第62話 倒れる…

----えっ、ここはどこ…。どこって、どこもここもないね。ここは、ここは地面じゃないの。ふぁ、このあたしが、地面に寝てる…。えっ、なぜ、なぜ、どうしてどうして、ねぇ、どうしてよぅ、誰か、おせーて!それより、誰か起こしてくんない。こんないい男が倒れてんだよ。ちょいと、そこの足。歩いてる足。そっちじゃないよ。どうして、こっちへ来てくんないのさ。


 これは夢かうつつか、はたまた幻か…。

 いや、この地面の感触と臭い。決して気持ちいいものではない。それでも顔の下には袂が敷いてある。


----どう、こんな時でも、男なら、顔に泥を塗っちゃあいけないと言う、このきめ細やかで気概に満ち溢れた男伊達。それにつけても、よよよよう…。

 

 一刻も早く起き上がりたいのに、体が思うように動かせない、動かない。それでも何とか少し片膝と片掌を付くことが出来た。だが、これまた思うように力が入らない。

 それにしても、倒れている人がいるのに見向きもしないで行ってしまうとは、世知辛い世の中になったものだ…。人通りはあるのに、誰も知らん顔。ちらと目を向けるも皆すぐに去ってしまう。

 何とか上体を起こすことが出来、辺りを見回せば、どうやら、朝のようだ。急ぐのもわかるけど、ちょっとくらい、声くらいかけてくれもいいじゃないかと思わずにはいられない。

 とにかく、立ち上がらなくてはと足に力を入れ、何とか立ち上がることが出来た。


----えっ、あたしは拮平ちゃんだけど、ここはどこ…。どうして、このあたしがこんな所に居んの…。


 と、記憶を手繰り寄せる。


----そうだ、ここであたしは倒れたんだ…。でも、その時は目の前に人がいた。


 少し離れた所にも、男女がこっちを見ていた。


----なのに、あれから、ずっと、ここ、かい…。


 訳がわからないまま立ちつくす拮平だった。

 そんな拮平の様を、物売りが笑いながら通り過ぎていく。物売りだけではない、道行く人も笑っていた。それを見澄ましたかのようにカラスも鳴く。


拮平 「何だい、カラスまでこのあたしを馬鹿にしてんのかい」

 

 無理もない。どこかの旦那風の男が朝早くから泥だらけのなりで、ぼうっと突っ立っているのだ。どうせ、女か博打でカモにされたのだろう。身ぐるみ剥がされないだけ良かったな、と言ったところだ。

 拮平も気が付いて、すぐに着物付いた泥を落とすが、それでも完全に落ちた訳ではない。


拮平 「帰って、女中にきれいにさせよっと」

 

 と、ふらつき加減で歩き出すも、まだ頭はぼんやりしている。


拮平 「えっと、えっと、なんだったけ。あっ、ここはどこ」

 

 このまま歩いて行けば、大きな通りに出そうな気がしているだけ。

 それにしても…。

 まだ、昨日のことがはっきり思い出せない。確か、昨日は…。


----あの、こ憎たらしいじゃない、憎々しさの塊。それがこの頃、鱈も顔負けに食うものだからすっかり太りやがって。少しは痩せなきゃとか言いながらも、食うんだからさ。昨日も食べながら、それも夕方近くに言いやがった。


 ちなみに、たくさん食べることを、たらふく(鱈腹は当て字)と言う。事実、鱈と言う魚の胃袋には本当にたくさんの物が詰め込まれている。だが、鱈とはエサ環境の悪い所に生育する魚で、食べられる時にたくさん食べておかなければ、この次いつエサにありつけるかわからないので、食べられる時にはいっぱい詰め込む魚であり、決して単なる大食いの魚ではない。


お芳 「これを届けておくれ」

拮平 「届けるだけなら、小僧でもいいんじゃ」

お芳 「そうはいかないよ。何しろ、私の親戚だからさ」

拮平 「親戚なら、自分で届ければ」

お芳 「なんで、この私が。いえ、これでも私は忙しくてさ」

拮平 「食う寝ることに」

お芳 「何だってぇ」

拮平 「いえいえ、こちらのこと。わかりましたよ。でも、今から行けば夜になっ

   て、辺りは暗くなって、腹が減っても、出てくるのは幽霊くらい。幽霊には

   お足がないので、腹の足しにもなりゃしないっと」

お芳 「何だよ、男のくせに。ちょいと、遅くなるだけじゃないか」

拮平 「はいはい、では、小僧連れて行きますから」

 

 と、拮平は手を出す。


お芳 「なにさ、それ」

拮平 「これはあたしのじゃないですよ、小僧の蕎麦代を」

お芳 「それくらい、自分で出しな」

拮平 「いえいえ、公私の区別はつけなきゃ」

お芳 「あっ、でも、それほどのことはないさ。これだけでさ、荷物ってほどでも

   ないから、一人で行っといでよ」

拮平 「おや、まあ、白田屋の若旦那が出先に行くのに、小僧も無しですかい」

お芳 「反物じゃあるまいし、たったこれだけの足袋じゃないか。遊ぶ時は誰も連

   れてかないくせに」

拮平 「当然ですよ。この店の誰か連れて行った日にゃ、後でえらい目に合います

   からさぁ」

 

