毎日足棒にして、ネタ探し回ってる

   ぜ。繁次だけじゃない。かわら版も昔は顔隠して売ってたもんだけど、今

   じゃ書いた奴の名前載せたりしてるじゃない」

男  「……」

拮平 「それと、俺じゃ埒が明かないからって、弥生様の方へ行くんじゃないよ。

   あちらはさぁ、すごいお方がついていなさるの。ああ、隣の真ちゃんじゃな

   いよ。ほれ、聞いたことないかい。お旗本の坂田様。顔の広い方でさ。変な

   言いがかり付けたりしちゃ、後が大変だよ。わかったかい、わかったらさっ

   とお帰り。じゃあな」


 と、黙ったままの男をそのままに、拮平は歩き出す。後を追いかけて来るのではと思ったが、それもなかった。しかし、少し歩くと、またも、呼び止められる。


----その声は…。 

拮平 「何だい。おっと、こりゃ、たまげた驚いた。誰かと思えば誰あろう。代わ

   り映えのしないその声、と、これまた代わり映えのしない、その顔二つ!」

万吉 「こりゃまた、いつにない、ご丁寧なご挨拶で」

仙吉 「恐れ入谷の鬼子母神は遠いやっと」


 二人は何でも屋の万吉と仙吉だった。


万吉 「でも、旦那。今の男、何です」

仙吉 「お知り合いなんですか」

拮平 「別に知り合いじゃないけどさ。向こうが俺んこと知っててさ」

万吉 「あの野郎が旦那に用?」

仙吉 「そりゃ、ないでしょう」

拮平 「あいつのこと、知ってんのかい」

万吉 「まあ、ちょいと」

拮平 「誰なんだい。かわら版屋の一匹狼とか言ってたけど」

仙吉 「けっ、狼が聞いて呆れらあ。その辺の野良犬よりたちは悪いや、ねえ、兄

   貴」

万吉 「そうですよ。で、何かあったんですか」

拮平 「いいや、ほら、俺と人形屋の娘の縁談決まったろ。それでさ、前の弥生さ

   んとのことが知られたらまずいんじゃないかって。だから、俺も言ってやっ

   たさ。それなら、人形屋行って話しなって。もう、終わったことだよ。別

   に、知られたって構やしないって。それだけ」

万吉 「あの、佐吉の野郎」

拮平 「あいつ、佐吉っていうのかい」

仙吉 「ええ、旦那とも、ちと、曰く因縁のある奴でさ」

拮平 「曰く、因縁?それ、ちょいと、じっくり聞かせろい」


 と、二人を連れて鰻屋の二階へ行く。当時の鰻は今ほど高価な食べ物ではなく、鰻は至る所で獲れたが、扱いにくい魚であるのと、やはり、家で焼くのは大変である。それでも、万吉と仙吉は大喜びだった。まして、二階で食べられるのだ。


万吉 「でも、こうして、旦那と飲むのって、随分と久しぶりな気がしますねえ」


 と、万吉が拮平に酌をしながら言う。鰻が焼きあがるまでの間、たくわんを当てに飲むのだ。


仙吉 「若旦那から、旦那になられて初めてじゃないすか」

拮平 「言われてみりゃ、そうだね。まぁ、俺も色々あってさ。そう言や、お澄は

   仲良くやってるかい」

万吉 「ええ、まあ、仲がいいんだか、悪いんだか」


 お澄は長く単身赴任していた大工の夫が戻ってきたので、別に長屋を借りて住み、何でも屋へは通って来る。


拮平 「それで、飯の方は?」


 当時の男の大半は飯を炊くことは出来た。特に江戸の町は独身男が多く、地方からの出稼ぎ者にそう簡単に嫁の来てもない。飯さえ炊けば、総菜売りがやってくるので、それを買えばいい。


万吉 「交代で炊いてます」

仙吉 「おかずは昨日の残り」

万吉 「夜はお澄が作ってくれますけど」

仙吉 「ええ、今じゃすっかり、味噌汁は夜の食べ物になっちまいました」

拮平 「味噌汁くらい作れよ」

万吉 「そうしようかって言いながら、そのまんま」

拮平 「相変わらずじゃねえか」 

仙吉 「ええ、相も変わらねえのは俺と兄貴だけ。ねえ」

万吉 「それより、旦那。ああ、やっぱり旦那はご存知ないか。あの、佐吉のこ

   と」

仙吉 「そうすよ。旦那がお留守の時のことでしたからね」

拮平 「そうだった。で、あいつとの因縁て?」

万吉 「ほら、丙午の女のこと書いたの、あいつですよ」

拮平 「……!」

 

