80区 開会式

「へぇ、陸上競技場の近くにこんな体育館があったんだぁ~。わたし知らなかったよぉ~」


「そうなの? あたしは中学生の時にバスケの試合で何度か来たから、懐かしいって感じだけど。それに競技場からもこの体育館見えてるでしょ? そもそも、競技場や体育館がある敷地も含めて、この辺り一帯を山口県総合スポーツ公園と言うのよ? だがら、テニス場や武道場、弓道場だって周りにあるじゃない」


驚く紗耶に対し、麻子はさも当たり前のように答える。実は私も体育館の存在を知らなかったし、この辺りが山口県総合スポーツ公園と言う名称だったということを今知ったのだが……。


何を言われるか分からないので、麻子には黙っておくことにする。


「さて、時間もないし、お前らはさっさと開会式に行って来い。私は学校受付をしてオーダー表を提出して来るから」

永野先生に急かされ体育館に行こうとする私達の横で、由香里さんが困っていた。


「私はどうしたらいいの? 綾子」

「え? 由香里は……車で寝てても良いけど」

それを聞いた由香里さんは永野先生の頭を軽く叩き、

「じゃぁ、何をしても良いってことね。折角だから開会式でも見るわ」

と、私達と一緒に体育館に向かって歩き出す。


体育館の中はすでにたくさんの人がいた。永野先生の話によると、この駅伝は、昨年度の順位で毎年ゼッケンが変わるようになっているそうだ。今年は男子が46チーム、女子が35チーム参加しているらしく、初出場となる桂水高校は35番であり、城華大附属は1番となっていた。


「それにしても、人が多いかな」

「まぁ、参加校も多いしね。そう言えば、晴美って部活動での開会式って初めて?」

「と言うより聖香……。美術部で開会式のあるような大会ってどんな大会なのかな」

晴美に指摘され、自分がいかに的外れなことを口にしたか気付き、思わず顔が赤くなる。


しばらく雑談をしていると、城華大附属が体育館の中へ入って来るのが見えた。


王者城華大附属高校。駅伝と言う大会において、その存在感は抜群にある。その証拠に彼女達が歩くと他校の選手が道を開け、さながら旧約聖書に出て来るモーゼの話のようになっていた。


「ベンチコートまで蛍光オレンジ」

「あ、それあたしも思いました。ユニホームといい、コートといい、目立ちますよね」


城華大附属を見た一番最初の感想がそれですか? とツッコミを入れたくなるような、久美子先輩と麻子の一言。


でも考えようによっては、緊張もなく、城華大附属を変に意識してないので良いのかもしれない。


「それでは間もなく開会式を始めます。各学校ごとに一列でお並びください。ステージに向かって右側から男子のゼッケン順、その次に女子のゼッケン順でお願いします」


アナウンスが流れると、各学校が動き始める。私達は女子の一番最後、つまり体育館の一番左端なのでわりとすぐに並ぶことが出来た。


そして始まる開会式。最初のうちは、ついにやって来た駅伝の開会式ということもあり緊張していたが、色々な人のあいさつや話などで、若干飽き気味になってしまう。


「続きまして選手宣誓。昨年度男子優勝校・泉原学院高校。女子優勝校・城華大附属高校。両校のキャプテンは壇上にお上がりください」


どうも選手宣誓は昨年度の優勝校がやるようだ。つまり私達が今年城華大附属を破れば、来年は葵先輩があそこに上がるということか。


そしてふと思った。もしかして永野先生もやったことがあるのではないだろうかと。


そんなことを考えつつ、ステージに上がった人物を見て驚いた。なんと宮本さんではなく、桐原さんが上がって来たのだ。てっきり、宮本さんだとばかり思っていたが、キャプテンとエースは別と言うことなのだろうか。


そんな私の勝手な思いとは関係なく、無事宣誓も終わり開会式も終了する。

体育館を出ると、外で待っている永野先生の元へ全員で向かう。

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