 拮平は側で饅頭のおこぼれに預かり、必死で口を動かしているお菊に流し目をくれてやる。

 拮平はここのところの芝居見物で、すっかり役者の流し目にハマっていた。それじゃ、自分もと思い鏡の前で色々やり、ついに、これぞ拮平流の流し目を完成させる。だが、そう簡単に誰彼の区別なく流し目を見せてたんじゃ、あちこちの女から惚れられて身が持たない。


----この流し目はいざって時のために取っとかなきゃ。


 そう思ったものの、選り好みしているうちに、使わず仕舞いになっていた。


----これじゃ、宝の持ち腐れ。よし、お菊にゃ勿体ないが、ここであたしの魅力を見せつけてやろう。それっ。


 お菊は一瞬ぎくりとする。


----どうだ、参ったか。でも、あたしに惚れても駄目だよ。いや、本気にさせてポイしてやろうか。こんな時は、さっと消えた方が女は余計気になるってもんだ。


 と、足袋の束を掴むもお芳に呼びとめられてしまう。


お芳 「あっ、ちょいと、拮平。何だね、行き先も聞かないでどこ行くのさ。全

   く…」

----そうだった。これはあたしとしたことが。

お芳 「お前はいつもそうだからさ。これに書いといたよ。いいかい、この紙失く

   すんじゃないよ」

 

 と、簡略な地図が書かれた紙を受け取り、もう一度、お菊に流し目を。


お芳 「まあ、出かけるときくらい挨拶できないのかね。子供じゃあるまいし」

拮平 「はいはい、では、行って参りますっと」

お芳 「返事は、一回!」

拮平 「まあ、そんなぁ。寝床は二階」

 

 拮平が去ってからお菊が言う。


お菊 「ご新造様、若旦那、目が悪いんですか」

お芳 「別に悪かない筈だけど」

お菊 「ええ、何て言うんですか、ほら、ものを真っすぐに見られない人っている

   じゃないですか」

お芳 「ああ、斜視とか言う」

お菊 「そう、その斜視。今、若旦那、そんな目してましたもの」

お芳 「へえ、拮平が斜視ねえ。気が付かなかった」

 

 お芳とお菊がそんな話をしていた頃、拮平は例によってお里に捉まっていた。


お里 「若旦那、お出かけですか。どちらへ」

 

 これまた、例によって、拮平にくっついて何か買ってもらおうと言う魂胆でしかない。


拮平 「ここだよ」

 

 と言って、地図をひらひらさせる。


お里 「ここって遠いんですか」

拮平 「ちょいとあるし、この辺り田舎だよ」

お里 「いってらっしゃーい、ませ」

 

 かくして、足袋を持った拮平の一人旅は始まる。

 地図を見たり、尋ねたりしながらの拮平の小旅は順調だった。


拮平 「たまにはこうして知らないところを歩いてみるのもいいもんだね。案外

   さぁ、こう言うところで、思いがけない出会いがあったりして…。そうだよ

   な、町の娘もいいけど田舎の娘なんて、きっと純情なんだろうねぇ。ホン

   ト、いい出会いがないものかねぇ」

 

その時、猫の鳴き声がした。見ると、足元に白猫がいた。


拮平 「何だい、猫かい。でも、白い猫ってかわいいね。黒はさ、夜なんか見ると

   ちょいと気味悪いけど、やっぱり白っていいね、白猫ちゃん」

 

 拮平は今一度地図を確認する。


拮平 「それにしても、もう少し丁寧に書けないものかね。真っすぐな道が曲がっ

   てんだからさ、まるで、お芳の心根と同じゃないか」

 

 拮平が角を曲がるより先に白猫が歩いて行く。


拮平 「おや、同じ方向かい」

 

 突き当りの家がそうだった。


拮平 「道案内ご苦労だったね、白猫ちゃん」

 

 だが、猫は家の中に入って行く。どこの家でも遠慮しないのが猫だと思いつつ、拮平が声をかけようとした時、家から一人の女が出て来た。


女  「まあ、これはようこそ。さあ、どうぞ、お入りくださいませ」

 

 拮平は一瞬えっと思う。いくらお芳から何か聞いていたとはいえ、知らない男が尋ねて来たというのに、疑いもせず家の中に誘うこの娘。また、娘と言うにはちょっと年がいってる。さすがお芳の親戚だ。ここにも行き遅れの娘がいた。


----えっ、まさか。この娘と…。そう言うことじゃないよ、そうはこの拮平問屋が卸すもんかい。用が済んだら、さっさと帰えろっと。


拮平 「これは、はじめまして、白田屋にございます。本日は御注文の品をお届け

   にあがりました」

女  「えっ、ああ。どうぞ、お上がりくださいませ」

拮平 「いえいえ、ここで失礼させて頂きます。どうぞ、お受け取りを」

 

