110区 ひろこん家
新学期も2週間が過ぎ、新入部員の2人もかなり部に馴染んできた。そんな中、とある土曜日に、紘子の1人暮らしが話題に上る。
「別に普通ですし。まぁ、今日は午前で部活も終わりましたし、なんだったら見に来ますか?」
紘子はややあきれ顔だったが、私も含めて全員がぜひ行きたいと答えると、ますますあきれていた。
「おじゃましま~す」
「おぉ、本当に綺麗なんだよぉ~」
「綺麗と言うか、殺伐としてない?」
玄関に入るなり、みんなが思い思いの感想を口に出す。
確かに私としても麻子の発言どおり、どちらかと言うと殺伐としているという表現がしっくり来ると思った。
「自分、物を色々置くの好きじゃないですし」
紘子自身の説明どおり、玄関を入ってすぐ右手にある流しには、スポンジと洗剤それに水切りカゴとまな板があるだけだった。
「紘子ちゃんは料理しないのかな?」
「失礼な晴美さん。こう見えて料理は得意ですし」
台所周りもさることながら、その向かい側にある洗面所周りも綺麗に整理されており、石鹸と歯ブラシがぽつんと置いてあるだけだった。
そっと引き出しを開けて見ると、きちんと整理整頓され、色々な物が入っている。どうも、見える所には最小限の物だけを置き、他は引き出しの中に綺麗にしまうと言うのが紘子のスタンスらしい。
それが分かると、さっきまでの殺伐とした感じが、凛とした静けさへと変わって行く。
あぁ、姉にも見せてやりたいものだ!!
玄関をそのまままっすぐに進み、ドアを開ける。部屋の大きさは8帖といったところだろうか。部屋の右側は奥からテレビ、机、本棚が並んでいる。机の上にはノートパソコンまで置いてあった。部屋の左側はベッドと備え付けのクローゼットらしき扉があるだけだった。ちなみにベッド上方の壁には制服が掛けてある。
部屋の中もシンプルで、これが紘子の部屋にある物のすべてだった。
「あら、部屋の中も何もないのね」
「あ……でも大和さん。一昨日はベッドの向こうに、ダンボールが折り畳んで置いてあったんですよ」
朋恵の説明を聞いて私が真っ先に驚いたのは、この部屋にすでに来たことがあるという事実だった。
麻子も同じことを思ったらしく、朋恵に尋ねると、
「はい。わたし……今日で来るの3度目なんです」
と、まるでわたあめのような、ほわほわした微笑みを見せる。
「そうそう、ひろこちゃん……。今日は服を干してないんだね。この前来た時は、黒くてすごいブラとパンツを干し……」
喋り終わる前に、朋恵は紘子にほっぺたをつねられていた。
「なに紘子? 勝負下着とか?」
麻子の問いに紘子は顔を真っ赤にして否定する。
「でもぉ、本当にこの部屋すごく綺麗なんだよぉ~。新築ぽいし、家賃高そう」
紗耶の質問を話題を変える絶好の機会と思ったのだろう。紘子はその話に喰いつく。
「それが、そうでもないんですよ。実はこのアパートのオーナーが、母親のいとこのお嫁さんの妹の旦那さんなんで、安くしてもらっていますし」
私の頭の中で、家系図が次々と線を結んでいくが、どう考えてもたどり着く先はただの他人のような気がしてならない。
「それに家賃は親が払ってくれてますし。逆に私は月々の生活費をもらってる身ですし。だから親には迷惑を掛けっぱなしです。それでも自分は桂水に来たかったし、来させてくれた親にはすごく感謝しています」
『ぐ~~!』
紘子が真面目な話をしていたのに、後ろからお腹が鳴る音が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます