79区 出発!

葵先輩達が仲直りしてからの10日間はあっと言う間だった。幸いにも、誰も故障することも風邪を引くこともなく、万全の状態で駅伝を迎えることが出来た。



若干ではあるが木々の葉も色が変わり始めた11月の第一土曜日。時間は午前9時。駅伝に向けて出発するため、私達桂水高校女子駅伝部のメンバーは校門横にある職員駐車場に集まっていた。


だが……。


「いや、肝心の永野先生が来てないって、どう言うことよ」

今私達が置かれている状況を、麻子が的確に説明する。


そう、部員も由香里さんも来ているのに、肝心の永野先生がいないのだ。しかも、由香里さんが携帯に電話しても出ないらしい。


「寝坊ってことかな」

「もういっそ、置いて行っちゃうってのはどうかなぁ?」

「それが困ったことに、オーダーリストなどの書類は綾子先生が持っているのよね」


みんなであれこれ相談していると、ものすごいスピードで一台の車が駐車場に入って来た。永野先生の愛車、ブルーのラポンだ。


「お待たせ。ギリギリセーフ?」

「思いっきりアウトよ。で、なんで遅れたの? 綾子」


「店に届いたのが昨日の夜だったのよ。無理を言って今日の開店前に取りに行って来たの。ダメかと思ってあきらめてたけど、納入が間に合ってよかった」


由香里さんに説明しながら、永野先生は後部座席から段ボールを降ろす。


「各自一着取ってくれ。私と由香里の分もあるから余りが出るはず。あと、園村の分もあるからな」

永野先生が取り出した段ボールを開けて私達は目を輝かす。


「うそ。これはすごいかな」

「うわぁ、すごく駅伝部ぽいんだよぉ~」

「あたし着るの初めて」


そこにあったのは、ベンチコートだった。


ユニホームに合せ、夏空のような真っ青なコート。背中にはその夏空に浮かぶ入道雲のような白さで「桂水」と筆で書いたかのように力強く書いてあった。


全員でそのお揃いのベンチコートを着ると、不思議と身が引き締まる上に、チームとしての一体感がより強いものになった気がする。


「予想以上に似合ってるな。よし、みんな忘れ物はないな。さあ、桂水高校女子駅伝部にとって本当の意味での初陣に出かけるとするか」


永野先生の一言に私達は全員で返事を返し、競技場へと出発する。


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