87区 1区ラスト1キロ

前を行く宮本さん。その後ろに私と泉原学院が並んで付く。


やはり宮本さんは体力を残していた。先頭に出ると少しだけペースを上げて、私達を引き離しにかかって来る。ラスト1キロまで無理をすることはないと言われていたが、どう考えてもここで宮本さんを独走させるわけにはいかない。


私は少し強く腕を振り、息を短く吐くようにしながらペースを上げ、宮本さんとの差を詰める。泉原学院はこのペースに付けなかったのか、私の横ではなく後ろに付く形となり、再び集団は縦一列になった。


もうすぐラスト1キロ地点というところまで来ると、急に観客が増えた。


そうか、この辺りは5区のスタート地点だ。麻子もどこかで見てくれているのだろうか。


そう思って道路の向かい側にある中継所をちらっと見る。


それと同時に、私を呼ぶ声が聞こえる。


「聖香! 頑張れ! あと1キロ!」

その声は道路の向かい側からではなく、こちら側から聞こえた。


前を見ると、50m先に青いベンチコートを着た麻子が立っていた。わざわざこちら側に渡って来ていたようだ。


麻子の姿を見つけると同時に、私は手袋を外し、下投げで麻子に向かって投げる。走りながらだったので、少しずれてしまったが、麻子は上手くキャッチする。さすが元バスケ部。そんな麻子を見て私は少しだけ微笑む。それに応えるように、麻子が笑顔で「ファイト」と声をかけて来た。


その直後、ラスト1キロを通過する。後ろに下がった泉原学院はこのペースに付いて来れなくなったようだ。私の後ろから足音と呼吸音が消える。これで先頭は私と宮本さんの一騎打ちとなった。


ラスト1キロから始まる小刻みなアップダウン。まず最初は登りだ。


アップダウンが得意な私だが、登りの方がより得意だ。

登る間に宮本さんの横へ並ぶ。

でも次の下りでは2歩前に出られてしまった。


登りは私に、下りは宮本さんに分があるように思える。


問題なのはラスト80mが下りということだ。つまり、その前の登りで宮本さんからリードを奪い、ラストの下りで逃げ切るしかない。


スタートする前までは、先頭からのタイム差を1秒でも少なくしてタスキを渡し、チームの流れを作るのが私の仕事だと思っていた。


つまり区間順位は2位以降が前提だった。


でも、ここまで来ると負けたくないという気持ちが一気に湧いて来る。

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