1章外伝5…その頃の召喚組『迷宮挑戦③』

「シッ!」


襲い来る魔物を剣で切り倒すヴァレンシュ。

魔物を楽々と言った様子で倒しつつ異世界より召喚されし少年少女に目を向ける。


(こことは違い平和な世界から来た、しかもまだ未熟と言える年齢だ。命を奪う行為に躊躇するものかと思ったんだがな…)


命の遣り取りが著明なこの世界に突如遣って来た者達なら慄くものだとヴァレンシュは考えていた。

実際王宮に残った半数は、戦と言う行為に慄き今回の参加を見送っている。

残った彼らこそがある意味正しいかなとヴァレンシュは思う。


「あのぉ…その剣、少しいいですか?」

「ん?」


離れた位置で、仲間の騎士に話しかける少年が一人。

ヴァレンシュはその声の方に目を向ける。

そこには、どうやら先程ゴーレムを倒した際に剣にヒビが入ったようだ。ゴーレムは強度の高い魔物なので物理より魔力攻撃の方が効果が高い。剣で切り倒した際に小さいヒビが入ったのだろう。


少年―マモルと言う名―はそのヒビの入った剣を預かる。

何をするのかと考えて彼が得た”女神の加護”が何か思い出す騎士長。

彼は地面に手を充てると30㎝ほどの円形の魔法陣を展開する。

そしてヒビの入った剣と鉱石と思う石を一つ魔法陣の中央に置く。


「…”錬成”!」


彼がそう唱えると、魔法陣内が薄青いスパークを上げる。

そしてヒビの部分と鉱石にスパークが集中する。

するとたちまちに鉱石が剣のヒビの部分に融ける様に消え、まるで新品の剣と思わせる程に修復された。


マモルは「ふぅ」と息を吐くと地面に置かれている修復した剣を騎士に渡す。


「はい、これで直りました。それと直すのと同じく剣の強度も上げておきましたので」

「おぉ、凄いな。まるで新品みたいだな。ありがとよ」

「いえいえ。僕に出来る事なんてこんなことくらいですから。また他にも破損したのがあった言って下さい」


彼の得た”女神の加護”は”生産工房”と言うその名の通り生産職に該当する技能だ。

彼が先程行った”錬成”もその一つに該当する技能なのだ。

錬成陣を刻む事で武器を修復する事が出来る技能なのだ。

彼は”こんな事しか”と謙遜していたが、彼の真価は”アーティファクト”を修復する事にある。

他の生産技能持ちの、少なくとも王国内に”アーティファクト”を修復できる技能力を持つ者はいない。

彼の技量が向上の結果ではアーティファクトそのものを作成できる様になる可能性を持っている。


アーティファクトとは、12の神人の一人である“創蔵”の神と呼ばれた『クロノ』が生み出した遺物の名称である。

召喚された少年少女に与えられたアーティファクトや、ヴァレンシュの所有している黄色の魔槍といった一部の者が所有している物と、珍しく希少性のあるモノなのである。

アーティファクトの作成には熟練の生産技能師が10人集まり何年もの年月をかけてようやく一つ完成できる程の難関なものなのである。


ヴァレンシュは期待するような眼を守に向ける。

アーティファクトの能力は、通常の武器や魔力の籠った武具を超えるモノが多い。

そんな能力の高い武器が生成可能になれば、今は一部の者しか持ち得ていないアーティファクトを多くの者に所持させることが出来る。

戦力が上がれば、魔人族との戦いに優位に立てる可能性が上がる。


(…そうなれば、姫様の幸せを奪ったあの憎き魔王にも届くやもしれん)


敬愛する主であるステラリーシェの弟君を討った憎き魔人族の王。

その魔王を討滅する為に女神より遣わされた者達の成長を噛み締めつつ進む。

そして迷宮と呼ばれる場所において一つのターニングポイントとなる階層まで到達する。

思いの外、彼らの成長の早さもあり、想定以上の進行速度で到達する事が出来たのだった。




福田守は今回の実地訓練に参加したのは自分の能力を上げたいという思いと、生産職である自分でも少しでも戦いに役に立ちたいという思いからだった。

そして……『誰かを守りたい』、と言う強い気持ちからだった。


ヒビの入った剣の修復を終えた守は溜息を付きながら洞窟を進む。


(はぁ…感謝してもらえてうれしいのだけど…僕としてはまだまだだ、なんだよな…)


