Scene15「宙の矢」


 鳳市の繁華街から少し離れたところに市役所や裁判所などが密集する官庁街がある。


 近頃はテロとの戦いによって、市民の日々の暮しが影響を受けないよう、様々な行政改革が行なわれつつある市政の中枢だ。


 財界人や役人達が大小の委員会を立ち上げ、市警や軍のサポートをするべく。


 様々な条例を可決を議会に提出、可決する政経連帯の場所でもある。


 現在は対テロ法制上の最前線と言ったところか。


 近代的な庁舎の群れは其々が独立したテロ対策を施された小さな城砦。


 ディスティニーの度重なる襲撃にも耐えてきた堅牢さは折り紙付き。


 市役所の職員達も歴戦の兵として非戦闘員ながらも、軍事訓練を定期的に受ける身だ。


 此処に仕掛けてくるのは相当な馬鹿か。


 あるいは単に死にたがりの類。


 少なくとも彼らを制圧するなら、市警と軍が掛け付けて来る前にガーディアンで急襲するくらいの事はしなければならないが、フォーチュンや市警の情報網と即応体勢があれば、それも不可能。


 テロに対してならば、彼ら官庁街の人間はソフト面でもハード面でも強い。


 故に人々は安心して訪れる事が出来ていた。


 そう、ほんの五分前までは。


『此処は我々が占拠した。今現在、その身体に巻き付けさせたジャケットは液化爆薬を沁み込ませた特注品だ。もしも、市警や軍が撃ってくれば、大きな衝撃で起爆しないとも限らない。とりあえずデモをしてみよう』


 カウンターの上でラウンジに集めた人質達の上にジャケットが放り投げられ、銃で撃たれた瞬間にドカンと破裂した。


『!?』


 パラパラと弾け飛んだ紺色の布地の破片が彼らの上に降り注ぐ。


『心配しないで欲しい。銃弾が掠るような、または大きく叩き付けられるような事態とならなければ、君達の身柄の安全は保証しよう。二時十分になったら、ラウンジからの退去を許可する。それまでは此処にいてくれ。我々のスナイパーが周囲の建造物に潜んでいる。時間までに外へ出た者は狙撃させてもらうので悪しからず。誰か一人逃げようとすれば、瞬間的な爆風の連鎖でこの場の誰もが即死する仕掛けだ。また、この庁舎の柱と耐震補強用の資材の幾つかに必要量の爆薬をセットしておいた。起爆時間は二時二十五分。ゆっくり退去しても、君達が譲り合いの精神を保てたなら、何も心配する必要はないだけの時間だ。さて、我々はそろそろ失礼する』


 覆面を被った男達はまるで申し合わせたように集まるとAL粒子の燐光を放って、その場から消え失せた。


 ヘルモードによる脱出。


 近くに機体が隠してあったのだろう。


 銃声が上がる。


 周囲に展開し始めていた市警の機動装甲車部隊が蹴散らされ、ガーディアンが来る前に男達はライトニング級のグレイハウンドを駆って、出来掛けの包囲網を鮮やかに突破していく。


 爆発する装甲車。


 薙ぎ倒される盾と警官隊。


 しかし、虐殺する間も無く。


 また、周囲にスモークとチャフを撒くのみでグレイハウンド達は独特のローラーダッシュの音色を響かせながら一目散に去っていく。


 一体何がしたかったのか。


 たった八分の占拠はそうして終わりを告げた。


 しかし、テロリスト達が去っても、誰一人として動ける者は無かった。


 相手の合理性と鮮やかな手際に自分達が不意に動けば、言われた通りの結末を迎える可能性を頭から否定出来なかったからだ。


 そうして、市警隊に重傷者が出たのみで市庁舎立て篭もり事件は呆気なく解決した。


 そして、同時に複数の公共施設と民間施設に爆破予告と占拠予告が届き、軍と警察は警戒レベルを最大に引き上げ、厳戒態勢に突入。


 鳳市は平和な平日が一転。


 市長の外出禁止令が出される非常事態へと陥った。


 *


「任務了解。引き続き、私立病院の警護任務に当る」


 市庁舎での事件から三十分後。


 爆破予告と占拠予告が出されたものの中でも特に重要度の高い病院と教育機関の周囲にフォーチュンの部隊が複数展開していた。


 病院も学校も市内には幾つもある。


 その全てにガーディアンを回せる程、フォーチュンも機体があるわけではない。


 現状、施設からの退去が出来ない場所だけに限り、彼らは展開していた。


(周囲に敵影無し。市警からの連絡では周囲三十m圏内に怪しい動きをする集団も無い。電子戦部隊からの報告も市内からのクラッキングが市庁舎占拠時の一度切りだと言う。一体、今回の敵は何を目的としているんだ?)


