3・メテオストライク!


 踏み込んだ。

 懐に潜れなかった。その寸前にバイラスビーストは後方にジャンプする。下段から上へと斬りつけるも、かすることなく、隙を与えるだけになった。


『ドクロ レベル16』


 色は赤。賞金は700ギルスと、中々の額であるが、それだけの強さだ。

 ドクロは名の通り、人型のガイコツ姿をしたバイラスビースト。二メートル以上あり、腕が四本あるから、元が人間だったということはなさそうだ。

 左手の長刀が真上にあった。ユリーシャの光で、刀は眩しい光を見せている。俺に目掛けて振り下ろした。


「危ない!」


 セーラは悲鳴のような叫びをあげた。

 俺は左に転がった。大振りなのが助けられた。長刀は砂漠の砂に飲み込まれる。

 チャンスだ!

 ロングソードをぶん回して、奴の腕を狙った。

 無理だった。もう一本の腕をブンと振り回して阻止をし、逆の手で俺の肋骨にパンチをした。


「ちっ!」


 ダウンはしなかった。なんとか踏みとどまる。ズキズキとするが、骨は折れていない。

 だが、ドクロの第二の攻撃がやってくる。


「フレイヤっ!!」


 ボール状の炎がドクロにぶつかった。シャアナの魔法攻撃だ。鉄球にぶつかったかのように、肩の骨にヒビが入った。


「フレイヤっ!」


 さらにもう一撃。

 ドクロの右膝がガクンと地面についた。


「今だ!」


 俺はドクロの首を切った。頭がクルクルと宙を舞う。

 胴体の方は動いたままだ。視界を失ったので、俺の居場所が分からず、見当違いの方向に四本の腕を振り回している。

 ……それに。


「後ろくるっス!」


 セーラの指示通り。もう一体のドクロがジャンプ斬りをしてきた。俺はロングソードでガードする。体は守れたものの、大きな衝撃に手が痺れてしまう。

 さらなる一撃を食らう前に、俺は走ってシャアナのいる方向へと逃げていった。

 ドクロは一体ではない。五体いる。体格はでかく、レベルが高い相手に一人で挑むのは酷ってものだ。


「この程度なの? もっと頑張りなさいよ」

「なら、なんとかしろ」

「まっかせなさーい、こちらは準備オッケー。紅のシャアナの実力を見てみなさい!」


 両腕を組んで、ドヤ顔になっている。

 地面には炎でできたボールが何十個もある。そのうちの一個に、足を乗せていた。

 上手く走れないのだろう。ドクロは、ストップモーションのようなカクカクとした動きで、俺の背中を追いかけている。

 ジャンプ力はあったが、足の動きが遅いのが救いだ。


「メテオストライク!」


 どっかで聞いた覚えのある魔法名を叫んだ。

 シャアナは5体のドクロ目掛けて、サッカーボールのように足蹴りをして、炎の玉を次々とシュートしていった。

 火のついた藁を飛ばした投石機のように、ドクロ目掛けて落ちていく。狙いは正確だ。ボールの衝撃に、一撃で倒れていく。骨だけに体が燃えあがることはなかった。


「さあ、今よ! やっつけなさい!」

「まかせろ!」


 俺はUターンをして、ドクロが起き上がる前に斬りかかった。



「やっぱ戦士がいると違うわねぇ。あたし一人だとさ、とどめが刺せなくて苦労してたのよ」


 大丈夫かこいつ、との不安をよそに、シャアナの炎の魔法は非常に役に立っている。ドクロ一体が相手でも、俺一人なら勝てる見込みはなかっただろう。

 シャアナにとっても、炎を使った遠距離魔法攻撃がメインなので、接近戦ができる戦士の存在に助かっているようだ。


「イブキは弱かったなりに、中々頑張っていたわね。ちょっぴりぐらいなら、褒めてあげてもいいわよ」

「どうも」


 弱いというのに反論はできない。

 むしろ、足手まといにならなくて良かった、と思うべきか……。

 俺は、腰に付けたビンに入った水を飲んでいく。一仕事の後の水は別格に美味かった。そうでなくても、この世界の水は地球のものよりも美味しい。無料であるし、大きなボトルに入れて持って帰りたくなってくる。

