(4)文芸部室~体育館
ろくな死に方しないなんて失礼ね。
あたしは自分に正直に生きてるだけじゃない。あんたと全然違わないわよ。
ほら、次はここ。
うちの学校は敷地が無駄にあるから、ちゃんと部室が揃えられていいわね。
おかげでほら、文芸部の今までの部誌が読めるのよ。
あんた本読む? 受験生だしちょっとは読むでしょ。
えーっと……あ、これこれ。この部誌よ。これがあった方がいつつめを楽しめるわ。
まずは、文芸部の話。
文芸部が今よりも盛り上がってた頃、ある部員の女子が長編を一つ書いたの。文化祭に出す部誌に載せるためにね。
その原稿を同じ部員の子に見せたら、もう大絶賛。一足先に読んでみたいって言ったの。
読ませてあげたのが運の尽き。なんとその子は全く同じストーリーの長編を出したのよ。
もちろん、これはパクリだって騒いだわよ。でも、その子は文が上手い子として信用されてたから、言い分が通らなかったの。
きっと今までもパクリを繰り返していたのよね。
せっかく面白い話を書き上げたのに、もう出せない。同じぐらい面白い話を書けるとも思えない。
結局女の子は、当たりさわりのない短編を提出した。
でも腹の虫が治まるわけもないわ。女の子は一年かけて、復讐するために努力したの。
そして満を持した締め切り前、前みたいにその子が話しかけてきたわ。女の子は、今度は詩を書いたから読んでみてって、手書きの原稿を渡したの。
何も知らないその子は、詩を読んだ。
そうしたらその日の夜に、その子は川に飛び込んで死んじゃった。
死体は水を吸って、二目と見れない姿だったって。
この部誌に載ってるのが、女の子の書いた呪いの歌よ。
そう。この詩のせいでその子が死んだなんて、みんな思うわけがないわ。一つの作品として部誌に載せられ、そして文化祭に配られたことで多くの人の手に渡った。
その中で詩を声に出して読んだ人は、一体どのくらいいるのか。女の子の無差別の呪いは、一体どのあたりの人間まで効いたのか……。
海木、読んでみる? 声に出さなかったら大丈夫よ。
これがその詩よ。かわいい字でしょ。
いつつめ、読んではいけない文芸部誌。
なるほど確かに女子っぽい、丸い字だ。呪いの詩とはちょっと思えない。
十行程度の、長めの詩。印刷されたであろう少しかすれた字で、カタカナ交じりの日本語が書かれている。よく分からない言葉が入っている以外は、別段不気味な所はない。
……印刷・量産されてる時点で、呪いの効果があるものか、正直疑わしいが。
***
読むかと思って期待したのになあ。
なによ、死んでほしいなんて思ってないから。そんな顔しなくてもいいでしょ。冗談が分かんないのね。
ほら、次はあんたの好きな場所だから、機嫌直しなさいよ。
じゃじゃーん。ここよ。体育館。
あんた体育好きなんでしょ? 体育の後は男子がうるさかったわよ。
ま、それはそれとして――静かねえ。人がいないから当たり前なんだけど。
この体育館も、昔からあるらしいの。戦争やってたころぐらいからね。
授業で使う以外にも、日曜日は市民に開放して、ちょっとした憩いの場になってたんだって。
いつもの日曜日、大人から子供までがここに集まってた日。
偶然通りかかったアメリカの戦闘機が、ここに爆撃していったのよ。大きい建物だから人が集まってると思ったのか、分からないけど。
みんな逃げる間もなく、溶けるようにして死んでいった。
まだ小さい子も例外なくね。
あんまりにも突然のことだったから、みんな死んでることに気づかなくて、今でもここに漂ってるのよ。
ここで思い切り遊んだ、楽しい記憶のままにね。
やがて時が流れて、無人の時間にも子供のはしゃぎ声が聞こえるようになるって噂になったの。
でもね、声が聞こえる以外には何もないのよ。だから怖がる人も少なくなっていっ て、いつの間にかはしゃぎ声の噂はすうっと落ち着いたの。
もう成仏したのか、今はまだ黙ってるだけなのか、あたしはどっちでもいいけどね。
体育館なんてめったに使わないから。
むっつめ、体育館のはしゃぎ声。
なんか駆け足で終わったのは俺の気のせいじゃないだろう。
まあ、こいつなりの配慮かもしれないけど。
「六つ揃ったな。最後はどこだよ?」
花がにやっと笑う。
あんた、度胸ある?
「あるからこうやって着いてきたんだろ」
そ。じゃあこっちきて。
最後の場所はね――。
体育館を出て、一階校舎の北側。
俺はあまり使ったことのないトイレだ。
やっぱり怖い話にトイレはつきものなんだろう。
花は一層薄気味悪い笑顔で、俺を見ていた。
海木。ななつめの話は、この「女子トイレ」の話よ。
…………この時俺は、二学期からあだ名が変態になってたら、こいつをぶん殴ると決心した。
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