守の現在可能な”生産工房”の技能は”錬成”と”複製”、そして”強化”のみなのである。

”錬成”は鉱物資源で構成されたものであれば材質を把握理解し修復を手掛ける事が出来るのと、地形に干渉し自分のイメージした物体に再構成する事が出来る。

守の今の技能レベルは修復と見た事のある武器限定で作成可能と地形操作がやっとなのである。

もう少し”錬成”レベルが上がれば鉱物から武器や防具と言った物の作成がより洗練させたものが出来る。

更に修練を積めば、遺物認定されているアーティファクト作製にも手が届く可能性があると聞いた。

次に”複製”。この”複製”は複製したい武具の構造を把握する事で、自身の魔力を用いて把握したその武具を作り出す技能である。ただ魔力で造り出すので魔力消費は多いし、魔力の塊は不安定なので脆い。この能力を使うより普通の武器を作製した方が効率がいい。


(まあ投擲とか役立つかな)


そして”強化”。

これは物質の構造を把握し、物質の構成と硬度を上げる能力である。

この3つに共通するのは鉱物資源を利用するという点である。


騎士長から期待されているとは知らず、戦闘で自分の能力を活かせていない現状に落ち込み気味な様子で歩く守。


「……うぅん、もう少し戦闘面で生かせないものかなぁ…」

(漫画とかの錬金術みたいに、こうバッて武器を作ったりできないかなぁ…)

「おいっ、さっきから溜息ばっかりだな。お前もっと緊張感を持った方がいいんじゃないか?」

「えっ!?…僕の事?」


守は驚くと自分に声を掛けて来た女の子に目を向けるともう一度驚く。

声を掛けて来たのはクラスでも一匹狼の様だと言われていた相楽命だった。


「そうだ。やる気のないやつはサッサと帰った方がいい」

「なっ!?」


『やる気がない』、と指摘された守は普段からあまり怒った表情を浮かべないその表情を浮かべる。

自分はただ自分の能力をもっと活用したいと考えていただけなのだ。

やる気がない、なんて言われるなんて遺憾な気持ちだったのだ。


「ぼ、僕は、やる気十分だよ!ただどうすればもっと自分の能力を使えるか考えていただけだよ!」


反論する守に、意外だなと言うかのような表情を浮かべる命。

命から見た守は弱い男子だった。

誰かに意見することも出来ないヘタレ、そんなイメージだった。


「そうか…まぁ、私にはどうでも良い事だけどな。……ただ、一応お前は私と同じチームだからな。怪我でもしたら目覚めが悪くなるからな、だからちょっと忠告しとこうと思っただけだ」

「…そ、そうな、んだ。……ごめん、気にかけてくれたのに怒って」

「…だから気にしなくていい。私もいらんお節介だったみたいだしね」


そう言うと命は少し離れた位置に戻ると丁度襲い掛かって来た魔物をその手のアーティファクトを投擲して倒した。

守もチームが一緒と言う事だけで気にかけて声を掛けてくれた命に、意外だな、と感想を抱くのだった。



「ふふっ」

「ん?どうしたの、雫。いきなり笑い出して」

「うん。あの二人のやり取りがね。なんだか微笑ましいなぁって思ったの」

「あぁ…………たしか、福田と相楽、だっけ?」

「あはは…咲夜さんってば」


自分のチームメイトの名前を思い出すのに時間が掛かっていた咲夜に苦笑する雫。

20階層までは各自で戦う方法を模索出来る様にチームの縛りはなく進んでいた。

雫は咲夜との共闘後から一緒に進んでいた。

内心、雫はこのまま咲夜と一緒に行動できたらいいなぁと思っていた。

だが今更だとも思っていた。

今からメンバーから外れるなんて五条院リルカが許すはずもないからだ。

相談すれば咲夜はきっと力になってくれる。そう思える程に信頼を得ていた。

それ故に自分の勝手で、咲夜と五条院リルカとの間に確執をもたらすのは嫌だと諦めていた。



「へっ!魔物ってこんなもんかよ!雑魚じゃねェか!」

「そうだね。初心者用だからかな、それほど手こずる事はないね。嵐はどう?」

「そうだね…魔物とはいえ、生物を殺すことに嫌悪を抱くかと思ったけど、それ程でもないかな……」

「怪我をした人は直ぐに言ってね。直ぐに治療するからね」

「武器なら、僕も直せるから…」


それぞれが襲撃して来た(騎士が弱らせたりしつつ)魔物を撃退しつつ10階層まで降りていくと次第に少しずつ敵の強さも上がってきた。

しかし、それでもチート的な身体能力を得ている今回参加している者達の敵ではなかった。時折多少の傷を負う者もいたが彩夢の回復魔法で治癒された。

その様子を見ていた騎士達は「頼もしい限りだ」と称賛していた。

そして―――

ターニングポイント。

迷宮の中間点を超えた20階層に辿り着いた。

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