 シャアナは、白骨化した巨大原獣の頭の上にいる。ネオジパングの道具屋で買ったであろう、肩掛けのポーチから7インチタブレットを取り出す。

 電源を入れて、エムストラーンの地図を表示させていた。指二本を使って、ズームインさせて居場所をチェックしている。

 ポケットに入らないのは難点だけど、地図を見るには画面の大きいタブレットのほうが便利そうだ。


「はぁ……まったく男って奴は」


 セーラは、ジト目で俺のことを見ていた。

 この位置からだと、二メートルはある白骨の上にいるシャアナのパンツが嫌でも目にはいってしまう。

 それを、マジマジと見ていると勘違いされていた。


「いやいや、あんなの見てないぞ。あのパンモロは、恥じらいがいかに大切かを教えてくれる、そそられないものだ」

「恥じらいのある、うちの見ないでくださいよ」

「それには、スカートの中のショートパンツを脱いでからにしてくれ」

「嫌でーっス!」


 セーラは、ベーと舌を出す。


「そういや、異世界用のケータイって、なにか名称があるのか?」

「エムデバイスっス」


 ちゃんと名前があったようだ。

 俺は自分のケータイ――早速エムデバイスと言うべきか――のメモを開いて、「エムデバイス」と書き込んだ。


「ここは、エムストラーンの西の大地の真ん中辺にある『白骨の砂漠』という場所っス。旧世代の原獣の白骨がたくさんあるから、そのような名前が付けられました」


 セーラは説明をする。


「たしか、四つの大陸があるんだったな」


 エルザの酒場の赤レンガ壁に飾られた地図には、

『東の大地』

『西の大地』

『南の大地』

『北の大地』

 と記されてあった。

 大陸の形は、アイリスが言うように茎のない四つ葉のクローバーに似ている。

 東西南北とこだわりのない単純な名称なのは、そのほうが伝わりやすいからだろう。


「実は読みは違うっスよ。東はトンアース、西はシャーアース、南はナンアース、北はペイアースなんです。まあ、東、西、で通じるんで、特に覚えてくていいっスけど」

「なぜ麻雀読み?」

「名付け人の趣味じゃないっスかねぇ」

「麻雀なんかこの世界にあるのか?」

「ありますよ。といいますか、はじめからあるわけでなく、ちきゅーさんが勝手に持ってきました。賭け麻雀の店がありまして、かなり盛況だと聞いてるっス」

「ギャンブル禁止じゃないんだな」

「そういう人たちは、お金をいっぱい落としてくれますからねぇ、ありがたや、ありがたやな、お得意さんっスよ」

「異世界だろうと世の中金だな」

「あはは、そうやって蓄えておかなきゃ、支払うお金がなくなっちゃいますからねぇ」

「よし、ナビセット完了っ!」


 シャアナが、こっちを向いた。


「ほらほら、いつまでも人のパンツ見てないで、アンタの端末貸しなさい」

「見てねぇ」


 俺たちの会話を聞えていたようだった。

 ポケットからケータイを取り出して、シャアナに投げた。


「ご希望なら、パ、パ、パ、パンツを脱いであげてもいいんだからね! うわっ!」


 バカなこと言うものだから、俺のケータイを取れずに落としてしまう。


「壊すなよ」


 シャアナは、自分のタブレットと、俺のケータイを合わせる。


「完了ーっ!」


 ケータイを投げてきた。俺は片手でキャッチする。確認するけど、壊れてはなかった。


「なに、やったんだ?」

「ナビを送ったのよ」


 ナビ?とセーラを指さす。


「いやいや、目的地の方角を教えてくれるシステムっス。シャアナさんが登録したのを、イブキさんのエムデバイスに転送したんですよ。複数の仲間と場所指定して待ち合わせるときに便利な機能です。セーラップリの地図を開けばどんなものか分かるっスよ」


 地図を見てみると、現在地からやや北東にいった所に赤いピンが刺さっていた。


「ありゃあ、結構な所にいきますねぇ。徒歩1時間ぐらいでしょうか。バイラスビーストを倒しながらだと、もっとかかりそうっス」


 ここが、シャアナの行きたい場所のようだ。


「今日は、これだけで終わりそうだな」

「倒すのよ」

「確認だけだ。さっきのドクロでも苦労したんだ。それ以上の相手するのは厳しい」


 なにせ22万だ。

 レベルが低いらしいが、どんなバイストかは分っていない。原獣の骨の墓場である砂漠地帯に棲息しているのだから、生やさしい奴ではないのは想像つくし、もしそうなら他の奴がとっくに倒している。


「イブキの目的は、私のパンツを見ることじゃない。そこにいる敵を倒すことなの!」

「どんな奴か分からなきゃ、倒せるのも倒せないだろ。それとセーラを見習って、ショートパンツをはいてくれ。品がない。人に見せるなら、ちゃんとしたのをはけ」

「なに言ってるの。パンツといえば無地の白じゃない。このこだわりが分からないなんて、イブキったらバカ?」


 こいつ、絶対に中身は男だ。

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