 と、足袋の包みを差し出した時。奥から女の母親が出て来る。


母親 「どうぞ、お上がり下さいませ」

 

 いやだ、上がりたくない。これはやっぱり見合いではないか。


----お芳の奴め、こんなだまし討ちしおって。覚えてろよ、帰ったら只じゃ済まさねぇからな。


拮平 「いえ、まだ、所用がございますもので、これにて失礼いたします。おっか

   さんからもくれぐれも遅くならないようにと言われてますもので」

父親 「まだ、よろしいではございませんか」

 

 その声は拮平の後ろから聞こえた。振り向けばいつの間にやって来たのか父親が立っていた。そして、白猫が、みおっと鳴いた。


----えっ、親父まで出て来て、挟み打ちかい。いいよ、そんなに言うんなら上がってやろうじゃないか。でもさ、あたしゃそんなに甘かぁないよ。


 と、覚悟を決めて部屋に上がるも、そこでまたびっくり。そこには十数匹の猫が鎮座しているばかりか、白猫もさも当然そうにその中に入って行く。


拮平 「これはまた、たくさんの猫ですね。お好きなんですね」

 

 万が一にもこの娘を嫁にすれば、きっと猫も付いて来るだろう。


----猫付き娘?いや、一人娘の様だから、家付きジジババ付き猫付きの婿養子…。

 

 どうやら、あのお芳は拮平を婿養子にして家から追い出す気らしい。


----あの、アマ!

母  「いえ、なぜか、この家には猫が寄って来るのです。何と申してましても生

   きものですから、つい、かわいくなって。そう致しておりますと、いつの間

   にかこの様になったような次第でして。猫はお嫌いですか」

拮平 「いいえ、取り立てて好きと言う訳でもありませんが、嫌いでもありませ

   ん」

母  「それは良かった」

拮平 「あの、これがご依頼の足袋です」

母  「それはどうも」

拮平 「あの、ところでうちの母とご親戚だそうで。私は全く存じ上げないもので

   すから」

母  「それは、母方の従兄弟の嫁の妹の婿の親戚筋に当たります」

----えっ、それって、他人じゃないの。


 その時、娘が茶を運んでくる。


拮平 「これは、どうも、頂きます」

 

 そして、次は娘と父親が拮平の前に料理を並べる。さすがにこれには驚いてしまう拮平だった。


拮平 「いえ、あの、すぐに失礼致しますので、どうぞお構いなく…」

父  「そんなことおっしゃらずに、どうぞお召し上がりください」

 

 と、父親は言うが、品数はそれほど多くないにせよ、大ぶりの器が箱膳の中で窮屈そうにしている。


----何、これってどう言うこと。えっ、ひょっとして、これ、全部食べきるまで、帰れない…。 


 これは何とかしなくてはと、焦る拮平だった。


拮平 「あ、あのその、実はですね。私は子供の頃から胃が弱く、至って小食でし

   て」

父  「では、お粥をお作り致しましょうか」

 

 と、食事のことなのに親父が言う。ひょっとして、これを作ったのはこの親父なのか。


拮平 「いえいえ、いえ、その、お粥とかではなくて、毎日決まった時間に食べな

   いと調子が悪くなりまして、まだ、私の腹、体内時計が受け付けませんもの

   で…。虚弱体質と言うのも、これで中々辛いものがありまして。それで、付

   き合いも悪く友達も少ないと言う至って、引っ込み思案でもありまして」

母  「さようですか、とてもそのようには見えませんけど」

拮平 「はあ、それはこの顔のせいです。亡き母に似て、顔の造りが陽気なもので

   して…」

----これくらい言っときゃ、この縁談もなくなるだろう。

拮平 「申し訳ございませんけど、これにて失礼致したく存じ上げ、たてたて、よ

   こよこ、ますます」

 

 やっとの思いでその家を出ることが出来た拮平は、角を曲がるとよたよたと走り出す。そして、やっと一息ついた時、猫の鳴き声がした。


拮平 「何だよ、白猫ちゃんじゃないの。お見送りはもうここでいいから、さっ、

   お帰り」

 

 と、辺りを見回せば、はて、ここはどこだろう。懐から地図を取り出してみるも、やって来た道なりの簡略図だから、さっぱりわからない。

 あの家から一刻も早く立ち去りたかったものだから、適当に角を曲がってしまい、どこともつかぬ所に迷い込んでしまったようだ。


拮平 「それにしても、静かなところだね。この辺りの住人はみんな留守なのか

   い。それとも、こんな明るいうちからもう寝てる?それは…。いえいえ、別

   にあたしゃ、いやらしいこと考えてんじゃござんせんよ」

 

