第117話 痕ある花 一
坂田の妻の利津が、一人の娘を連れて来た。
長年、ふみの側に仕え輿入れにも付いて来た、久ではあるが来月には輿入れする。今のふみが押しも押されもせぬ真之介の妻になっているとはいえ、元は旗本の姫、やはり、一人では外出させられない。そこで、坂田に久の後任を捜してくれるよう頼んで置いたのだ。
利津 「大人しい顔に似合わず、中々に芯の強い娘です。きっとお役に立つと思い
ます」
弥生 「誠心誠意、お仕えさせていただきます」
真之介「いや、気持ちは嬉しいが、これだけの家である。その様に気負うことは
ない」
ふみ 「そうですよ、何も難しいことはありません。名は何と?」
弥生 「弥生にございます」
弥生とは…。
その場には、久に忠助もいたが、皆、驚きを隠せない。
弥生とは決して珍しい名前でなく、同名の者がいても何らおかしくもないが、拮平の悲恋の相手の名も弥生だった。
それでも、顔立ちも違うし、こちらは武士の娘である。まして、今の拮平は実家を遠く離れて夜の世界に身を投じている。また、弥生も芸者になっている。たまたま、名が同じだったに過ぎない。
ただ、今、目の前にいる弥生にはこめかみに傷があった。それも気にならないと言えば嘘になるが、さりとて、気にするほどのこともない。
そして、新しい弥生を交えた暮らしが始まった。ふみと久もそうだったが、この家の庭には花や木しか植えられてないことが気になったようだ。
久 「私も最初はびっくりしましたけど、何でも、旦那様の乳母だった者が最初
は農家に嫁ぎ、そこで散々な思いをしたので、野菜作りなどしたくなかった
とか。ですから、野菜はすべて買っていたそうですが、今は奥方様のご実家
からも届きます」
弥生 「左様でございますか…」
弥生にとっても、畑仕事をしなくてもいいことはありがたいことだった。また、水汲みや薪割りは忠助がやると言う。
お咲 「弥生様」
弥生様…。未だかって、様付けで呼ばれたことがあっただろうか。
お咲 「奥方様がお呼びです」
弥生 「は、はい」
その時、弥生は庭にいた。そんなに広い庭ではないが桜の木があり、季節の花が咲いている。小さな池の側に咲いている名も無い可憐な花を見ていた。弥生は急ぎ、ふみの許へ行く。
弥生 「申し訳ございません。つい、お庭を拝見いたしておりました。今後はこの
ようなことの無きよう…」
ふみ 「庭に何か珍しいものでもありましたか」
弥生 「いえ、かわいい花が咲いておりましたもので」
ふみ 「そうですか。これから、旦那様のご実家へ参ります」
久 「弥生殿、これは、私にはもう派手なのでよろしければ貰っていただけます
か」
弥生 「久様…。ありがとうございます」
弥生は思わず涙が出そうになった。今までは着るものと言えば、それも一歳しか違わない姉が着飽きたものでしかなかった。
そして、初めて踏み入れた繁華街の賑わい。また、ふみが歩けば、店から人が出てきて挨拶をすれば、ふみは笑顔で応えていた。さらには、本田屋の暖簾をくぐれば、思わず目がくらみそうになる。
そこには色とりどりの反物が展示されていた。世の中にはこんなにも色があったのか…。
久 「気を付けてね」
これも初めての室内階段だった。久に倣ってゆっくりと上がって行けば、そこは畳からして品が違うきれいな広い部屋だった。
久 「さあ、こちらへ来てご覧なさい」
と、障子窓から下を眺めれば、もう言葉もない…。
ふみ 「私たちも最初はああでしたね」
久 「はい、随分と慣れたものです」
弥生 「申し訳ございません、あまりの景色に、つい、見とれておりました」
ふみ 「今も久と話していたところ。私たちも以前はそうだったと」
久 「はい、もう、見るもの聞くもの、珍しくて…」
