第39話 借金王、タメ口をきく

 翌朝、俺達はポーツマス港を出発した。ロンドンまでは馬でおよそ二日。本来なら宿場町に泊るはずだが、黒死病の用心のため野外に宿営するという。メアリに付き従う十数名の部下達が野営の準備をするのを見はからって、俺は聞いてみた。


「なあ、メアリ。ちょっといいか」

「め、メアリ!? 今の私をそんな風に呼ぶのは母上くらいだぞ……。まあ、おまえは私の臣下ではないゆえ許そう。なんだ?」

「イングランドにも魔術師や聖職者はいるだろ? どうしてこんな状況になっちまったんだ?」

「……魔術師や聖職者の多くをフランス遠征軍に帯同していたのが原因の一つではある。だが、黒死病の流行は各都市で同時多発的に始まり、すぐに手のつけようがなくなった。先発して治療に当たらせた者達も次々と病に倒れ……国王陛下と皇太子までが崩御するにいたり、万事休したというわけだ」


俺はぷらぷらとした足取りでそばに来たアリーゼを振り返った。


「同時多発的に流行だってよ。怪しいよな?」

「恐らく、オルレアンで見た儀式魔術が関係してるでちね。てっきりイングランド軍の仕業だと思ってたんでちが」

「魔術師殿に心当たりがあるならありがたい。協力できることがあれば、何でも言ってくれ」


律儀に頭を下げるメアリに、アリーゼの目が猫のようにキラリと光った。


「では、王宮にある全ての魔術書スペルブック魔法の巻物マジック・スクロール魔導器マジック・アイテムを使わせて欲しいでち」

「わかった。おまえを仮にイングランド王国の宮廷魔術師に任命しよう」


メアリは書記官を呼び、その場で文書を作らせ始めた。アリーゼは満足そうに耳を震わせ、平らな胸を俺に向かって張ってきた。


「フランスとイングランドの両方で宮廷魔術師に任命される……さすがボクでちね」

「どっちも(仮)だけどな。また根こそぎ魔法の道具を使うのか?」

「当然でち。国が滅ぶかどうかの瀬戸際なんでちよ?」


アリーゼはネズミを目の前にした猫のようにニヤリと笑った。

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