 しかし、早いうちにここから抜け出さなければ、もう、日暮れも近い。ひょっとして、逆の方向ではないかと思い、今来た道を引き返してみることにした。


拮平 「猫を道連れに知らない町を徘徊する拮平ちゃんか。これって、絵にならな

   くもないのに、誰も見てくれる人がいないとはねぇ」

 

 だが、ふと、気が付けば猫が前を歩いている。まるで、行きの道で出会った時の様に…。


拮平 「おっと、駄目だよ、白猫ちゃん。その手、足にゃのらないよ。元のあの家

   に逆戻りは嫌だよ。じゃ、あたしはこっち行くからね」

 

 と、猫の鳴き声を尻目に反対側の角を曲がる拮平だった。

 それから、どれくらい歩いただろうか。日が陰って来た。いや、それより、何か、同じところをぐるぐると歩きまわっている様な気がしてならない…。


拮平 「弱ったな、誰かいないかな…」

 

 その時、前方から職人風の男が歩いて来た。


拮平 「あの、もし、ちとお尋ねいたしますが、ここはどこ、何町でしょうか」

 

 男は拮平の知らない町名を言う。


拮平 「では、ここからどのように行けばよろしいでしょうか」

男  「さあ、この辺りのことには詳しくないもので」

 

 と、さっさと行ってしまう。


拮平 「何だい、これじゃ、何にもなりゃしないじゃないか。知らないからって

   さぁ、もちっと親切に出来ないものかねえ。全くいやな世の中になったもん

   だよ」

 

 と、毒づく拮平だが、とにかく早く何とかしなければ、本当に真の闇がやって来る。

 そして、歩けど歩けど、人の姿は見えないどころか、本当に日が暮れて来た。


拮平 「ヤバイよ、提灯持ってないのに…」

 

 この時代、夜道を歩くのに提灯を持ってなければ不審者とみなされるのだ。只でさえ、心細いのに不審者に間違えられては…。


拮平 「いや、待てよ。むしろその方がいいんじゃないの。何てたって、このあた

   しはさ、あの白足袋で有名な白田屋の息子だからさ。で、隣にゃ本田屋とい

   う大きな呉服屋があってさ。そこの奴らはみんなあたしのこと知っててさ。

   身元確かなあたしなのよ。だから、誰か現れて。その辺から現れて、お

   や、どこかいいとこの若旦那じゃありませんかとか。何だったら、不審者と

   間違えて番屋に付きだしてくんない。役人連れて来てもらってもいいのよ。

   別に夜道が恐いって訳じゃないけど、知らないところを知らないまま歩く

   のってものすごく不安なのよ。ねえ、誰か現れて…」

 

 その時、前方にぼんやりと灯りが見える。その灯りに向かって行けば、それは屋台の蕎麦屋だった。


拮平 「ああ、よかったぁ…。まさに、地獄で仏とはこのことだね」

 

 急に腹も減って来た。


拮平 「蕎麦、頼むよ」

蕎麦屋「あの、お客さん。申し訳無いんですけど、もう、蕎麦終わっちまったんで

   すよ」

拮平 「ええっ、こんな時間にもうないの?」

蕎麦屋「ええ、今日は随分と出ましてね」

拮平 「この辺り、そんなに人出があるとは思えないけど」

蕎麦屋「昼間はこの先で工事やってるもんだから、特に今日は、もう想定外」

拮平 「そりゃ、想定が甘すぎるんだよ」

蕎麦屋「まあ、そんなとこで…」

拮平 「商売人がそんなことじゃ駄目だよ」

蕎麦屋「まことに、面目ねえ次第で」

 

 その時、拮平の腹が鳴る。


拮平 「だけどさ、何か食べるものない?もう、腹減っちゃって減っちゃって…」

蕎麦屋「そう、残ってるものって言や、かけつゆとねぎと竹輪が少し」

拮平 「それ、それでもいいや。もう、喉も乾いてさ。ねぎと竹輪につゆぶっかけ

   とくれ」

 

 かくして、蕎麦抜きのつゆと具を流し込む拮平だった。

 お代りを頼むと、今度はねぎが浮かんだつゆが出て来た。


拮平 「何さ、これ。竹輪ないのっ」

蕎麦屋「ええ、最初のに全部入れちまったもので、ねぎもこれで終わりでして。

   あっ、つゆならありやすんで、お代りどうぞ」

拮平 「いらないよ。つゆばかり飲めるかい」

蕎麦屋「いやぁ、これでも長い間、蕎麦売ってますけど、こんなに出払ったのは初

   めてですよ。いやぁ、すっきりしていいもんですね」

 

 すっきりしたのは蕎麦屋だけだが、それでも帰る道順を教えてくれた。


蕎麦屋「でも、まだ、遠いですよ。そうだ、旦那、提灯いりやせんか」

拮平 「おや、提灯あるのかい。気が効くじゃないか」

 

 と、灯りを付けた提灯を差し出す蕎麦屋はもう一方の手も出す。


拮平 「やっぱり…」

蕎麦屋「そりゃ、只なものはないですよ。これでも商売人ですから」

 

