2章ー⑨-Ⅱ:ヴァニラの語り…獣人族に対する認識と悪意
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泉に辿り着いた私とソラハとカインは、泉の周辺を探し始めた。
勿論3人でだけど、私は気を使ってソラハとカインが一緒に探せるようにと少し下がり気味に探していた。
しかし、此処の泉は広い。3人で固まって捜索していても見つけるのに時間が掛かる。そう考えた私は2人に提案した。
「一緒に探すより二手に分かれた方がいいと思うの。だから私はこっちから探すし、ソラハはカインと一緒にあっちから探して」
「それは危険だよ!?いくらこの森に魔物が出ないからって、獣とかはいるんだから!」
「獣くらいなら私程度でも何とか出来るもの。それにこんなに広いのだから効率が悪いわ」
「それは……」
私の提案に難色を示すカイン。私はソラハに援護を!とウインクして伝える。
ソラハも私の思惑に気付いて同意する様にカインに話しかける。
「いいじゃない、カイン?ヴァニラが良いって言ってくれているんだしさぁ」
「でもぉ…」
それでも渋るカインに私は強めに声にする。
「カインは何を心配してるの?私の心配をしてるのだったらお門違いよ」
「な、なにを…僕はただ、君が-」
「……むぅ」
「そう言う心配は私より強くなってからにして?私より弱くても彼女を守るくらいの力はあるのでしょ?」
カインをわざと怒らせる為あえて侮辱する発言をする。その私の発言にカインは顔を赤くし眉を上げ私を睨む。予想通りに怒ったようだ。
うん、計画通り。
「わ、わかったよ!ふん、なんだよ、僕が心配してやったのに!いくぞ、ソラハ!こっちを探そう!」
「あっ、うん!……ごめんね」
「いいよ、気にして無いから。ほら、カインを追い掛けなよ?」
「ありがと、ヴァニラ」
「ソラハ!早く来いよ!」
「わかった~それじゃ…」
「見つけたら直ぐにまずはソラハに伝えるね」
そうして二手に分かれて捜索再開した。
薄紅色の花、コトノハナは澄んだ泉の近くに、そして光の当たる場所、正確には月の光が当たる場所に花を咲かせると言われている。
今はまだ日が出ているので正確にどの花が【コトノハナ】かは判らない。
一先ず光の当たる場所に咲いている薄紅色の神秘そうな花を探す。
探しながら時偶にソラハとカインの方に意識を向ける。
獣くらいならカインの実力でも問題とは思うけどソラハが心配で確認する。
それは杞憂になりそうだ。
私の言葉に怒っているカインを慰めるように接するソラハ。次第に二人の雰囲気になってきていた。目的成功と呟く。
そして探し始めて10分くらい経過した後、私は生い茂る草を掻き分け日に当たる薄紅色の花を見つけた。
本物かは判らないけど条件にあっているので多分コレと、私はソラハに伝えようと立ち上がる。
ソラハ達を探そうとすると、丁度こちらに向かって、なんだか良い雰囲気になっているソラハとカインが近づいて来る。
私も二人に近付くとソラハに見つけたかもと一言告げる。
「ほんとー!」と目を輝かせるソラハはカインの手を引きながら見つけた花の咲いている場所に向かう。
……コトノハナ、必要ないのでは?
と思いながら私は“気配遮断”を使うと二人に気付かれずこの場を離れる。
背を向けて離れようと数歩歩く私。
「良かったね」とソラハに笑みを浮かべながら呟く。
お邪魔虫は退散と村に戻ろうとした瞬間だった。
2人の方から悲鳴の声が上がる。
「うわああぁあ!?」
「きゃああぁあ!?」
「なに!?ソラハぁ!カインっ!」
2人の方に向き直すと遠目にだけど状況を確認して驚いた。
2人は腰を抜かしたのか座り込んでいた。そしてその2人の前に人間よりも大きな巨体をしているものがいた。獣ではない。アレは“魔物”だった。
私はあれが何か以前お父さんが生きていた頃に話してくれた魔物と似ていた。
アレは確か“オーガ”と呼ばれる好戦的な魔物だった。
鋭い牙と爪をした紅い皮膚の巨体。ブラッド・オーガだった。オーガの中でも血を好む残虐性を持つオーガだった。
ブラッド・オーガはグルルッと啼く。獲物に出会い、ニタァと笑みを浮かべたように見えた。
私は「なんでこんな所にオーガなんているの!?」と急ぎ助ける為に二人の元に駆け寄ろうと駆け出す。
「くっ!?このままじゃ、間に合わない!」
今の、”擬装“しての人間の状態の足ではとても間に合わない。
私は母から決して人前では見せてはいけないと言われていた、私本来の姿に戻る。友達を救うのに躊躇なんてしてられない!と後悔するよりまし!と。
私は”擬装”を解いた。
すると私の体に変化が生じる。
今まで普通の人間のように顔の横にある耳が消え、頭部分に黒の兎耳が現れる。そして体から”獣氣“が溢れ漲る。
私は「よしっ!」と溢れる” 獣氣”を足に集めると爆発させるように上空に飛ぶ。そして今まさに、ソラハとカインにその鋭利な爪で襲おうとしているブラッド・オーガ目掛けてスカートだったけどそんなに気にせずに渾身の飛び蹴りを食らわせた。
「食らえぇええええぇ!」
「グガアアアアアァ!?」
地面を削るほどの渾身の飛び蹴りを叩き込む!