ふみ 「ほんにここからの眺めは何とも言えませんもの」
久 「はい、いつ見ても飽きることはございません。でも、もうすぐ見られなく
なるのかと思えば、名残惜しいですわ」
と、久も窓際へ行く。
ふみ 「今度は三人揃って見に来ればよいではないですか」
久 「まあ…。では、お言葉に甘えまして、来させていただきます」
久は子持ちの武士のところへ輿入れするのだ。それでも弥生は羨ましかった。おそらく自分には輿入れの話すら無いであろう。この傷があっては…。
いやいや、実家にいる時とは比べ物にならない、今の暮らしである。不足に思っては罰が当たる。
実家では、常に一番下だった。弥生と年子の姉、紗月がいる。下に男子も生まれたが、早世している。ゆえに、姉が婿を摂って家を継ぐのだ。
その姉、紗月に好きな男が出来たようだ。同じく御家人の次男で結納も交わしたが、問題は弥生であった。部屋数の少ない家で、襖一つ隔てて年の変わらない妹が同居と言うのは、婿にとっても気詰まりなものである。
そのことは弥生も感じているが、さりとてどうすることも出来ない。行く当てもなく、どこかへ奉公に出ようにも、その伝手すらない。口入屋と言うのがあることは知っているが、これもどうすればいいのかわからない。
そんなある夜、食事の片づけが終わった弥生が両親の部屋に行けば、紗月もいた。そして、話はピタリと止む。
母 「ああ、弥生。先に寝てなさい」
弥生 「戸締りをしませんと」
それも、いつも弥生がしていることだった。
母 「それもいいから。たまには早く寝なさい」
どうやら、弥生がいない方がいいらしい。
いつもは一番遅くに寝る弥生だが、たまには早く寝るのも悪くないと床に付いたが、どう言うものか眠れない。両親たちの話は、紗月に婿を迎える準備のこと思う。それを弥生の前では話しにくい。だが、姉に婿が来たら、自分はどうなるのだろう。
普通の娘なら、一、二年もすればどこかへ縁付くと思うが、顔に傷のある自分など貰い手がないと思う。それなら、どこかへ奉公を。いや、それすら敬遠されてしまうのでは。それなら、先ずは弥生をどうするかと言う話ではないのかと思えば気になって眠れない。そっと床を抜け出し、足を忍ばせながら灯りの付いている障子の近くへ行く。
母 「坂田様にお願いできるといいのだけど…」
紗月 「父上、坂田様に伝手はないのですか」
父 「うーむ」
坂田と言うのは旗本の坂田光利のことだろう。今は仲人業のみならず、奥女中や行儀見習いの娘たちの世話もしている。弥生も坂田夫妻のことは聞いている。何と言っても、三浦家の姫を士分を金で買ったにわか侍のところへ輿入れさせたのだ。
最初はどうなることかと周囲の関心を集めていたが、夫婦仲も良く、また、三浦家も借金地獄から抜け出せたと知れば、娘を連れて縁組を頼み込む親も少なくないとか…。
しかし、末端の貧乏御家人である。やはり、旗本屋敷は敷居が高い。
紗月 「本当に、あの傷物には困ったもの」
幼い頃より姉から、傷物、穀つぶしと、それも、すれ違いざまに言うのだ。そのことを両親は知らない筈だが、今は平気で口にしているところを見れば、知っていて知らない振りをしていたのだ。
紗月 「あの顔では、身売りも出来ないし、奉公先も…。どうするのです!父上、母
上、早く何とかしてくださいよ。もう、こうなったら、夜鷹、そうよ、夜鷹
なら夜だし、暗くて顔も良く見えないからわからないわよ、ねえ、そうで
しょ、父上母上」
母 「紗月!夜鷹などと、何てことを言うのです!」
さすがに母は怒った。当の弥生は、紗月の夜鷹発言もショックだったが、その後に自分の顔の傷の真実が語られ様とは…。
この傷は、まだ赤ん坊だった弥生が針箱まで這って行き、折り目や印付けに使う
母 「あれはそなたがやったものでしょ」
紗月は黙っている。何か言われて決して黙っているような姉ではない。
----そうだったのか…。
姉の紗月はその名の通り五月生まれ。そして、翌年の三月に弥生が生まれた。
兄弟姉妹で年齢が近い場合、上の子供が下の子に嫉妬してしまう。今まで自分にだけ目が向けられていたところへ、ある日、見たこともない小動物が母の側に転がっているのだ。さらに、母親はその小動物に掛かりっきり。親の方にそんな気はなくとも、上の子は邪険にされた、放って置かれると思ってしまい、下の子に危害を加えてしまう場合がある。
弥生はすぐにその場を去り、自分の布団に潜り込む。弥生は紗月が恐ろしくてたまらない。自分のことだけではない。
----では、あれも…。
弥生が生まれてから二年後に母は待望の男子を生む。待ち望んだ男子誕生である。両親はさぞかし喜んだことだろう。だが、その子は一月も経たないうちに亡くなってしまう。それも、風呂敷を被った状態で…。
暖かい季節で障子も開け放たれていた。風が吹いて風呂敷が飛ばされたのかもしれないと言うことになっているが、このことに両親は未だ納得していないようだ。さりとて、誰が…。
だが、弥生は見たのだ。紗月が赤ん坊に風呂敷をかけるのを。その時はその行為がどんな意味を持つのかわかる筈もなかった。幼児期の一歳の違いは大きい。だが、長じるに従い両親の話と相まって、弟が亡くなったのは紗月が風呂敷を被せたからではないだろうかとの思いにとらわれるが、それでも到底信じられないことだった。
----まさか、そんな筈はない!
と、必死で打ち消してきた。だが、今知った。やはり弟を殺したのも紗月だったのだ…。
弥生が布団の中で震えていると、紗月が部屋に戻って来た。布団に入れば、すぐにいびきをかいて眠る。紗月は毎夜いびきがすごいのだ。特に、今夜は地獄からの雄叫びの様に聞こえてならない。
翌日、弥生は隙を見て家を抜けだす。そして、訪ね歩いてようやく探し当てた、旗本坂田の屋敷。それでも、中々入りづらい。しばらくして、脇戸から下男が出て来た。
弥生 「あの、もし…」
弥生は思い切って声をかけた。これを逃すと後はないかも知れない。下男は不思議そうな顔を弥生に向ける。どう見ても、下級武士の娘であり、それも顔に傷がある。
下男 「何か」
弥生 「あの、こちらはお旗本坂田様のお屋敷にございますか」
下男 「そうだが…」
弥生 「あの、奥方様に…」
下男 「奥方様に?はて、何用かな。何か、お約束でも?」
弥生 「いえ、あの、奥方様にお目にかかりたいのです」
下男 「いかなる次第でその様に言われるのじゃ」
弥生 「それは、その、お会いしてから申し上げますので、どうか、お取次ぎ願い
ます」
下男 「その様なことでお取次ぎは出来ぬ。さっ、帰った帰った」
弥生 「そこを何とか、お取次ぎを。この通り、お願い致します」
下男 「あのな、お旗本の奥方様が名も知らぬ者にお会いになると思うか。それに
今、奥方様はお留守だよ」
と、下男は戸を閉めるが弥生は必死でその戸を叩く。
弥生 「お願い申します!お願い申します!」
女中 「何者じゃ!」
その声に振り向けば、一人の武家女がいた。
弥生 「あの、こちらの奥方様にございますか」
女中 「いや。それより、そなたの方こそ何者である。ここを御旗本坂田様のお屋
敷と心得てのことであるか!」
弥生 「はい、あの、奥方様にお会い致したく、参りました。何卒お取次ぎをお願
い申します」
女中 「奥方様は見知らぬ者にはお会いになられぬ。さっ、そこをどかぬか」
利津 「何をしておる」
女中 「それが、奥方様」
----奥方様!
