129区 紗耶の競り合い

その表彰式から2時間後。800mの準決勝が始まる。紗耶が出場した3組目。まるで先ほどの予選を見ているような感覚だった。


ラスト1周の時点で紗耶を含め3人が一塊となって先頭集団を形成。後ろとの差は大きく開いていた。


ただ、予選と違うのは、準決勝は3組2着プラス3と言うことだ。つまり3人のうち確実に決勝に進めるのは2人だけなのだ。


ラスト1周の鐘が鳴り晴美がもうひとつの事実を告げる。


「やっぱり1組目に比べ400mのラップが5秒遅いかな。2組目と比べても3秒程遅い。この組からのプラスは期待できないかも」


1組目は城華大附属の貴島祐梨が最初から先頭を引っ張り、全体的にタイムがかなり速かった。5着目まで僅差で雪崩れ込んだため、1組目からプラスが3名出る可能性が非常に高い状況となっている。


この3組目は、そんな1組目だけでなく、2組目と比較してもタイムが悪いとなれば、紗耶が決勝に進出するためには着順で2位に入るしかない。


「紗耶、頑張れ!」

「紗耶さんファイト」

バックストレートを走る紗耶に声を届かせようと、みんなで懸命に声を出す。


ラスト200mを切ったところで1人が飛び出る形となり集団がばらける。紗耶と聖ルートリアの選手が一歩も譲らない2位争いを演じる。ラスト100mになり、ホームストレートに入ると2人が横一列に並ぶ。本当に2人とも一歩も譲らない。私達もありったけの声で必死に応援をする。


紗耶の得意技とでも言うべき、ラストスパート。もちろん、今回もしっかりとスパートをかけているのだが、聖ルートリアの選手も紗耶と同じくらいラストスパートが速く、紗耶にしては珍しく、ラストで主導権を握れずにいた。


紗耶と聖ルートリアの選手、横並びのまま同時にゴール。スタンドで応援していても、どちらが勝ったか全く分からなかった。


「今の……どっちが勝ったんですか?」

不安そうに質問してくる朋恵に誰も返答出来ない。本当に分からないのだ。

結果待ちのわずかな時間が、ものすごく長く感じられてしまう。


と、オーロラビジョンに速報が出る。それを見て晴美が真っ先に声を上げた。

2着に名前があったのは紗耶だった。それも3位とわずか100分の1秒差。


「まぁ、たった100分の1でも勝ちは勝ちだな」

ため息を吐きながらも、永野先生は安堵の表情になる。先生も気をもんでいたいようだ。


私達も自分のことのように喜ぶ。おかげで紗耶が帰って来た時に、「いやいや、みんな盛り上がりすぎだよぉ~」と苦笑いされた。


「でも、速報を見るまで本当に結果が分からなかったんだよぉ~。こんなの初めてだよぉ。決勝に進出出来てよかったぁ……」

と本音も漏れていたが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る