研究員の日記 五月三十一日(プロローグ 15/25)

 研究員の日記 五月三十一日


 いよいよ明日だ。


 朝のミーティングで、明日のスケジュールが発表された。


 午前八時から屋外にて、錬換れんかん武装兵器第一号のデモンストレーション。隊長が実際に装着して、その性能を所員たちに披露する。

 続いて午前十時、予備転送。隊長ひとりが転送を行い、向こうの様子を確認する。

 先回の転送時、こちら(地球の日本)が午後一時だったにも関わらず、向こうが夜であった。

 叢雲むらくも博士が研究を続けている間、我々は向こうの惑星の自転周期の調査を行った。向こうの遺跡の出入り口の扉で待機し、扉を少しだけ開けて日照を観察するというものだ。

 結果、向こうの惑星も一日二十四時間周期であり、地球の日本と向こうの惑星とでは、時間がちょうど十二時間ずれていることが分かった。こちらが午後一時なら、向こうは午前一時、やはり私たち調査隊は、深夜に向こうに乗り込んでしまっていたのだ。


 向こうで行動するのには、昼間が当然望ましい。

 向こうの時間で午前十時に行動しようとしたら、こちらを出るのは午後十時だ。しかし万が一の場合を考え、午前十時に一度予備転送を行い、向こうの様子を確認する処置を執った。その予備転送の時刻に、向こうが間違いなく夜、すなわちこちらの午後十時に相当する時間帯であることが確認できれば、午後十時に転送を行えば向こうの午前十時に活動を行うことが出来る。


 午後十時の本転送に赴くメンバーは、隊長、亮次りょうじ、田中の三人だ。

 人数が少ないのは、錬換武装兵士端末が一台しかなく、戦闘可能なのが隊長ひとりだけであるため、守る人数が少ない方がいいという判断からだった。

 転送先で錬換を試すのはもちろん、可能であれば、怪物と一戦交えることも目的とした。

 一対一で戦えるような理想的な展開となればよいのだが。私も含めた調査隊が見たような大群が相手では、いかな戦士となった隊長といえども満足に戦える保証はない。


 明日に向けて、今日は早めに床についた。いつも以上に早い時間であることに加え、明日のことを思うと、興奮から、私は中々寝付けそうにない。

 今もこうしてベッドに入ることなくパソコンに向かって日記を記している。午前八時の予備転送で何の問題もなければ、午後十時まで約十二時間仮眠が取れるのだが、所長は万が一の場合に備え、所員を二班態勢に分けた。

 私は午前八時の予備転送担当の一班に配置された。そのためもう自室に戻らされたのだ。

 だがいいこともある。一班配属の職員は、午前八時に行われる、錬換武装兵器第一号のデモンストレーションを見学できるのだ。十分な睡眠と体調を考え、二班配属の所員はこの時間は就寝が義務づけられている。


 この実験が成功すれば、錬換武装兵士量産態勢に向けてのさらなる研究が成される。

 我々はそう遠くない未来。あの、まだ誰の手も入っていない未知の星を踏破することになるだろう。

 襲いかかってくる怪物は、錬換武装兵士の部隊が迎撃する。そして前線基地を作り、領土を広げ、資源を確保していくのだ。

 こちらからはほとんど何も持って行くことはできないが、我々の頭脳は別だ。

 向こうにある資材を使い。長い人類の歴史で培われた頭脳と経験で、あらゆるものを作り出す。

 叢雲博士の研究が進めば、大きな建築物をも錬換で作り出すことができるようになるかもしれない。


 想像が加速しさらに目が冴えてしまったが、もうベッドに入ることにする。今朝の亮次のように、青い顔で明日という記念すべき日を迎えるわけにないかない。(亮次のそれは寝不足というより二日酔いのせいだったのだが)


 明日のこの日記には、いったいどんなことが記されるのだろう。自分でそれを書くのが、今から楽しみでならない。

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