 火付け犯の八百屋お七が捕まり、処刑された。そのお七が丙午生まれであったところから、売れない八卦見と一緒になって、佐吉は丙午の女叩きの記事を書きまくった。

 元は真之介の起こした「仁神髷切り事件」で名を挙げた繁次に憧れ、かわら版の世界に足を入れた佐吉だった。とにかく、売れる記事を書きたいと切望していた。

 そんな頃、起きたのが八百屋お七の事件だった。最初は繁次の相棒兼助手をしていた佐吉だが、火付けのお七と言う娘が丙午年であることに目を付ける。それと言うのも佐吉の兄を手ひどく振ったのが、同じ丙午生まれの女だった。意気消沈した大工の兄は高いところから足を滑らせてしまい、腰を打ってしまう。そこで、兄を励ますためにも書いた、丙午の女叩きの記事が思いがけなく採用され、また、大きな反響を呼んだ。

 さらに、売れない易者と組み記事はますますエスカレートしていく。これにはさすがの版元や親方も難色を示し始める。だが、調子付いている人間ほど厄介なものはない。すでに、一端の版記者気取りの佐吉は別のかわら版屋に自分を売り込みに行く。だが、所詮は一時のブームに過ぎず、得をしたのは売れない易者の方だった。

 一方、拮平と結婚の約束をしていたお七と言う八百屋の娘はその煽りを受けてしまう。火付け犯と同じ名、同じ家業の娘であり、齢も同じ。

 これには誰より、お芳が猛反対をした。いくら何でも縁起が悪い。また、父の嘉平ですら難色を示すようになってしまう。拮平は娘が三月生まれであるところから「弥生さん」と呼び、何とか父を説得しようとしたが、その間にも娘の家は、縁起の悪い店と言われ、商売が立ち行かなくなる。ついには店をたたみ、都落ちとなつてしまう。

 その後、娘は芸者となり、両親は小さな店で生計を立てている。何もかも嫌になった拮平は家を出、夜の世界に飛び込むが、嘉平の死によって家に戻り、再出発することとなる。そして、またも出会った、同じ名の「弥生」と言う下級武士の娘。今度こそとの思いだったが、想像だにしなかったことが起きてしまう。弥生の姉の急死。今度は弥生が後を継がなくてはならない。

 二度も恋を実らせることはなかったが、拮平も商人である。ついに、持参金付きの娘との縁組を承諾する。

 そんな矢先の佐吉と言う男からの「ゆすり」だった。

 最初の弥生との話を壊しただけでは飽き足らず、今度は終わった筈の弥生とのことで脅してくるとは…。


----あの野郎!

万吉 「実は、あの佐吉。白田屋の元女中と所帯を持ってんですけどね」

拮平 「えっ、それって誰だい」

万吉 「ああ、これも旦那がお留守の時のことですよ」

仙吉 「ほら、お芳さんが仕掛けた「いい日足袋立ち」のかわら版、知りやせん

   か」

拮平 「ああ、見たことある」


 あの時はお芳が自慢げに見せつけたものだ。白田屋で働ければ良縁に恵まれると言うニュアンスの記事だった。


万吉 「その時にやって来た、只働きでも構わないという女中さんたちの中に、お

   恭さんと言う人がいましてね。その人なんですけど、これが、色々と…」

拮平 「色々、何だい」

万吉 「お澄が言うには、ものすごく遅くて早い人だそうです」

拮平 「それこそ、何だい」

万吉 「それが、日頃の動作はものすごーく遅い、だけど、食べることはそんなに

   遅くない。普通より、少し早い。でも、物に触るの、掴むのは早い…」

仙吉 「ちょっとでも珍しいもの置いてあれば、すぐに触る。饅頭などちゃんと数

   あるのに、負けじとすぐに取り、数の多いあられなどは何度も手を出す。

   で、掃除などは一番後から付いて回る、とか」

万吉 「ええ、豆腐の手切りが出来ない、茶わん洗うの遅い、それでいてそんなに

   きれいじゃない」

拮平 「そんな女中、只でもいやだね」

仙吉 「さらに、病気持ち」

拮平 「病気って?」

万吉 「当人は、貧血だと言ってるんですけどね。あの病気じゃないかって」

拮平 「あの病気って?」

仙吉 「ほら、急に倒れて痙攣起こすんだけど、本人はそのこと、覚えてない。ひ

   どくなると泡吹くとか…」

拮平 「……」

万吉 「それで、お芳さんが弱って、早く婿を見つけて追い出したいもんだから、

   うちのお澄に誰かいないかって」


 ついでに、万吉と仙吉を引き合わせて見たが、二人ともお恭から一瞬でそっぽを向かれてしまうのだが、そんなことは黙っている。


仙吉 「ちょうどその頃に、佐吉から声をかけられたとか」

万吉 「本当は隣の鶴七さんが好みだったようなんだけど、惚れられたとか…」


 その時、鰻が焼き上がってきた。


拮平 「来たか、待ってたぜ。さっ、食べよう」

万吉 「いっただきまーす」


 早速に焼き立ての鰻にかぶりつく。


仙吉 「うめえ!」

万吉 「酒もうめぇなあ」

拮平 「やっぱ、鰻は江戸前に限るわ。余所でも鰻食ったけど、水が違うと魚も違

   うんだね」

仙吉 「まあ、水が変わると腹壊すなんて言いますからね」

万吉 「この野郎、ごちそうになってんのに、そんなこと言うか」

仙吉 「こりゃ、どうも、すいません」

万吉 「本当にすいませんねえ」

拮平 「それで、そのお恭とか言う女中に、佐吉が惚れたとか」

仙吉 「いいえ、それはお恭さんがそう言ってるだけで」

万吉 「あの佐吉があんな女に惚れますかね」

仙吉 「まあ、そこら当たりのことは、お縫さんにでもお聞きになられた方が」

拮平 「ああ、お縫がいたな」

万吉 「それで、二人が所帯を持った後、ほら、六郷にまたあの妖怪が現れたって

   話、ご存知ですか」

拮平 「うん、知ってる」


 昔、多摩川のことを六郷と言った。今も六郷橋として残っている。また、日本には昔から、漂着動物の記録がある。最近はご無沙汰しているが、多摩川のタマちゃんである。また、当時はそれがアザラシと言う名の生き物であることを誰も知らない。かわら版に「六郷の妖怪現る」と取り上げられれば見物に行く。妖怪と言って、大人しくかわいい顔をしている。


仙吉 「二年振りだったので、俺たちも見に行ったんですよ」

万吉 「ちょうど、真之介旦那も、それこそ、三浦の殿様たちから、近所の子供ま

   で引き連れての御一行様でしたよ。そんで、帰りに蕎麦ごちそうになったん

   ですけどね」

仙吉 「そん時に、あの佐吉もいたんですよ」

万吉 「それが、新婚だと言うのに、一人で」

拮平 「ふうん」

仙吉 「そんで、俺たちがどうして一人なんだとか聞いたんですよ。そしたら、お

   恭さんは六郷の妖怪は前に見たことある。そして、あれもこれも、そんなの

   見たことあるとか」

万吉 「でもさ、新婚の亭主が見に行こうと言えば、普通行きますよね」

仙吉 「ええ、何か、二番煎じとか言ってましたよね」

拮平 「へえ、何が二番煎じなのかねえ」

万吉 「まったくですよ。その後のことはあんまり知りやせんけど、つまるとこ

   ろ、最初っから、うまく行ってないってことじゃないすか」

仙吉 「それで、ゆすりまがいを?」

万吉 「まさかねえ」

仙吉 「いや、アリそう…」


 そんなこんなで、万吉仙吉と別れた翌日の夕刻近く、拮平はお縫を呼ぶ。お里はジョンの散歩に出かけたところだ。別に、お里に聞かれてまずい話でもないか、いない方が気楽と言うものだ。


お縫 「ああ、あのお恭のことですか。あん時ゃ、大変でしたよ」







 










 

 







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