 病院から10m程離れた場所にガーディアンが佇んでいた。


 XG‐24。


 ホワイト・ソード。


 全長18.2mの巨人。


 非常にバランスの取れたカバリエタイプの機体だ。


 トリコロールカラーの極めて優秀な性能を誇る連邦の対奈落獣特殊戦仕様ガーディアン。


 採算度外視で造られ、ロールアウトした内の一機が鳳市フォーチュン支部では試験的に運用されている。


 元々、宇宙の連邦寄りコロニーで開発されていたソレは地上においても、極めて高い汎用性を発揮し、対ガーディアン戦だろうと大きな戦力として扱われていた。


 パイロットは若干十七歳。


 それは彼、エインス・リドバーグの事だ。


 緩い漆黒の巻き毛。


 何処か褪めた二枚目の相貌。


 その静かな眼光と長身から現在通っている鳳市高校では深窓の貴公子呼ばわりされていたりする。


 別に彼自身、そんなスカした性格では無いのだが、慣れない環境に戸惑う内に口数が少ないクール系好青年という烙印をクラスメイト達から張られてしまい、現在はフォーチュンの新人仲間くらいしか話せる人間がいなくなってしまった。


 そんな彼だが、現在フォーチュンにスカウトされて約一年が経過した。


 地道に下積みを続けてきた新人で、その実力は教導に当たるロドニーも驚く。


 所謂、天才肌というやつである。


 今では主戦力の一角として鳳市を離れての単独任務もこなせるようになった。


 ようやく帰ってきたのが半日前。


 本来ならば、自宅でゆっくり休養しているはずが、緊急コールが入って、そのまま支部から病院へと直行。


 その為、顔の疲れは隠せない。


 だが、それでも気を抜く事無く。


 彼は十分に自分の仕事を果たしていた。


(何も要求しない。困難な占拠を完了させたにも関わらず、すぐに現場を放棄して逃走。ご丁寧にルートには罠が満載で市警が追跡を断念。空からの追跡を振り切る為に地対空ミサイルを山岳部に用意する手際の良さ。更に重要施設の襲撃予告を出しておきながら、来る気配も無い……これは、たぶん)


 エインスの思考が不明瞭なテロリストの行動に回答を弾き出そうとした時だった。


『ホワイト・ソード。聞こえるか?』


「ロドニー教官?」


 通信に上司の声が飛んできて、彼が思わず顔を上げる。


 画面には彼を毎日のように鍛えて来た男の顔がもう映っていた。


「こちら、ホワイト・ソード」


『エインス。今から、市警のガーディアンがそちらに行く。引継ぎを終えたら、ただちに新しい現場へ急行してくれ』


「新しい現場?」


『今、目標地点を送信する』


「はい。分かりました」


 エインスの前に市からかなり離れた場所が表示される。


「此処は?」


『第一次大戦時の遺跡だ。連中、どうやら陽動だな。たぶん、こっちが本命。だが、市警も軍もフォーチュンの大半もこの騒ぎで動けん。高速で現地に急行出来る機体だけで小隊を編制した。お前にはその指揮を執ってもらいたい。生憎とオレの愛機は高速で移動する事には向かないんでな』


「分かりました。それで小隊の内訳は?」


『ヴォイジャーX。エルドリッヒ。お前のホワイト・ソード。そして、剛刃桜だ』


「ゴウ、ジンオー?」


『ああ、近頃来た奴だ。ライトニング級の剛刃を大本にして改修した機体らしい。どうやら浮遊と高速移動が出来るようで小隊のバランスも考えて入れた。特殊な機体だが、能力は折り紙付きだ』