ブラッド・オーガは、30mは絶叫を上げながら後方に吹き飛んだ。
私は息を何度も吐きながらなんとか直地点に膝を着く。
疲れたァ~
今私の体は全力の“獣氣”を使った反動でガタガタだった。
“獣氣”…魔力とは異なる人の持つ“気”を集める技だ。
何とか息を整えるとガタガタ震える膝に活を入れ立ち上がる。
あの一撃で倒せたかわからないからだ。
手応えはあった。
自分でも驚く程クリーンヒットしたと実感している。
私はそういえばとソラハとカインの方に視線を向ける。
そして私は「大丈夫?」と声を掛けかけて気付いた。
2人が物凄く驚愕した表情で私を見つめていた。
正確には私の頭にある兎耳を。
驚き、嫌悪、動揺を含んだかすれた声で2人が声を出す。
「…お、おま、え…獣、人族…」
「うそ…あんたが…交じり者…だったの?」
「えっ?どうしたの?ソラハ?…カイン?」
「き、気安く、話しかけるなァ!」
「!?」
私は訳が分からないように二人に声を掛けると、今まで聞いたこともない大きな声で私に嫌悪感漂わせながら叫ぶカインに絶句する。
ソラハに視線を向けると「ヒッ」とまるで汚い者でも見るように表情を崩していた。
突然の2人の豹変に訳が分からず、2人に手を向けようとした。
その瞬間2人は悲鳴を上げながら慌てた様に立ち上がると村の方に去って行った。まるで……私が化け物みたいに。
私は理解が及ばずぽけ~とその場に立ち呆けていた。
「……なんなの?…どうして?ソラハもカインも……取り敢えず…」
私は2人の態度に理解が及ばないまま一先ずはブラッド・オーガの生死の確認を行う。
眼を閉じると耳に残り僅かの“獣氣”を集中する。周囲の物音を聴き取る為にである。そして周囲には物音ひとつないのを確認した私は「ふぅ」と息を吐き“獣氣”を解く。そして目を開けると“闘気”の反動でボロボロのまま悲しみの眼をしながら「帰ろ…」と村に向かって体を引きずるように歩く。
**
そして森から村の前まで辿り着くと村の前に何人もの大人が鍬やらを持ち殺気だっていた。
「(…何だか、嫌な気がする)」
その予感は当たった。
私が森から出て来るのに気付いた大人達は私を怒声と共に包囲する。
囲まれた私。
何とかこの包囲から抜け出せないか?と大人達の隙を窺っていたのだが一人の男が放置できない事を言う。
「お前に聞くぞ?お前は本当にあの交ざり者である獣人なのか!?本当なら、
「!?……(親子共々って言った?)はっ!…お母さん!」
「あっ?コイツ、待てぇえぇ!」
「おいっ!アイツの頭、獣があるぞォ!」
「本当だァ、あの親と同じだァ!」
私はお母さんの安否を最優先として、“擬装”を解くと残りほんの僅かの“獣氣”を足に纏う。
あと数秒も持たない!?
それでもと一瞬の隙を、私の“擬装”解放によって晒された正体に動揺し出来た隙を逃さず跳躍する。
恐らく騒ぎになっている場所。そこに居る筈と当たりを付ける。
町の中心のいつも賑わう商店街。
そこにお母さんを見つけた!
屋根を伝って何とか囲う様にしている群衆の中にいるお母さんの傍に辿り着く。
お母さんも私同様に“擬装”を解いており白い兎耳が現れていた。
「ヴァニラ!?…どうして此処に来たの!?私はいいから、逃げなさい!」
「お母さんを、…置いて、何処かに…行け、ないよ!」
私に逃げるように叫ぶお母さんにしがみ付く。1人なんて嫌だと、絶対一緒!と言う思いで息切れしながら伝える。
流石に体力も気力も底についていた。
そんなボロボロの私を心配しつつ周囲から私を守る様に抱きしめるお母さん。
そんな私達にこの村の連中は罵詈雑言を浴びせてきた。
その中に私は見つけた。
友達だと思っていたソラハとカインの姿に。
「(…そうか…アイツらが…伝えたんだ!)」
私の、親友を裏切った怒りを込めた視線に気づいたのかソラハは「怖~い」とカインに抱き着く。
怒りで目の前が真っ赤に染まりそうだった。
2人の、特にソラハの表情は口の端が上がっていた。
笑みを浮かべていたのだから!
憎しみで人が殺せたら!と思わずにいられなかった。
獣人と言うだけで差別し傷つける事に躊躇する事もないこの人間達に!
そして私を庇ってくれるお母さんが傷ついて倒れ、私は祈った。
生前のお父さんに教えて貰った神話物語を。
神の身でありながら他の神々に叛逆した“
と、この後にお兄さん(惶真)、マナ、カナに助けられたという事なの。
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