第46話
仮宮では
狼に背後からのしかかられた時子は、惚けてたるみきった顔で白目をむいて、涎と鼻水を垂らしながら尻を前後に激しく振り、悦びに身を委ねている。
「あの荒々しいまぐわい。全く良い物じゃのう」
「時子殿も、久々に女の欲を満たしている様で、大変に結構ですわね」
「うむ。時子があれならば、平家の方は大丈夫じゃろうな」
童の出自を知った平家が、新たな侍従に加える事を受け容れるかについては、
童が賎民を卑しまない態度を示していた事を、平家が高く評価していた旨を承知していた為である。
交合による和解の座を用意させたのは、童の側の不安を払う為の配慮という面が大きい。
「ぐはぁっっっっ!」「おほぅぅぅーっ!」
童と時子が絶頂に達し、共に絶叫を放って倒れ込み失神した処で、
「牡としても逸材ですわね」
「ふふ、愉しみじゃのう。坊が見込んだだけの事はありそうじゃ」
皇帝夫妻とまぐわい、悦ばせるのも侍従の役割の内である。
童のまぐわいを見た事で、
「ところで、此度の一連の件。他にもおおむね、順調に推移しておる様じゃな」
「ええ。立川流を掌握した事で、高野山、ひいては和国仏道を手中にする糸筋がつきましたわ。美州についてもこれを機に、武力を用いる事なく飼い慣らしていけましょう」
童の村が滅んだのは不幸だったが、立川流の介入や、美州領家との対話という思わぬ僥倖に恵まれたのは大きい。
「美州を〝こちら側〟に入れられれば、和国併呑への大きな一歩じゃろうな」
「では、美州と高野山には、仕込みを進めていきますわね」
「うむ」
「肝心の人狼じゃがの。結局、あれ一人であったのは、いささか残念じゃのう」
「ええ。けれども、
人狼の血統の濁りを根本から治すには、牡一人では根本的な解決にはならない。より多くの新たな血を加えなければ、次々代頃には元の木阿弥となってしまうだろう。
もっとも、神属の寿命は長い。さし当たり、童の胤で生まれる子供達が健常であれば、充分に時間が稼げるのだ。
「ふむ。実は以前より、北方…… 蝦夷地へ物見 ※偵察 を出したいと思うておったのじゃが。この機に、人狼の探索を兼ねて、誰か出せぬ物かの?」
「手が足りませんわ。伊勢の地歩固めに加え、美州や高野山への仕込みも始まりますもの」
「
「化外の地での探索行となると、迂闊な者には任せられませんわ。その様な者を割く程の余裕はありませんわよ」
皇国に不足しているのは、何よりも人材である。
蝦夷地での人狼の存在は、元より〝見込み〟に過ぎない。また、蝦夷地その物についても、
文字を持たぬ
「しかし、時は待ってはくれぬぞ。和国併呑については少々伸ばせようがの。手がかりを得ながら手をこまねいておっては、いずれ人狼共の忠義にも関わろうて」
血統の濁りを解消するのは、
「何か、
学師たる
「
「そうでしたの……」
末端より不満の芽が生じたとなれば、
基板が盤石とは言い難い和国遠征で、足下をすくわれる事態は防ぐ必要がある。
「誰ぞ、使えそうな者はおらんのかや?」
「そうですわね……」
その間に、
「……丁度、一名いましたわね。使い潰しても惜しくない、それでいて重き責に耐え得る者が……」
「手が足りぬというに、使い潰しても良いとは。全く穏やかでは無いのう? 何者じゃ?」
「若い武官ですわ。失態を冒した為に、
「なれば、その者を蝦夷地へ遣わそう。任を果たせば、汚名を晴らす機ともなろう?」
「承知しましたわ」
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