「分かりました。それよりもアーテリアさんの方が小隊長として相応しいのでは?」


『あいつの騎士道をやってる暇があったら、一発撃てる対テロマニュアルを熟読してるお前の方が何かと融通が聞く。そもそも奈落獣戦以外の人間同士の戦闘にはあまり乗り気じゃないからな。あいつ』


「分かりました。任務了解。引継ぎ後、目的地に向かいます。合流予定ポイントは?」


『遺跡のある地域の手前だ。現場指揮と方針はお前に任せる。敵の目的の解明と敵の鹵獲がメインになるが、もしも相手が撃ってきたなら、構わず撃て』


「了解しました」


『以上だ。幸運を祈る』


 ロドニーとの通信が切れるとすぐに遠方から市警のガーディアンがやってくる。


 通信で軽く状況を説明、引継ぎを終えたエインスは機体のバーニアを吹かしながら、一般車両が交通規制を受けている国道へと向かい。


 その足で予定ポイントへと向かった。


 *


―――遺跡内簡易司令部。


『大佐。獲物が網に掛かりました。しかも、これは……大漁です。繰り返します。大漁です』


 部下達からの報告を聞きながら、彼女イゾルデ・フォン・グリューニングは部下達からの探索結果を下に地下に続く研究所の隠し通路を発見していた。


 とある富豪が所有する私有地の一角。


 山岳部の中腹にある第一次大戦期の遺構は彼女が探していた東亜連邦の研究所跡地で間違いなかった。


 周辺は先頃、奈落獣との戦闘があったせいで荒れていたが、部隊は問題なく進攻。


 周囲を閉鎖していた私設部隊らしきミーレス五機を蹴散らして、周辺のキャンプ地を制圧。


 遺跡内部へと歩みを進めていた。


「別動隊を引揚させろ。第二陣が来る前に挟撃する」


『了解しました』


「各部隊に通達。最初はまともに相手をするな。誘いながら陣の中央に引き込んだ後、予備兵力を反転攻勢に使い、背後からの挟撃と合せて一網打尽とする」


『計画を第二フェーズに移行。別動隊の様子を気取られぬよう電子戦部隊に各種レーダーの欺瞞に務めよと伝達せよ』


『了解。第二フェーズへ移行。繰り返す。第二フェーズへ移行』


 遺跡内部に張られたテントの中で次々に指示を飛ばしながら、若干27という若さにして女傑と周囲に言わしめるイゾルデは遺跡内部を先行する探査部隊からの報告を聞き逃さぬよう、幾つもの画面を平行して確認していた。


『大佐。最終セーフティーと思われる扉を発見しました。今までのものとはセキュリティーが段違いです。しかも、これは……やはり、今までに見た事も無い合金で出来ています。明らかにALでも奈落技術でも無い……今、サンプルを採集して届けさせます。開けるのには……三十分程時間を下さい』


「分かった。だが、こちらの形勢の転び方次第では即座に脱出出来るよう準備だけはしておけ」


『了解しました』


 彼女が見る幾つかの画面には探索部隊が見つけた合金製の巨大な扉が様々な角度から映し出されている。


 その耀きは照らすライトの加減もあろうが、確かに彼女も今まで見た事の無いもので、期待させるには十分な偉容であった。


「ん?」


 画面の中に僅か、文字のようなものを見付けて、彼女が隊員の一人によく映すように指示する。


 すると、画面の一つ。


 扉の上部にイヅモの言語で何かしらの文が刻まれていた。


「……七大(しちだい)の光……徳……无(む)を変じ……虚空蔵(こくうぞう)と……せしめん……宝冠……宝珠……宝剣……求聞持(ぐもんじ)の……導き……全天(ぜんてん)を記し……彼(か)の奈落……彼(か)の光……共に滅さん」


『読めるのですか? 大佐』


 部隊員達が僅かに驚く。


「ああ、これでも軍学校では歴史学を齧っていたからな。イヅモの歴史は興味深いものばかりだ。まぁ、東亜連邦の技術開発に関するレポートが読みたくて、齧っただけの俄かだったが」


『それで一体、この文章は何と?』


「七大の光徳、无を変じ、虚空蔵とせしめん。宝冠、宝玉、宝剣、求聞持の導き、全天を記し、彼の奈落、彼の光、共に滅さん。とある」


『奈落と光を共に……やはり、此処で研究開発されていたのは……』


「ああ、間違いないだろう。その前の文章だが、どうやらこの国の神々に由来する単語のようだな。宗教には詳しくないが、純粋に言葉を読めば、こうだ」


―――七つの善き行いが、無を変えて、無を抱えたものとした。冠と宝石と剣、求め聞き持つ導きが、天を記し、奈落と光を共に消す。


『研究開発をしていた者達は信心深かったのでしょうか?』


「いや、科学者というのは信心深い者もいるが、現実主義者でなければ勤まらん。何かしらのメッセージ。少なくとも、我々のような求める者へ伝えるべきだと思ったからこそ、文章は残されていたはずだ」


『第一次観測ラインを四機のガーディアンが越えました。ファンタズム級1、カバリエ級1、ユニオン級1、ライトニング級1の混成部隊です。最後のライトニング級を情報と照らし合せましたが、93%の確率で主目標と断定。交戦可能域まで現在の速度で十七分』


「各員。撤収作業に入れ。探索部隊は大型機材は置いていって構わない。伏撃陣を張るぞ。 各隊、準備に入れ!!」


『了解!!』


「陽動部隊に通達!! イヅモより速やかに脱出し、大陸側に本隊の退路を構築せよ。また、現地に潜伏している者には現時点での身分を破棄、ローレンシア内で移送するサンプルの解析準備をさせろ」


 ガヤガヤと忙しく立ち働く男達がすぐ様テント内から掃けていく。


 そうして、彼女が外に出ると同時に機材の搬出が始まった。


 ライトに照らされた通路を渡り、外に出たイゾルデは自らの愛機。


 共和国製のザート。


 もう五年もチューンして使っている骨董品の傍まで行くと目標が来る方角へと視線を向けた。


「さて………行くか」


 まだ見ぬ敵に思いを馳せて。


 彼女は自らの愛機へと乗り込む。


 無骨なザートのヘッドパーツから漏れる紅の探査光が耀き、それに続いて周辺の森林地帯にも同じ光が広がっていく。


「各自、戦術リンクを切れ。我々の力をフォーチュン共に見せてやろう。この“ティラネウスの海竜”と我が大隊が如何なる者であるかを。全ては祖国の真の独立の為に!!」


―――大佐殿!! 大隊指揮官殿!! 我らが光にして女王!! 全ては真の独立の為に!!!!


 情報共有システムを切りながら、それでも一糸乱れぬ統率を見せて。


 唱和する無線の響きが、僅かな誤差も無く掲げられた機体の片腕が、彼らの錬度を如実に表していた。


 *


「ヴォイジャーXから各機へ。周辺のAL粒子濃度が上がっています。この数値から言って、確実に部隊規模は十機単位。相手の数は不明ながらも、アンブッシュには気を付けて下さい。センサーや映像に映る敵だけとは限りません」


「ホワイト・ソード。了解した」


「エルドリッヒ。了解」


「剛刃桜。了解」


 四機は隊列を組んで移動していた。


 最もセンサー類が優れたヴォイジャーXが先頭。


 続いて速度に優れたエルドリッヒ。


 三番手に中距離からの射撃管制制御能力が高いホワイト・ソード。


 殿には遠距離武装を積んでいない剛刃桜。


 フォーチュンの三人は互いに親しいという訳ではなかったが、顔見知りだ。


 しかし、七士はヴォイジャーXとエルドリッヒのパイロットと機体越しで話しただけに過ぎない。


 今回も特段、機内の映像を送り会うという事も無く。


 サウンドオンリーの無線通信のみで会話に参加していた。


「また、会ったな」


「ああ」


 エルドリッヒの女騎士の声に七士が返す。


「現地の私設防衛部隊は制圧されたと報告が入ってきている。敵は少なくとも、傭兵を軽く捻り潰せる技量だ。エインス・リドバーグ、璃琉・アイネート・ヘルツ。抜かるな」


「分かっています。アーテリアさん」


「はい。よろしくお願いします。アーテリアさん」


 エインスと璃琉が頷いた。


「では、これより、作戦の説明を。敵の戦力は分かりませんが、優先目標は三つ。一つは私設防衛部隊の解放と保護。一つは遺跡の奪還と遺物の奪取阻止。最後の一つは生き残る事。敵の陽動部隊はどうやらライトニング級を使っていたようですが、それが全てとも限らない。最低限、人命さえ確保出来れば、撤退しても構わないと本部からも連絡が入っているので、敵の数が多ければ、制圧部隊を無力化して、引きましょう」