 蕎麦抜きの代金は一杯分でいいとか言ったが、提灯代は高かった。


----足元見やがって。


 それでも一応空腹は紛れ、提灯もあることだからと歩きだすが、すぐに疲れがぶり返して来た。胃の中で、つゆにねぎと竹輪が浮かんでいるのがわかる。


----こんなつゆ腹じゃ…。


 また、こんな時に限って駕籠屋が通らない。必要ない時にはしつこく声をかけて来るくせに、必要な時にはさっぱりなのが駕籠屋だ。

 だが、本当に疲れて来た。足が重い。自分の足でない様な…。

 ついに崩れる様に膝を付いてしまう。


----迷惑かけるね。申し訳無いね、そこの人…。


 その時は目の前に人がいた。そして、拮平は倒れたのだった。

 気が付けば、どこかの家、番屋の中、医者宅か、そう思いつつ力尽きたのに、実際に気が付けば何も変わりない。いや、朝になっただけ。それでも、歩くしかない。


----誰も助けてくれないなんて。ホントに、かわいそうな僕…。


 仕方なく、また、とぼとぼと歩けば、やっと、知った道に出ることが出来た。そして、この先には何でも屋がある。


----ああ、助かった…。


 何でも屋まで、後少しだ。

 何でも屋の朝は、お澄が朝食の準備をしている間に、万吉と仙吉が仕事場の清掃をする。


仙吉 「若旦那!」

 

 店の前を掃いていた仙吉が思わず声をあげる。なんと、向こうから、それも折りたたんだ提灯を握ったままふらふらと歩いて来るのは、拮平ではないか。急いで駆け寄り拮平を抱える様にして店の中に入れば、墨を摩っていた万吉も驚いて手を止める。


万吉 「若旦那」

 

 取り敢えず拮平を座らせるが、今にも崩れそうだった。


万吉 「どうなさったんですか」

拮平 「はっ、腹減って、何か…」

 

 二人して拮平を座敷に運び、万吉が自分の茶碗に炊き立てのご飯をよそえば、仙吉は拮平に箸を持たせ、漬け物を出す。それにしても、温かいご飯のおいしいこと、漬け物だって今の拮平にとっては最高のおかずだった。


万吉 「お澄、みそ汁まだかい」

お澄 「いま、出来たよ。そんなに急かさなくったって…。あら、若旦那、あの、

   何があったんですか」

万吉 「そんなことより、早く若旦那にみそ汁を」

お澄 「はいはい、でも、熱いですから気を付けてくださいね」

 

 ああ、朝のみそ汁がこんなにうまいものだとは…。

 その食べっぷりに圧倒されたかのように、三人は自分達の食べる事も忘れるほどだった。やがて、散々食べて人心地ついた拮平が言った。


拮平 「ああ、うまかった…。もう、死ぬかと思った…」

お澄 「こんな朝っぱらから、どうなさったんですか」 

拮平 「いや、話せば長くてさ。今度、うまいもの、鰻でもおごるからさ、ちょい

   と寝かせとくれ。もう、疲れて疲れて…」


 隣の部屋に布団が敷かれ、拮平は早速にもぐりこみ、すぐに高いびきで寝てしまう。


仙吉 「何があったんすかね」

お澄 「まあ、それは若旦那が起きてからのことにして。こっちもご飯にしよう

   よ」

 

 昼前にやっと目を覚ました拮平から話を聞いた三人は思わず顔を見合わせる。

 ひょっとして、この前の猫屋敷の…。

 

拮平 「そんでよ、しどいと思わないかい。屋台の蕎麦売りのくせに、あんな、ぼ

   ろ提灯高く売り付けやがって。あっ、提灯は」

 

 よほど、提灯の値段が気に入らなかったようだ。


お澄 「大丈夫ですよ、ちゃんとありますよ」

拮平 「それよりもどうよ。こんな時でもちゃんと火を消す、あたしの気の細やか

   さ。我ながら、感心ってもんじゃない」

万吉 「それより若旦那、その猫屋敷のことですけど、場所どこなんです」

拮平 「もう、そんなもの知るかい!まあ、いいや、ちょいと聞いとくれ。実はな、

   あれは、お芳の奴が足袋を口実にこのあたしに長旅の足袋を履かせて追い出

   そうとしたんだ。わかる?この足袋と長旅をかけた、高尚な洒落っ」

万吉 「さすがっ」

仙吉 「ホント、憎いねぇ」

お澄 「いい男っ」

 

 猫屋敷の場所が早く知りたい三人は、取り敢えず拮平を持ちあげる。


拮平 「その家にゃあよ、行き遅れの娘がいて、どうやら、その行き遅れとくっつ

   けて、このあたしを白田屋から追い出すつもりだったんだよ。ふん、誰がそ

   の手にゃのるかいってんだ。何さ、あんな年増。あたしはさぁ、二十歳以上

   は駄目っていつも言ってんのにさ。全くもって」

お澄 「いえ、ですから、その家の場所はどの辺りなんです」

拮平 「どの辺りって、ああ」

 

