70区 高校選手権終了

「あれも永野先生の指示ですかぁ~」

紗耶の質問に、永野先生はため息交じりに、

「ただ単に追い付くまでに体力を使い切ったんだろ。まぁ、ここから我慢の練習だな」

と答えていた。


ここまで頑張って追い付いた麻子だが、トラックを3周回ったところ、つまりは1200m過ぎたところで、今度は逆にどんどんと抜かれ、後ろへと下がり始める。気が付けば、あっと言う間に後ろから3番目まで下がっていた。


スタンドから見ても、脚が前に出ていないし、地面を蹴るタイミングも遅くなっており、随分と重そうだ。上半身もぶれて、もがく様な感じで必死に走っている。


ちなみに麻子が後ろへと下がっていくのと同時に、先頭を引っぱっていた葵先輩も貴島祐梨に先頭を奪われる。


貴島祐梨は先頭に立つと、その勢いでグングンと後続を引き離しにかかる。


そのスパートを見る限り、1200mまでは無理に先頭に立つ必要がないと判断し、葵先輩に先頭を走らせていたのかもしれない。


先頭から下がった葵先輩は、岡崎さんに抜かれ、ラスト100mでさらに三輪さんを含む3人に抜かれ6位でゴールした。


麻子にいたっては、結局足取りが重いままのきついレースとなり14人中12位でゴール。まぁ、今回はいきなりこけた中でよく走ったと思うが。


「それにしても、初めて駅伝部のみんなが走る所を見たけど、すごく速いのね。これだけ才能がある人が偶然集まるって、すごいじゃない」


「いや、由香里。そこは私の指導力を褒めてくれる所じゃないの? 才能もあるだろうけど、それを伸ばしたすごい指導者がいるとは考えないわけ?」


永野先生はちょっと悔しそうに由香里さんの顔を見る。「まったく思わないわ」と冗談顔で由香里さんは笑っていた。


ちなみにその後、レースを終え帰って来た葵先輩に聞いてみると、1200m地点で、気力も体力も使い切ってしまったとのことだった。麻子にいたっては、相当恥ずかしかったのか、順位やタイムよりもこけたことを随分と気にしていた。


まぁ、初レースであれはちょっと可哀想だし、多少同情もしたくなる。


そんな麻子の気持ちを知ってか知らずか、永野先生は麻子と葵先輩にダウンに行くようにせかす。


2人が帰って来ると全員でミーティングを行う。

永野先生から各個人に向けて、レースの感想とアドバイスが言い渡される。


それが一段落した後、別の要件が伝えられる。


「急な話だが二週間後に全員でナイター陸上記録会の3000mに出場することにしたからな。その結果で駅伝の区間を決めたいと思う。それと、城華大附属との実力をしっかりと把握してもらう意味もあるからな。言っておくが、チームとしてみた時に桂水と城華大附属は天と地ほどの差はないぞ。私はお前達に、都大路に出るために必要な練習と指導をして来たんだ。駅伝も段々と迫って来ているが、まずは心で負けないこと。相手も同じ高校生だ。まずは『勝つんだ! 勝てるんだ!』と言う気持ちを持て」


私達が全員そろって返事をすると、「よろしい。私からは以上」と永野先生が話を閉める。


その直後に麻子が私に耳打ちをして来る。


「ねえ、ナイターってどう言うこと?」

「言葉どおりよ。夕方の涼しい時間帯から大会をやるの。涼しい分記録も出やすくなるわ」


私の説明に、「試合って夜でもやるんだ……」と麻子は目を丸くしていた。


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