四/目撃者・毛利惣右衛門の話(これまで出た瓦版のまとめ)
毛利家は、町人の好奇の目で見られるのを避け、初めはあまりこの事件について語らなかったが、少しずつ、皆に知られていない事実を語り始めた。
毛利惣右衛門が曲者を見つけたのは、実は奥方の部屋だったのだ。
惣右衛門が読み物をしていると、奥方の部屋から「きゃあっ」という小さい悲鳴が聞こえ、何ごとかと飛んでいったのである。
すると、異様な格好をした男――顔はわからない――が奥方の部屋から飛び出てきた。
思わず「曲者!」と叫ぶが、妻の様子が気になる。まずは妻の様子を見る。良かった、怯えてはいるが怪我をしている様子もないし、着物の襟も崩れていない。無事だ。
ほっとして一瞬気を抜いた瞬間、曲者が刀を振り下ろす!刀で受けようとしたが間に合わない。首を守ろうとする、手首に当たれば切り落とされるかもしれぬ、背に腹は代えられないと、腕を犠牲にする。切られる――一瞬冷たい感触が走り、すぐに燃えるように熱くなった。一瞬体が硬直し、動けなくなる。その隙に曲者は走り去ろうとする。しかし、逃がしてなるか!すぐに追う。不気味な男は燈籠を使って塀に駆け上がり、ついでに燈籠を蹴倒し、だが逃げずに塀の上から男を見下ろす。刀を持った男が高い場所から自分を見下ろしている。緊張が走る。
「貴様!なにやつ!……刃向かうか!」
男は塀の上で自分の姿を見せつけるように、じっと主人を睨む。毛利家の門番が二人、あわてふためいて走ってくる。惣右衛門は少しだけ余裕を取り戻す。これでこちらが優性だ。逃がしてなるものか!曲者は門番二人と主人をもう一度睨み、そして塀の向こうに飛び降りる。惣右衛門は一瞬迷う。塀の向こうは山本家の敷地である。勝手に侵入してよいものではない。しかし。
「な、なんじゃ貴様は?!く、くせ者!であえ!であ……ぎゃぁあっ!」
聞き覚えのある声が聞こえる。山本寛十郎の声だ。惣右衛門の背に冷たいものが走る。一刻も早く負わねば、寛十郎殿の命も危ない!
「御免!」
逃がすわけにはいかぬ、追い詰めるために門番にも指示を出し、塀をなんとか乗り越える。
そこからは冒頭にあったとおりである。
それから変わった事といえば、門番が二人だけでは無用心だということで見張りや用心棒を増やすことになった。
惣右衛門の妻である、志乃が大変に怯えて、このままでは江戸におられないと惣右衛門に泣きついたのだ。
惣右衛門にはそれを断る理由は何一つなかった。
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