 拮平は懐からくたびれた紙きれを取り出し、万吉が受け取る。


拮平 「でも、駄目だよ、それ、子供のお絵描きよりひどくてさ。その通り行っ

   たって怪しいよ。そこへ、どこからともなく現れたる一匹の白猫。この猫が

   賢くてさ、その家まで案内してくれったって訳よ。猫までは良かったけど、

   あの家の連中ときたらさぁ」

お澄 「それは大変でしたね。あの、若旦那、お疲れでしょ、よろしかったら肩で

   もお揉みしましょうか。仙ちゃん、早く」

仙吉 「えっ、はいはい」

----何だ、自分が揉むんじゃなかったのか。

拮平 「そうかい、そりゃいいな。もう、体中痛くて痛くて。ああ、きもい…。

   あっ、これ、気持ちいい方のきもいだから」

 

 仙吉が肩揉みをしている間に、万吉が拮平の目に触れないように地図を書き写す。


お澄 「はい、お茶が入りました」

拮平 「おう、今日は三人ともいやに気が効くじゃないか。それにしても世知辛い

   世の中になっちまったものだね。人が倒れたって知らん顔してさ。普通、ど

   うなさいましたか、お加減でも悪いのですかとか聞くもんじゃないかねぇ」


 それは酔っ払いが寝転がっているとでも思われたのだろう。


拮平 「ああ、お陰で楽になった。じゃ、またな」

万吉 「もう、楽しみにしてますよ、若旦那」

 

 万吉が地図を返しながら言う。


仙吉 「で、いつですか」

拮平 「まあ、近いうちってことで、そろそろ帰って今日こそお芳め。待ってろ

   よ」

 

 と、立ち上がる拮平。


仙吉 「じゃ、若旦那、そこまでご一緒に」

拮平 「仕事かい」

仙吉 「ええ…」

拮平 「あっ、提灯忘れるとこだった」 

 

 拮平と仙吉が出て行くと、万吉とお澄は江戸地図を広げ、書き写したものと照らし合わせてみる。

 一方、途中で拮平と別れた仙吉は、回り道をして本田屋の裏口に行き、顔なじみの女中に真之介への言伝を頼む。

 そして、当の拮平はとんでもない事実を付きつけられる。


お里 「これじゃ、洗い張りにしないと駄目ですね」

拮平 「そうかい、じゃ、頼むよ」

 

 単衣の着物なら、そのまま水洗いできるが、袷の着物は糸を解いて洗い、板に張り付けて乾かすことを洗い張りと言う。高価な絹物は伸子張しんしばりと言う方法がとられる。


お里 「そんな簡単に言って、ご新造様が怒ってますよ」

拮平 「あいつのせいで、あたしはえらい目にあったんだからさ。怒りたいのはあ

   たしの方だよ」

お里 「そうですか」

 

 と、お里が妙な笑いをする。その時、どたどたと廊下を駆けて来たのがお芳だった。


お芳 「拮平!今までどこをほっつき歩いてたんだい!この役立たず!」

 

 その時、天の声が聞こえた。


天の声「やられたらやり返せ」

----わかったよ、その通りだね。真ちゃん、今日の僕はちょっと違うよ。

拮平 「あんだって!そりゃ、こっちの台詞だよ!お陰でひどい目にあったんじゃな

   いかさぁ!」

お芳 「何がひどい目だ。どうせ」

 

 と、お里が袖畳みしようとしている拮平の着物に目がいく。


お芳 「ちょいと、何、この着物。こんなに、汚れてるだけじゃなくて、擦れち

   まってるじゃないか。まあ、お前の着るものだからいいけどさ。それにして

   も、子供より始末が悪いね。いや、こうなったら、まだ、うちの小僧の方が

   マシじゃないか」

拮平 「じゃ、その小僧を婿入りさせれば。こっちはあんな行き遅れ、願い下げだ

   からさ」

 

 行き遅れと言う言葉が、お芳の神経を逆なでする。お芳自身があれこれ選り好みしているうちに、行き遅れてしまったのだ。そこで、金のある男に的を絞り、自分と同い年の息子がいる嘉平で手を打つことにしたのだが、改めて、それもこの拮平から言われてはたまったものじゃない。それにしても、この拮平とはどうにも性が合わない。


お芳 「何さ、役立たずのくせして、訳のわからないこと言うんじゃないよ。私が

   何も知らないと思ってんのかい。少し前に、肝心の遠縁から連絡があった

   よ。足袋はまだかいってね」

 

