35区 定期テスト

 そんなとある土曜から数日後。高校生になって初めての定期テストが行われた。


 高校生にとって、絶対に避けては通れない定期テスト。桂水高校は2学期制を取り入れており、テストは年に4回。6月、9月、12月、2月に実施される。


テスト中は基本的に部活動は中止。これが予想以上にストレスとなった。中学生の時はそんなふうに感じたことはなかったが、なぜか今回は走りたくてうずうずしてしまい、勉強をほったらかして家からジョグに出かける始末。


ただ、私にも良心がわずかに残っており、夕方親が帰宅する前には帰って来るようにしていた。洗濯物で走っていることはすぐにばれたが、気分転換のために30分だけと、とっさに嘘をついて誤魔化した。間違っても、毎日90分近く走っていたとは口が裂けても言えなかった。というより、ばれたら部活を辞めさせられる。


「その力を勉強に使っていたら、こんな結果には、ならなかったんじゃないかな」

晴美にそのことを話したら、苦笑いしながらはっきりと言われてしまった。


それくらい今回のテストは散々な結果だった。245人中198位。完全に後ろから数えた方が早かった。


「まぁ、赤点がひとつもなかっただけ、良しとするしかないかな」

自分でそう思う分にはまだ良いが、晴美に言われてしまうと泣きたくなって来る。


ちなみに他の駅伝部員の成績だが、晴美は22位、紗耶が54位、麻子が108位とみんな私よりもはるかに上。久美子先輩は243人中85位。駅伝部唯一、理数科クラスに在籍する葵先輩にいたっては、理数科で1位と言うから驚きだ。


いつもメガネをかけており、まるで社長秘書が似合いそうな雰囲気の久美子先輩。成績もトップクラスかと思ったが、そこは見かけどおりではないようだ。


まぁ、そんなことはさておき、駅伝部の中で、私が断トツで成績が悪かったのだ。


「ねぇ、聖香。普段走る時は何を考えているのかな?」

晴美の質問に戸惑いながらも、走ることになるとついまじめに考えてしまう。


「う~ん。今よりも速くなりたいってことと、やっぱり都大路出場という目標を叶えたいってことかな」

それを聞いた晴美が「してやったり」という感じで、ニヤリとする。


「ずばり、聖香に足りないのはそれじゃないかな。聖香とは長い付き合いだけど、小さい頃はちゃんとあったのに、中学生になった辺りから部活漬けの毎日で、聖香の口から将来の夢とか目標を聞いたことない気がするかな。部活でキツイ練習に耐えられるのも、目標があるからだと思うの。それと同じように、将来つきたい職業とか、大きな目標があったら勉強もきちんと頑張れるんじゃないかな」


晴美の意見はもっともな気がした。確かに中学で陸上部に入ってから、毎日走ることばかりであまり将来のことを考えたことがない。


「まぁ、その前に次回は駅伝部最下位脱出という目標もあるかな」

晴美は笑っているが、私にとってはあまり笑えない。今回の成績で親は何も言わなかったが、さすがにこんな成績が2回も続いてしまうと……。


ただ、将来の職業などは、考えて浮かぶものではないのも十分に分かってる。そこは焦るわけにも行かないが、だからといってこのままなのも問題だ。


それを晴美に話すと、「まぁ、今はそういう気持ちになっただけでも、前に進んだとするべきかな」と、返されてしまう。


私はふと、晴美に将来のことを聞いてみたが、「それを発表するにはもう少し時間と経験が必要かな」とはぐらかされてしまった。


ただ、そう答えるといういことは、しっかりと考えているのだろう。


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