研究員の日記 五月三十日(プロローグ 14/25)

 研究員の日記 五月三十日


 叢雲むらくも博士が初日以来、約半月ぶりにここへやってきた。完成させた試作品第一号を持って。


錬換れんかん武装兵器第一号〉のプログラムが収納されている端末機械。

 博士が差し出したそれは、携帯型のゲーム機や携帯電話以下の大きさだった。これなら、大人であれば口内に入れることができるだろう。

 こちらで最終調整を行った後、二日後に実際にそれを持って転送を行う。


 錬換武装兵士となる人間は、調査隊の隊長が選任された。気力、体力、周りからの信頼、どれも申し分ない。選任とはいったが、初めて怪物と戦うという役目を任せられるのは、この人以外にはいないだろう。

 初めて遺跡の人体被験者となった田中も名乗りを上げたが、隊長なら仕方がないと身を引いたのだ。


 博士は、試作品と一緒に、ひとりの研究者も連れてきた。その研究者こそ、博士の自慢の甥、叢雲亮次りょうじだった。

 若く見えるが、歳は三十に届いてはいない程度だろうか。精悍な顔つきで、研究者らしい知性も感じさせる。掛けている眼鏡も知的な印象に一役買っている。


 亮次は試作品の記録を取るために〈向こう〉に同行させてほしいと所長に頼んだ。

 叢雲博士は反対したが、亮次の意思は固く、博士は折れ、所長もこれを了承した。


 その夜、我々は亮次の歓迎会と称し酒を飲んだ。

 叢雲亮次は明るく気さくな性格で、私はこの男に大いに好感を持った。

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