「……ふむ。では、敵がもし人命を盾に使ってきた場合は?」


 アーテリアの最もな問いにエインスは冷静に受け答えする。


「攻撃を加えて、様子を見ます。彼らが本気であれば……アーテリアさんに斬り込んで貰い、被害が最小限の内に一部でも無力化して、民間人を回収し、撤退という事で」


「だそうだ。つわものよ」


 アーテリアが七士に話を振る。


「その呼び方はどうかと思うが」


「ならば、何と呼べばいい?」


「七士。七士だ」


「ナナシ。名無し? まぁ、いい。では、これより頼むぞ。ナナシ」


「ああ」


 何やらアーテリアと話している相手の素性に不安を感じたのは璃琉だけではないのか。


 エインスが静かに訊ねる。


「ナナシさん。一つお聞きしても?」


「何だ?」


「その機体、ゴウジンオーの性能に付いて」


「近接武器と一部、無線誘導兵器が使えるようだ。また、射程は近接から中距離まで対応可能だ。この面子の中で一番防御力が高いだろう」


「特殊な機体だとロドニー教官から聞いています。では、エーテリアさんと共に空と地上から同時に突撃を掛けて貰っても?」


「構わない」


「では、二機をこちらでサポートを」


「頼む」


 端的に終った作戦会議の後。


 誰も一言も発さなかった。


 そうして、ようやく目的地である山岳部が数km先に見えてきた途端だった。


 キラリと山岳部の一帯から何かが耀き、彼ら四機のいる一帯に複数の砲弾が炸裂する。


「全機、散開!! 各機は傾斜地からの砲撃に注意。また、アンブッシュの可能性大。敵を見付けても不用意な接近は避け、中距離戦を心掛けて下さい。エルドリッヒとゴウジンオーは先行し、敵の位置を特定しながら、そのまま駆け抜け、制圧された部隊の救出を!! こちらで援護します」


「「了解」」


 空と陸。


 敵機を見付けても、素通りするエルドリッヒとゴウジンオーから次々に指揮官機であるホワイト・ソードに情報が送られてくる。


 共有された位置情報を元に支援攻撃が二人の行き過ぎた道端の敵に加えられ、ビームとミサイルの嵐が樹木の中に潜んでいた敵を炙り出した。


「敵機を確認!! これはザート? しかも、この型……旧い正規軍の……」


 璃琉が森林地帯から出てきて加速し始める機体の情報を見て、僅かに驚く。


「現在、合計で十三機!! まだ隠れている可能性有り」


 空から支援攻撃でミサイルをばら撒いているヴォイジャーXを狙って、複数のザートがジグザクに奔りながら、マシンガンを連射する。


「敵機は機動性に優れたザートタイプ!! 支援砲撃に注意しつつ、各個撃破に当る!!」


 言っている傍からホワイト・ソードのビームライフルが一機の肩に命中して、根元から吹き飛ばし、行動不能にした。


 しかし、それに動揺するでもなく。


 冷静にザート達は仲間のバックアップに入るとバルカンで牽制するホワイト・ソードの前に盾を装備した機体を立てて、上空のヴォイジャーXに攻撃を集中させ始めた。


「ッ」


 さすがに十三機の同時射撃は避け切れず、何発か被弾したヴォイジャーXがホワイト・ソードの周囲に変形しながら着陸する。


「大丈夫か?」


「はい。損害は軽微です」


「では、周囲の索敵を密にしながら、二人を追うぞ。防御する敵には構うな」


「了解しました」


 エインスが自分達を釘付けにして分断する気なのだと相手の動きから推測し、先行する二人に追い付こうと機体を加速させようとした瞬間だった。


 ドガガガガガガガガガッッッ!!!


 猛烈な勢いでエルドリッヒと剛刃桜との間に山岳部からの砲撃が炸裂した。


 それと同時に機を逸した二機に周囲を囲むようにしてザート達が包囲網を敷いていく。


「正規軍並みの錬度……しかも、包囲殲滅を意図するだと? 今回の敵は―――」


「来ます!!!」


 璃琉の声より数瞬後。


 包囲陣の内部に雨霰と砲弾が迅速に集中され、二機が身動きを封じられた。


 ドガァアアアアアアアアッ!!!


