37区 合宿始まる

合宿初日、先週もらったプリントに太字で『各自、自転車では来ないこと』と書かれていたので、親に車で送ってもらい学校へとやって来る。


さっそく宿泊所に荷物を入れ、グランドに集合。この時点でまだ早朝6時半。


そこからアップをしてロードジョグ開始。しかも行先は桂水高校の近くににある標高400mの城垣山と言う山の山頂だ。


学校からふもとまで2キロ。ふもとから山頂まで4キロ。往復12キロの道のり。ちなみにこの山、名前の由来は遠くから山を見ると、まるでお城の石垣のように見えることからつけられたらしい。


つまり……それほど傾斜が急なのだ。


登りはあまりの傾斜に、歩いた方が早いのでは? と思ってしまう場所さえもある。ゆっくりとジョグで登っているはずなのに、私を含め全員が息を切らしていた。


逆に下りになると、あまりの傾斜に脚の筋肉が悲鳴を上げていた。


そんなこんなでやっとの思いでグランドに帰ってくると、1000mのタイムトライが待っていた。それが終わると筋トレ。そこから昼御飯までは、なんと全員強制的に勉強時間。私にはこっちの方がある意味きつかった。


午後練は、15キロのペース走だった。これは最初から最後まで一定のペースで走る練習だ。ペースも少し遅めに設定してあるのだが、午前に山をがっつり走った後だと、その遅いペースですらかなりのきつさだ。


練習が終わり合宿所に戻って来ると、全員ぐったりして倒れてしまう。


「おい、大和。そんな所で寝てると風邪引くぞ。北原もだ。お前らまだ初日だぞ。まったく。ほら、晩御飯が出来たから運ぶのを手伝え。はいはい! 起きる! 起きる! 湯川! 藤木! 澤野! お前ら一年が率先して動け。てか、3人ともまずは起きろ」


あ……、なんか今名前を呼ばれた気がした。


「みんな晩御飯いらないのかな」

晴美が不安そうに私達がいる部屋を覗きに来た。

そうだ、せっかく晴美が作ってくれたのだし、しっかり食べないと。


そう思いながら起き上り、配膳をおこない、いざ晩御飯となったのだが……。


全員、箸があまり進んでなかった。


「お前ら一応確認するが……。練習がきつくて食べられないんだよな? 私の味付けに不満があるわけではないよな?」

永野先生が不安そうな顔をして、必死で私達に聞いてくる。


だが、あまりのきつさにみんな返事を返すことが出来ず、それが結果として先生を余計に不安にさせていた。


合宿2日目、早朝からみんなでウォーキングをして体をほぐす。

今日はスピード練習がメインとなっている。


「さっさと今日の練習を終わらしてやる。どんな練習でもかかって来なさい」

「あさちゃん、練習メニューは全部分かってるんだよぉ~。でも、あさちゃんの言葉どおり、前向きな気持ちで練習に取り組んだら、きっとあっという間に終わるよぉ~」


麻子は練習前から俄然やる気をみせていた。どうやら逆境には強いらしい。紗耶は随分と前向きだ。紗耶の明るさは部の雰囲気自体を明るくしてくれる。


だが気合いが入り過ぎたのか、2日目終了時では麻子が一番ぐったりしていた。


「こら、麻子。体洗いながら後ろに倒れたら、頭打って死ぬから」

みんなでお風呂に入り、体を洗っている最中でも、麻子は船を漕ぎ眠たそうにしていた。


「陸上の合宿って思ってたのと違う。てか大型連休前にも少しだけ話題になりましたけど、永野先生ってなんであんなに陸上詳しいんですか。経験者ですかねえ? 先輩方知ってますか?」


フラフラしながら湯船につかり、思いっきり脚を伸ばして天井を見上げながら麻子が悲鳴を上げるような声で喋る。


その声がお風呂中にこだまして、まるで麻子の声が心の中まで響いてくるような感じがした。


いや、現に麻子の一言は私が常々思っていたことではある。私も聞こうと試みて、そのまま大型連休になってしまい、それっきりだったのを思い出す。


「実はうちと久美子も知らないのよね。詳しく聞こうと思ったこともなかったし」

「最初から興味ない」

先輩達もあの時と同じく、知らないことを麻子に告げる。


「じゃぁ、今日思い切って聞いちゃいましょう!」

「だよねぇ。それが良いと思うんだよぉ~」

麻子の提案に真っ先に賛成するということは、どうやら紗耶も興味があったようだ。


その後みんなで話し合い、ミーティングの時に麻子が話を切り出すということで意見はまとまった。

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