113区 野生児聖香?

昨年と違い、今年は大型連休までが早く感じる。

昨年の4月は色々とばたばたしていたせいだろうか。


入学式、部活紹介、そして親との言い争い。本当に昨年はたくさんのことがあった。


今年は淡々と日々が過ぎて行き、気が付けばもう5月だ。大型連休中の部活も本日のみ。明日からは3連休だ。ちなみに、親から許可が出たので、明日から二泊三日で熊本へ行く。


「今日は、お腹の調子が悪いので、別メニューでも良いですか?」

部活が始まる前に、紗耶が永野先生に申し出る。


それなら仕方ないと、紗耶は自主練となった。紘子は学校に提出する書類があるらしく、遅れてやってくるらしい。


それ以外のメンバーでアップの体操をしていた時のことだ。


「え? 聖香ってそんな小学生だったの?」

「いや、別にいたって普通だと思うけど? ねぇ、晴美?」

同意を求めたはずなのに、晴美に苦笑いをされる。


体操中に小学生の時にしていたことと言う話題になった。ミニバス漬けだったと言う麻子。勉強ばかりしていた葵先輩。家で本を読むことが多かった朋恵。


最後に私が、「川にサカナやカニを取りに行ったり、森の中に探検に行ったりしてた」と打ち明けたら、みんながドン引きしてしまった。


「確かに私も一緒に行っていたけど、わりと聖香が率先して行ってたかな」

晴美にいたっては、自分は違うよアピールを始める始末。


横で聞いていた永野先生にいたっては、何がツボだったのか、大笑いをしていた。笑ったあとで、「澤野がアップダウンに強くて、脚の筋肉がバネみたいに柔らかい理由が分かった気がした。お前、野生児だったんだな」と憐れむような目で私を見る。


あははと苦笑いをしておいたが、内心では笑顔が引きつってしまう。


アップのあと3000m+2000mをやって練習も終了。ダウンの体操中に紘子がやって来る。


「若宮、もう今日は自主トレで良いぞ。後から自分で走っとけ」

永野先生に言われ、「はい」と返事をして私達の輪に入って来る紘子。


だがすぐに血の気が引いたような顔になる。


「どうしたのかな紘子ちゃん?」

「ほんとに大丈夫? 顔が真っ青よ」

晴美と葵先輩の心配をよそに、紘子は紗耶を指差しながら、怯えたような声を絞り出す。


「みなさん。この人誰ですか? 紗耶さんとそっくりですけど、あきらかに別人ですし」

「ひろこちゃん……。どうしたの? どう見ても藤木さんだよ」

「いやいや。朋恵? どう見ても違うし。紗耶さんじゃないし。そっくりだけど、紗耶さんじゃなくて、でもみんな紗耶さんとして扱っているし。本当にどうなってるの?」


半分パニックになるっている紘子を見て、麻子が何かに気付いたようだ。

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