 爆散する地面と石礫の雨に打たれながら、エインスは相手の素性を看破する。


「くっ!? こいつら、ノイエ・ヴォルフか!!?」


 ホワイト・ソードのビームライフルが再び一機の肩を直撃して打倒すも、上半身を半壊した機体は再び盾持ちの機体に援護されて包囲の後ろ側へと下がってしまう。


 その間にも周囲からのマシンガンが少しずつ被弾し、ホワイト・ソードとヴォイジャーXのAL粒子力場を削りつつあった。


「コロニー独立の急先鋒が一体、イヅモに何の用だ!!」


 時間稼ぎにとオープンチャンネルで呼び掛けるものの。


 ザート達はまるで答えず。


 ただ、冷徹に二機に向けてマシンガンを乱射し、ミサイルやビームライフルで手足を吹き飛ばされた僚機を庇いながら、足止めと消耗を強いる。


(強い!? 機体性能は確実にこちらが上なのに一機も落せない―――それにあの一糸乱れぬ統率。情報リンク特有の味方の誤射防止機能が切られている?)


 二人の機体は機動性が高く。


 装甲があまり積まれていない。


 ホワイト・ソードは高機動用のバインダーも装備していたが、動きを制限された状況下では使いようも無かった。


 二人のビームとミサイルが少しずつ動けるものの攻撃能力を喪失したザートを生んでいたが、それにしても包囲連携が解けるのにはまだ数機は行動出来ないようにしなければならないだろう。


(こっちの射撃管制能力は高いはずなのにコックピットへの直撃を避けられる!? そうか……動きを制限して、打たれる方向を限定、射線を読んで、先読みしているのか?! この錬度、並みじゃない!!)


 二人が支援砲撃とマシンガンの嵐の中で苦戦を強いられている頃。


 エルドリッヒと剛刃桜もまた制圧された私設部隊のいると思しき場所を前にして敵機の群れに阻まれていた。


 背部に増設されたブースター。


 ライトニング級でよく使われるローラーダッシュ機構。


 そして、両手に盾を持つ機体が連携し、射撃武器を持つ機体をガードしつつ、少しずつ後退。


「遅滞戦術? ナナシ。やつらは遺跡に未練があると見える」


 空でマシンガンやキャノン砲を掻い潜りながら、エーテリアが笑った。


「……任せられるか?」


「笑止。確かにこやつらは歴戦の勇と見るが、何分バランスが悪い。盾持つ者、遠きを撃つ者ばかり。このエルドリッヒの刃、ソレでは欠けもせぬ」


「分かった。先行し、遺跡へと突入する」


「あやつらの後ろにいる者達は任せろ」


「了解」


 剛刃桜がエルドリッヒの下から離れ、大きく迂回する形で山岳部の中腹へと向かった。


 エーテリアがエルドリッヒをアクロバティックに旋回させながら、機体の横を通り抜けていく弾の雨に沿うようにして突撃を掛けた。


 まずは盾を持つ機体を無力化しようと、その刃が迫った時、ギインとAL粒子の高密度粒子場が空間平面に対して投射され、侵入不可侵の壁となった。


「!?」


 一瞬、速くエルドリッヒが方向を変えたが、それを追うようにして弾の雨が奔る。


「【ティール】……まさか、全員……面白い!!」


 標的数21機。


 そして、足止め用の武装。


 とくれば、加護すら統一されている可能性があった。


「ならば、全ての加護を使い尽くすまで突撃あるのみ!!!」


 アーテリアは不断の顔とは打って変わって、その相貌に炎を揺らめかせ、戦いの愉悦と騎士の意地を両輪に果敢なる攻撃を敢行する。


 その最初の犠牲者が出るまで、【ティール】残存数20。


 歴戦の男達は相手の技量を悟ったか。


 自らの加護の全てを掛けるようにして一斉に攻撃を掛けた。


 まず、叫ばれるのはあらゆる確率を上げる【バルドル】。


 長い長い消耗戦の幕開けはエルドリッヒの刃が本来なら両断出来るだろう盾に食い込み、止るところから始まった。

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