96区 県駅伝後の日常

県高校駅伝2位と言う成績に、学校は大騒ぎだった。最終的な結果は、城華大附属と9秒差。ちなみに私以外の区間賞はすべて城華大附属が獲得した。さすが県内最強だ。


桂水高校は一応文武両道を校訓にしているものの、実際は運動関係があまりかんばしくない。男子テニス部の県内ベスト16が、ここ近年一番の成績らしい。


個人だと、私のように県優勝も過去に一、二回あったそうだが、団体で県2位は桂水高校創立以来初めてのことだそうだ。


そんな事情もあり、毎週水曜日に行われる全校朝礼で、私達女子駅伝部は全員で壇上に上がり、結果発表を行った。


壇上に駅伝部全員で並び、永野先生が大会結果を報告した後、校長先生からお祝いの言葉をもらう。


壇上から全校生徒を見ながら、私は駅伝の閉会式を思い出していた。


2位になった私達は、今と同じ様に全員でステージにあがり、メダルと賞状それに盾をもらった。あまりのことに全員ガチガチに緊張してしまい、終わった後で永野先生に大笑いされた。


その後、城華大附属のメンバーと話しをする機会があった。


「来年は絶対に負けませんからね。そちらは加奈子先輩と桐原さんが抜けますけど、こちらは全メンバーが残りますし」

笑顔で宮本さんに話す葵先輩。


「残念。すでに来年の大型新人加入が決まってるんよ」

「それって若宮紘子のことですか?」

宮本さんの発言に、私はすかさず聞き返す。


「いや、残念ながら城華大附属は若宮紘子にフラれたんよ。阿部監督が勧誘に行ったら『もうすでに進学先は決めてますので、お断りします』ってキッパリ断られたんて」


正直、驚きを隠せなかった。

ナイター陸上で若宮紘子に進学先を聞いておけばよかった。


いったい、彼女はどこに進学するつもりなのだろうか。

まぁ、今更思っても仕方ないことだが……。


駅伝が終わるとしばらく静かな日々が続く。


「来年に向けて、まずは基礎体力を作り直そう」

永野先生の提案の元、練習は走り込み中心のメニューとなった。


スピード練習は一週間に一度ロングジョグの後に1000mのタイムトライを行うのみ、他は毎日毎日ひたすら走り込む日々が続く。


あまり走り込みが好きではない麻子は、1000mのタイムトライは生き生きしていたものの、走り込みで随分とストレスを溜め込み、8日目には発狂していた。


そんな麻子を、紗耶と葵先輩がなだめつつ毎日練習をこなしていく。


そして12月。ついに都大路が行われる季節がやって来る。


「綾子先生、これって大丈夫なんですか?」

「日曜だし、ばれなければ大丈夫だろう」

職員室の隣にある会議室。そこには大きなテレビが設置してある。そのテレビで都大路を観戦しようということになったのだ。学校側の許可もとらずに……。


「まぁ、部活のためですと言えば、問題はないのだがな」

私達全員分の暖かいコーヒを入れて来た永野先生が、葵先輩に説明をする。


そして始まった都大路。城華大附属は県駅伝とまったく同じオーダーを組んで来た。


宮本さんは前半から積極的に先頭集団の前方で走る。


「次に入って来たのは、7位の山口代表・城華大附属高校、宮本。8位の和歌山代表・岡関商業、小柴。ラストまで競り合いながらのタスキリレー。さぁ、続々と選手が入って来ます」


宮本さんが7位でタスキを渡すと、城華大附属はそのままの順位でレースを進め、藍葉がアンカーで1人を抜かし、6位と言う成績を収めた。


そして、この試合で優勝したのは、えいりんが在籍する鍾愛女子高校。と言うより、勝負を決めたのが、そのえいりんだった。


「さぁ、これで5人を抜き単独首位に出ました。熊本県代表・鍾愛女子。3区を任された1年生の市島。トラックでは1500mランナーとして活躍しており、スピードには自信があるそうです。その言葉どおり、非常に積極的な走りをしております」


3区で出場したえいりんは、6位でタスキをもらうと同時にものすごいペースで飛び出し、ラスト500mの地点でトップに立った。それで勢いに乗った鍾愛女子は、以後一度もトップを譲ることなく優勝したのだ。


ちなみにえいりんは1年生で唯一区間賞を取っていた。


親友でもありライバルでもあるえいりんの活躍は、嬉しくもあり少し悔しい気もした。

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