弥生は思わず土下座をする。
これにはさすがの利津も驚いてしまう。
弥生 「これは、ご門前をお騒がせ致し誠に申し訳ございませぬ。お情け深い奥方
様にお願い致したきことがあり、無礼を承知でやって参りました。私は…」
利津 「これっ、わが屋敷の門前でその様なことをされては外聞が悪い。いいか
ら、早う立て、立つのじゃ!」
土下座とは、文字通り土の上に下座、座ることである。今はほとんどの道が舗装され、土下座など死語の筈なのに、畳に頭をこすり付けることを土下座と思っている人もいるようだ。
弥生が立ち上がった時、先程の下男が顔を出す。
女中 「門を開けよ!」
女中の声に下男は急ぎ門を開ける。その女中に促され弥生も屋敷に入ることが出来た。庭の片隅で待っていると、障子が開く。
利津 「弥生とか申したな。もそっと近こうへ」
ここまで来たら話を聞いてやるしかない。弥生は廊下近くで跪く。
利津 「そこでは遠い、もそっと」
弥生は恐縮しつつ、廊下にて手を付く。
利津 「何用あって、わが屋敷に参った」
弥生 「はい、あの、誠に不躾なお願いとは存じますが。この私に働き口のお世話
をいただきたく…。いえ、あの、何でも致します。水汲み、薪割り、どの様
なことでも致しますので、何卒、何卒…」
利津 「左様か。しかし、その様なことで、誰がこの坂田へ参るよう勧めたの
じゃ」
弥生 「先程も申しましたが、こちら様、坂田様の殿様も奥方様も大層お情け深い
方と伺っておりました故。是非にも、そのお慈悲におすがり致したく…」
利津 「して、親族は」
弥生 「はい、私の上に姉がおります。そして、この度、姉が婿を迎えることとな
りました。暮らし向きのこともございますが、家も狭く…」
確かに、姉が婿摂りをすれば、年の近い妹は邪魔かもしれない。だが、その妹の処遇については本来なら父親が考えるべきではないのか。それを妹自身が、見ず知らずの他人に働き口を頼むとは…。
利津 「父は何をしておる」
弥生 「はい、傘張りを致しております」
利津は別に内職のことを聞いた訳ではない。娘の今後について思いがあれば聞いて見たかったに過ぎない。おそらく真面目だけが取り柄の男だろう。また、頼れる親戚もないのだ。それにしても、思い切ったことをしてくれたものだ。
利津 「左様か。一つ、心当たりがあるが、明日でも良いか」
弥生 「えっ、あの、それは誠にございますか」
利津 「この坂田が嘘偽りを申すと思うてか」
弥生 「とんでもございません。あまりのことに…。ありがとうございます、あり
がとうございます。死んでもこのご恩は忘れません…」
嬉しさのあまり、思わず涙が廊下に流れ落ちてしまう。慌てて長襦袢の袖で廊下を拭う弥生の前にも茶と菓子が出される。
利津 「まあ、茶でも飲むがよい」
弥生 「ありがとうございます。私の様なものの願いをお聞き届け下さいまして、
本当に何とお礼の言葉もございません」
と、またも涙にくれる弥生だった。
利津 「これ、茶が冷めるわ」
弥生は茶を押し戴く。利津は女中に饅頭を持ちかえらせるように言い付ける。手土産の饅頭までもらい、何度も頭を下げながら坂田家を辞した弥生だった。
今までにこんな嬉しいことがあっただろうか。坂田家の奥方は聞きしに勝る慈悲深い方であった。無礼者と追い払われても致し方ないのに、話を聞き働き口も世話してくださる上に手土産までも…。
きっと今頃は、家で母と姉が怒っていることだろう。それでも、自分の話を聞けば喜んでくれるに違いないと、弥生の足取りは軽かった。
だが、その我が家では、弥生の想像を超えた母と姉が般若の形相で待っていた。
紗月 「弥生!!」
その声とともに、土間に突き飛ばされてしまう。
紗月 「出ていけ!ようもこの家の敷居が跨げたものよ」
母 「そのつもりで出て行ったのであろう!」
弥生 「違います!違うのです、これには」
紗月 「何が違うと申すか!黙って出て行った者に用はないわ!」
母 「我が家にはその様に勝手な娘はおらぬわ!」
弥生 「実は、話を聞いて、わっ」
紗月が側の箒で弥生を打ち据える。確かに黙って家を出たのは悪いが、話を聞いてくれぬばかりか、箒で打たれるとは思いもしない事だった。また、それはいつもは庭の隅に置いてある箒だった。このために用意していたしていたのか…。
その時、母親が弥生の側に落ちている小さな包みを見つける。
母 「これは何じゃ」
弥生 「それは…」
弥生が言うより早く、紗月が包みを開ければ中身はおいしそうな饅頭だった。
紗月 「これはどうしたのじゃ!」
紗月が母親と同じ言葉を繰り返す。
弥生 「ですから、話を聞いてくださいと言ってるではないですか」
そして、いつの間にか来ていた父親が弥生に手を差し出すが、弥生は一人で立ち上がり着物の砂を払う。いくら婿養子とは言え、何が起ころうとも空気のような存在でしかない父親に何も期待していない。それにしても、利津からの手土産のお陰で座敷に上がることを許されたのだ。
----明日にはこの家を出られる。
紗月 「これはいかなること。有態に申せ!」
母 「全くもって、これをどこで」
座敷に移っても、母と姉の物言いは変わらないが、弥生は背筋を伸ばして言う。
弥生 「お旗本、坂田様の奥方様から頂いたものにございます」
紗月 「坂田様だとぉ。嘘を申すではない!」
弥生 「嘘ではございません」
紗月 「何を戯けたことを。第一、坂田様とは面識もないではないか!」
弥生は坂田家を訪ねた経緯を話すのだった。
紗月 「何と、厚かましいっ」
母 「ようもそのように恥知らずなことが出来たものよ」
弥生 「でも、奥方様は私の気持ちをお汲み取りになり、心当たりがあるゆえ、明
日出直して参れと、こうしてお土産までくださったのです。何と、おやさし
い、お情け深い方でございましょう…」
と、長襦袢の袖を目元に当てるのだった。利津のことを思い出せば胸も熱くなるが、まさかの仕打ちに涙も引っ込んでしまう。
紗月 「それは誠かぁ」
まだ、紗月は疑いを捨てきれない。
弥生 「誠のことです。なんで、この期に及んで私が嘘を申しましょうや」
紗月 「それならそうと、最初から言えばいいではないか。それを黙って出て行く
とは」
弥生 「では、私がそのように申せば、黙って行かせてくれましたか」
それこそ、力づくで阻止しただろう。
紗月 「ならば、早う、夕餉の支度を致せ!」
と、紗月の高い声が響く。弥生は立ち上がった。もう、この家の掃除もその他の家事もあと少し、明日からはしなくていいのだと思えば、気持ちも軽い。
思えば三、四歳くらいから箒を持たされ、洗濯炊事と母から怒られながらやらされたものだ。さらに、紗月は寺子屋へ通うようになるが、弥生は母からわずかな読み書きと算盤を習ったに過ぎない。その後、紗月はお茶とお花の習い事を始めるが、弥生は家事と畑仕事にも追われるばかりであった。
また、一家で傘張り内職もしていた。これは紗月も手伝うが、紙を手元に置いたり、張り終えた傘を乾かすために移動させるくらいのことでしかない。
よく、時代劇で長屋の浪人者が傘張りをしているシーンがあるが、張った後の傘は乾かさなくてはならない。長屋住まいではそのスペースがない。実際の長屋の浪人は傘の骨加工をしていたのだが、傘張りの方が絵になる。
いつもの様に家事を終え、いつもの様に床の中で紗月のいびきを聞くが、中々に寝付けない弥生だった。別に紗月のいびきが気になる訳ではない、いつものBGMである。
明日からは違う場所での暮らしが始まり、違う布団で眠るのかと思えば、何か興奮して眠れないのだ。今までにそんな経験はない。それにしても、どんなところで働くのだろう。どこでも、どんなところでもいい。一生懸命働けばいくら何でも邪魔者扱いはされないだろう。
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