第22話 借金王、怪物について解説する

夜更け頃、アリーゼが帰ってきた。まず俺が簡単に〈白百合の軍旗〉の説明をする。


「……こないだの大広間のやり取りを見たろ? 貴族どもは全然やる気がねぇし、配下の兵士も似たようなもんだろう。そんな奴らを勝たせるには、ジャンヌにこの旗を持って先頭に立ってもらうしかねぇと思う。やってくれるか?」


黙って聞いていたジャンヌは真っ直ぐに俺の目を見た。


「私、やります! やらせてください! だって家族のみんなの……かたきをとるためですから!」

「すまねぇ。敵から集中的に狙われるだろうが絶対守るからな」


じっとお互いを見つめ合う形になった俺達の前に地図をひろげながら、アリーゼがわざとらしく咳払いした。


「はいはい、お熱いことでちね〜。ダリルっちはジャンヌっちのためなら命もいらないらしいでちからね〜。せいぜいボクはおとなしく道案内させてもらうでちよ」

「どうした?」

「なんでもないでちよ〜。ボクのことなんか気にしてくれなくていいでち」


理由はわからないが、あきらかにアリーゼはやさぐれていた。そんな彼女をクリスが部屋のすみに手招きする。そしてふたりで顔を寄せ合い、小声で謎の会話を始めた。


「なんでち?」

「いちおう言っておくが……ダリルはジャンヌだけでなく、私やおまえの為にもちゃんと死んでくれるらしいぞ?」

「ほ、ホントでちか!? 」

「本当だ。まだ私達にもチャンスはある。だからお互い抜け駆けはなし、ということでいいな?」

「さすがダリルっちは〈ハーレム王〉を目指す男でちね! わかったでち、協定をむすぶでち!! 」


振り返った二人は、謎の微笑みを浮かべながら戻ってきた。なぜか突然、背筋に悪寒が走る。


先ほどまでとはうってかわり、ウキウキした調子でアリーゼが地図を指さした。


「〈白百合の軍旗〉が隠されている場所はプロヴァンス地方南部、青爪鬼トロールがうろつくカマルグ湿地でち。ここから馬で三日ほどでちね。そして目的の軍旗は鍾乳洞の奥で多頭龍ヒドラが守っているでちよ」

「トロール? ヒドラ?」


ジャンヌが首をかしげる。


青爪鬼トロールってのは青い肌をした巨人族系のモンスターだな。長い爪と牙を持ってて、傷を負わせてもすぐに再生する。だが、火に弱い」

「投擲用油を多めに持っていくとしよう」


クリスが手元の羊皮紙にメモをした。


多頭龍ヒドラってのは二本以上の首が生えた龍族系のモンスターで、切り落とした首が再生するのが特徴だ。これも火で焼けば首は生えてこなくなる。あと、牙には猛毒がある」

「そ、そんな怪物がいるところに……大丈夫ですか?」


ジャンヌが身体を震わせた。俺は地図をたどりながら笑ってみせる。


「古代龍や上位悪魔に比べればたいしたことねぇよ。目的地まで往復して七日か……クリス、フランス軍の出発はいつだ?」

「四日後だ。イングランド軍との会戦はここ……パテー平原と予想されている」

「オルレアンのときの行軍速度から考えて、フランス軍がパテー平原に到着するまで五日。俺達なら二日。……ギリギリだな。明日の朝、急いで出発しようぜ!」

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