7 上司に指導料2万円を振り込む社員 その4

 ひゅんと空気を切る音を立てて、刀は働木の首元を切り落とすかに思えた。

「なんで?」

 刀は首の直前で止まる。銭我がそれ以上、振り下ろそうとしてもびくとも動かない。

「か、刀が本来の力を発揮した!」

 金庫管理課の課員がまた叫んだ。

「刀の使い手があまりにもケチな精神を持っているから、刀そのもののケチ心が振り切ったんだ。首を切り落とせば、歯が欠ける。刀のケチ心がそれを嫌がっている!」

「くそっ!」

 銭我は刀を捨てた。刀は妖力を発揮するのもケチってしまった。働木は正気に戻り、傷だらけにも関わらず、しっかりとした足取りで立ち上がった。

「銭我、これでお前もお終いだ!」

 働木鯛造は尻ポケットから財布を取り出すと、一万円札の束を引っこ抜き、宙にばらまいた。銭我は目の色を変えて、お札を拾おうとする。

「1枚、2枚、3枚、……、全部で18万5千円だ! これで歓迎会のお金を立て替えずに済む!」

 銭我が目を輝かせてお札を数えると、働木は言った。

「銭我よ、よくお札を見ろ!」

「こ、これは! 子供銀行! うわわわわ!」

 ショックのあまり、銭我は口から泡をふいて倒れた。カンカンカン、ゴングが鳴る。勝者、働木鯛造。

「オモチャのお金で気を失うとは、どれだけ甘ちゃんなんだ」

 働木は銭我のハンドバッグから財布を抜き取った。

「今夜も旨い酒が飲めるぜ……うん? なんだ小銭しか入っていねえ。これじゃ缶ビールくらいしか買えないじゃないか」


×××


「銭我、歓迎会の会計係ごくろうさん。昨日は、いい会だったよ。」

 そう言って働木は銭我に会費を支払った。にこやかにお金を受け取ると、銭我はきっちり数え直す。

「確かに受け取りました」

 銭我星実は課員全員分の会費を集め終わると、席に戻った。視界の片隅には、課内の文房具置き場からもらってきた新品の電卓がある。それをさりげなく机の下の鞄に隠した。

――会費、まるまる丸もうけ。

 銭我はうれしくて仕方ない。レストランにお金を支払う時、彼女は「子供銀行」のお札をしれっと使ったのだ。レジのあるところは少し暗かったので、おそらくアルバイトであろう店員は怪しむこともなく、「子供銀行券」をレジスターにしまったのである。

――あの刀を部屋に飾ってから、今までよりもお金が貯まるようになったな。

 名刀、度毛知時雨をもちろん銭我は家に持ち帰った。ケチはより拍車がかかり、彼女は節約するたび、生きている実感を感じるのだ。

――わたしって、幸せだなあ。

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