第24話 借金王、沼地にはまる
フランス王国南部にあるカマルグ湿地までの道のりは、王太子の勢力範囲だった。特にトラブルもなく美しい田園風景を馬で駆け抜け、予定通り三日目に湿原に到着する。ここから先は馬が使えないので、最寄りの集落に預けることにした。
「それじゃ馬四頭、たしかにお預かりします。しかし皆さん、ずいぶん物々しいご様子で……」
宿屋の主人には武装した俺達が物珍しいようだった。そんなのどかな村をジャンヌは眩しげに見渡した。
「このあたりは平和なんですね。でも、ここにもイングランド軍が来たら……」
焼き払われた自分の村のことを思い出したのか、彼女の顔が暗く沈む。俺はそっと彼女の肩を叩いた。
「そうさせないために旗を手に入れるんだ。頑張ろうぜ?」
「……私も協力する」
「ボクもついてるでちよ!」
いつの間にかクリスとアリーゼも、ジャンヌを両側から支えるように立っていた。
「そうですね……そうですよね!」
ジャンヌは何度もうなずき、笑顔を見せてくれた。俺はその笑顔に必ず報いてやろうと心の中で誓った。
***
細い葦が密生するカマルグ湿地には濃い霧がたちこめており、踏み込めばたちまち方向を見失ってしまいそうだった。
「目印になりそうなものもねぇし……目的地の鍾乳洞まで行けるのか?」
「ボクにぬかりはないでちよ」
アリーゼは杖をかかげ、呪文を唱え始めた。彼女の足元に複雑な
「
呪文が完成した瞬間、杖からひとすじの光が湿原の奥へと伸びていった。
「これをたどっていけば目的の場所につくでちよ」
「すげぇな……これ、かなり高位の魔法じゃねぇか?」
「超絶天才美少女魔術師〈黒のアリーゼ〉の偉大さが少しはわかったでちか? わかったらご褒美をくださいでち。特別にキスで許してあげるでち」
「クリスがにらんでるぜ?」
「ひゃあっ! じょ、冗談でちよ。……また、ふたりっきりのときを狙うでち」
アリーゼがおとなしくなったので出発することにする。
「隊列は俺、ジャンヌ、アリーゼ、クリスで行くぜ。霧が濃いからみんな離れるなよ? ……って、うわ!」
俺は最初の一歩で湿地の泥に膝までめり込んだ。クリスが手を貸してくれる。
「お、サンキュ」
「一回につき銀貨百枚だ。遠慮せず、どんどんハマれ」
……こんな場所でもクリスは平常運転だった。
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