 お芳は凄みを利かせる。


拮平 「何、寝言言ってんのさ。昨日、ちゃんと渡して来たさ」

お芳 「昨日は、誰も来なかったって」

拮平 「はあぁ、受け取ったくせに貰ってないとは、はははははっ。ああ、可笑

   し」

お芳 「惚けんじゃないよ!それじゃ、何かい、私の親戚が受け取ったのに受け

   取ってないと嘘付いてるとでも」

拮平 「そうなりますね、おっかさん」

お芳 「うるさいわ!黙って聞いてりゃ、勝手に調子こいて。よくも私の親戚を、

   いや、この私をコケにしてくれたもんだよ。やい!拮平!今日と言う今日はお

   前の性根叩き直してやる。覚悟しやがれ!」

 

 と、怒りの収まらないお芳はお里から拮平の着物をもぎ取り叩きつける。


拮平 「何、すんだよ。この更年期女!」

お芳 「誰が更年期だって!」

拮平 「そりゃ、目の前の…」

 

 と、拮平が着物を拾い上げた拍子に、いつの間にか裾を踏んでいたお芳が大きくよろめき尻もちを付いてしまう。

 こうなったら、もう、さすがのお里もどうしていいかわからない。だが、その頃には廊下に女中達がこの義親子ケンカを見物に来ていた。そして、お里を手招きする。何か訳のわからない奇声をあげたお芳は着物を掴んでいた。


拮平 「放しとくれ。これはあたしの着物だからさ」

 

 お芳は着物を掴んだまま立ち上がるが、互いに掴んでいたところは袖だった。それを引っ張り合ったものだから、袖付けに亀裂が入ってしまう。


拮平 「何だよ、こんなになっちまったじゃないか!」

お芳 「何さ、こんな着物!」

嘉平 「お止め!二人して、一体、何やってんだよ。見てごらん、いい笑いものじゃ

   ないか。さあ、お前達もあっちへお行き」

 

 女中達は渋々その場を去る。


お芳 「お前さん、よよよよっ」

拮平 「あーぁ、やると思った、それ」

お芳 「拮平がさ、あたしのこと突き飛ばしたんだよ」

拮平 「呆れた。ものはいい様だね」

嘉平 「いい加減にしないか、二人とも」

拮平 「ああ、おとっつぁん、その二人ともって言い方やめてもらえませんかね。

   こんなのと一緒くたにされたんじゃ、気分悪くてさ」

お芳 「そんなの、私の方がもっと気分悪いよ!」

嘉平 「お止めったら!本当にいつまで経ってもこんなことじゃ私が困るよ」

お芳 「でも、お前さんだって知ってるだろ。親戚の足袋のこと」

嘉平 「ああ、そうだ。拮平、昨日はどこへ行ってたんだい。聞けば、地図持って

   出かけたって言うじゃないか。それなのに、一体今までどこで何してたんだ

   い」

拮平 「ええ、その地図のお陰で、いいえ、うっかり、この女の策略に嵌るところ

   でしたよ。おとっつぁんもおとっつぁんだよ。それとも知らないとでも。な

   ら、相当、鼻の下が長いねっ」

嘉平 「お黙り!」

 

 拮平が言い終わらないうちに、嘉平が一喝する。


お芳 「何なんだよ。私が知らない話と昨日の足袋と何の関係があると言うんだ

   ね」

拮平 「昨日さぁ、尋ね尋ねてその家に行ったさ。そこには娘がいてさ」

お芳 「娘なんていないよ!」

拮平 「いたんだよ。結局、あれって見合いじゃなかったのかね」

お芳 「知らない!私、本当に知らないよ。本当だったら!」

嘉平 「拮平、それ、どこの家の話なのさ。私も見合いなんて全く知らないしさ。

   この期に及んでお芳が嘘をつくとも思えないんだけど。ねえ、お芳」

お芳 「私、本当に知りませんよ」

 

 どうやら、お芳も本当に知らないようだった。


拮平 「えっ、でも、猫がいてさ、随分歓待してくれたよ」

お芳 「猫はいるけど、娘のことは知らない」

嘉平 「どこかの家と間違ったんじゃないのかい」

 

 拮平は懐に手を入れて見るが、着替えたので何もない。辺りを見回すと例の紙切れが落ちていた。


拮平 「この地図に添って行ったんですけどね」

 

 嘉平に紙きれを手渡す。


----ああ、捨てずに取っといてよかった。


嘉平 「この地図、ちょっと…」

お芳 「えっ、何」

嘉平 「お芳、この地図、少しおかしいよ。これ道一本足りないよ」

お芳 「まあ、そんなぁ…」

拮平 「ははっ、足りないのは、道だけですかね」

お芳 「なんだって!」

拮平 「そうじゃないか。その足りない道のお陰であたしはえらい目にあったんだ

   からさぁ」

お芳 「それは…。でも、拮平だって」

嘉平 「そうだよ、拮平もおかしいと思わなかったのかい。今一度、昨日のことを

   順序立てて話してごらんよ」

拮平 「またですかい。いいですよ」

 

 拮平が昨日店を出てからのことを語り出すも、その都度お芳が口を挟む。


お芳 「それ、違う!ちょっと、おかしい」

 

