とけるまでの一週間

幻典 尋貴

プロローグ【絵本の作者の依頼】

 ある女性が、一冊の絵本を書いた。

 その絵本は、たちまちのうちに世界中に広まり、どこかの教科書への掲載が決まったという話も聞いた。

 絵本の名前は『とけるまでの1週間』。

 今日、僕がうどん屋で蓮根の天ぷらを齧っていると、胸ポケットの電話が鳴った。いや、マナーモードにしていたから、震えたと言う方が正しいだろう。

 電話をして来た主の名を聞くと、真村まむらユキと言った。

 今度は僕自身が震えた。

『とけるまでの1週間』の作者だったのだ。

 声が裏返るのを抑えながら、彼女の依頼を受けた。

 依頼の内容は人探し。最近は、猫やら鳥やらのペット探しが多かったため、久しぶりに気合いを入れる。

 そういえば、あの絵本をまだ読んでいなかったなぁと、本屋に寄ってから彼女の家に向かう事にした。

 うどん屋の近くの書店に入ると、それは一番目立つところにあった。

 表紙には、男の子と女の子、雪だるまが美しいタッチで描かれていた。

 少しだけ読んでみようと、中を読み始める。

 『遠い昔のこと。

 ある小さな森の中に男の子と女の子が住んでいました。2人は仲良しで、毎日2人で遊んでいました。お絵描きをしたり、しりとりをしたり…。

 その日も2人はおいかけっこをして遊んでいました。女の子は男の子を追いかけて、だんだん、だんだん森の奥に入っていきました。

 森の深くには、魔女が住んでいるという噂があったにもかかわらず。

 しばらくして、森の中で2人は1つのお家を見つけました。男の子のでも、女の子のでも無い小さな古い家です。

 そこで、2人はお家の中に入ってみることにしました。

 暖炉の前には大きな釜があり、少し不気味で、外見こそ違いますが、まるでヘンゼルとグレーテルのお菓子の家のようです。

 しばらくすると男の子は怖くなってきました。魔女が住んでたら、魔女が帰ってきたらどうしよう。と、思ったのでしょう。

 男の子は外に出ようと女の子の腕を掴みました。男の子は腕を掴んだまま走り出しました。すると男の子の腕はテーブルの上にあった小さなツボに当たってしまいました。

 ツボはグルンと一回転し、床に落ちて割れてしまいました。

 丁度家に帰ってきた魔女は割れたツボを見て凄く起こりました。

 おそらく、魔女の大切なものだったのでしょう。

 そして、怒った魔女は男の子に魔法をかけました。


 あれから数日後。魔法で男の子の命が天国へ行く前の日

 2人は雪だるまを作りました。

 それは楽しい、楽しい時間でした。

 雪だるまに使う手袋は、2人の付けていた手袋を片方ずつ使いました。

 空は暗くなり、2人は家に帰りました。

 男の子は家に着くとその瞬間ある“記憶”が蘇りました。1週間後の女の子の誕生日です。

 しかし、男の子は明日天国へ行ってしまいます。男の子は女の子に当てて手紙を書くことにしました。

 
 ーー手紙を書き終わると男の子は家を飛び出しました。

 魔女の家に向かったのです。

 
 男の子は魔女の家に行く前に雪だるまの所に行きました。

 男の子の手袋の方に手紙を入れ、再び、男の子は魔女の家に向かいました。

 
 魔女の家に着くと、男の子は必死に魔女に“命を伸ばしてください”と頼みました。しかし魔女は“かけた魔法は戻せない”と、言います。

 それでも頼み続ける男の子に驚いた魔女は、男の子にもうひとつの魔法をかけました。

 既にかかっている魔法の効果を遅らせる代わりに、他のに命を宿らせる魔法です。


 次の日、男の子の命は、魔女の説明どおりあの雪だるまに宿りました。雪だるまがとけるまでが、男の子の命です。

 男の子は少しずつ溶けながらも女の子の家に向かいました。

 雪だるまになっても動けたのは、男の子の起こした奇跡だったのでした。

 頑張って、踏ん張って、男の子は女の子の家の前に着きました。

 しかし、女の子は男の子が天国へ行ってしまったショックで家から出れません。

 まだ消えてはいないよ、と雪だるまの細い木の棒でドアを叩きましたが、その音は女の子の鳴き声にかき消されてしまいます。

 
 次の日、久しぶりに女の子は外に出ました。

 女の子は外に落ちている2つの手袋に気づきました。

 女の子のと、男の子のと。

 男の子の方にしわくちゃな2つ折りの紙が入っていました。

 それは男の子からの手紙でした。

「お誕生日おめでとう。そして、ありがとう。僕は君の事が大好きだった。」

 それを読んだ女の子は泣いて、泣いて、泣きました。

 まだ少し残っていた雪だるまは、にっこりと笑って、男の子の命は天国に向かいました。

 男の子の命が雪だるまに宿ってから、1週間の出来事でした。』

 冒頭だけ読むつもりが、その世界観に惹かれ、ついつい最後まで読んでしまった。

 そろそろ、彼女の家に向かわなくてはと本を買って店を出た。

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