 それを嘉平が一喝する。


嘉平 「お芳は黙ってなさい!」

 

 あまりの嘉平の迫力に、その後は沈黙してしまうお芳だった。

 拮平はその後も、白猫のこと、今から思えば妙な家族のこと、どうでもいい職人のことから、提灯を吹っ掛けられた蕎麦屋のこと。そして、肝心の倒れたところからは、やや芝居がかってくる。そして、今朝は何でも屋で飯を食べ、一寝入りしたことまで話し終える。


嘉平 「わかったよ。しかし、何だね。きちんとした地図を書かなかったお芳もい

   けないけど、その間違えて行ってしまった家で気付かない拮平もどうかと思

   うよ。それに、白田屋の若旦那が、どうして小僧の一人位を連れて行かな

   かったんだい」

拮平 「連れて行こうとしたら、誰かさんが、あたし一人で行けってさ」

嘉平 「そうかい、なら、今日のところは痛み分けってことで。それにしても、女

   中達の前で喧嘩なんか止めとくれよ。あんまし、みっともいいもんじゃな

   し」

拮平 「確かにそうかもしれませんけど、じゃ、この着物はどうしてくれるんで

   す」

 

 袖付けが破れそうになっている。


お芳 「なら、足袋はどうしたのさ」

拮平 「ああ、あの家に置いてきたみたい」  

お芳 「じゃ、それで、おあいこじゃないか」

拮平 「あの足袋とこの着物、一緒にして欲しくないんですけど。足袋より、着物

   の方が高いんで。さあ、ここで、おとっつぁん、一言」

嘉平 「これなら、洗い張りして仕立て直せば何とかなるよ。駄目だよ、これ以

   上、隣の本田屋儲けさせてどうすんだい」


 お芳がそれ見たかと言う顔をしている。


拮平 「そうですね、この間もどこかのお芳さんが、隣の番頭と同伴してましたも

   の」

嘉平 「またかい…」

お芳 「それは、まあ、新柄が…」

 

 と、うなだれて見せるも、突如狂った様な声をあげるお芳。


お芳 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー」

嘉平 「お芳、どうしたんだい」

お芳 「あっ、あのあの、あのさ、ほらさ、そんでさ、あらさのえっさっさ…」

嘉平 「どうしたんだい。どこか、悪いのかい」

拮平 「更年期だよ」

お芳 「あ゛あ゛ー、それ、それ、そ、その、更年期ぃ。ぐやじいぃー…。拮平が

   あたしのこと更年期だって言ったのよ、よよよっ」

嘉平 「拮平、何てこと言うんだい。お前と同い年のお芳が更年期だなんて、それ

   は幾らなんでもひどいじゃないか」

拮平 「あれっ、知らないの。今は若くても更年期になるんだって。あの頭の

   てっぺんから噴き出した様な声とか、すぐに感情的になったりするの。みん

   な更年期なんだって」

お芳 「何さ、わかった様な口きくんじゃないよ。私ゃこれでも医者の娘だよ。

   女ってもんはね、男と違って複雑に出来てるから、ちょっとした外的要因で

   も色々弊害を受けやすいんだよ。そんな、単純な男と一緒にしないどくれ!」

拮平 「だから、そっちが医者の娘なら、あたしにゃ、医者の友達がいてさ。そい

   つが教せーてくれたの」

お芳 「あのさ、近頃じゃ、更年期はさ、男にもあるんだよ」

拮平 「ああ、そんな事も言ってたねあの医者。そう、じゃ、あたしも更年期か。

   ああ、そうだったのね。あふぁふぁふぁー、更年期だ更年期だ」

嘉平 「うるさい!二人とも、私を通り越しての喧嘩なんかすんじゃないよ!」

 

 そうなのだ、お芳と何気ない話をしていたつもりでも、いつの間にか世代論になっている。そして、今、わが妻とわが息子は、世代の違う夫であり父である自分を挟み、共通の語彙による喧嘩をしている。

 その二人の喧嘩に加われない、このジェネレーションギャップ。年の差夫婦の現実…。


お芳 「お前さん、あたし、もう駄目、倒れそう…」

 

 と、嘉平にしなだれかかるお芳だった。


お芳 「は、倒れる、あたし…」

拮平 「ここは元の住処を追い出された、今はあたしの部屋なんで、倒れるんな

   ら、数ある自分の部屋のどれかで倒れてくれませんかね」

お芳 「黙れ、この更年期野郎…」

拮平 「それを言うなら、お互い様」

 

 拮平が言い終わらないうちに、嘉平はお芳を抱えて部屋を出て行き、入れ替わりにお里が入って来た。


拮平 「何だい、自分の事棚に上げてさ」

お里 「若旦那、更年期って何ですか」

 

 またしても、ジェネレーションギャップ…。


拮平 「はっ、あたしは、またも倒れる…」

 

























 


 









































 



































 



















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