課長働木鯛造、怒りのデス・ロード

矢那川ヤナ

0 プロローグ

 黒井商事第一事業部事業推進課を支配する課長、働木鯛造はたらきたいぞう(年齢不詳)。彼が史上最凶の課長として怖れられるにはワケがある。例えば、社員が仕事を辞めたいと願い出た時。

「会社は家族! 家族が別れるのは死ぬ時。つまりお前が会社を辞めるのは死ぬ時だけだ!!」

 働木は課内に低い声を響かせて、怒鳴る。

「どうしても辞めたいと言うのなら、俺を倒してからにしな。課長は課員の父親。子が父から自由になるのは父が死んだ時だ。お前に俺を倒せるかな?」

 ビル9階にある社員専用闘技場が決闘の舞台だ。課長働木は退職希望の社員を無理矢理リングに引っ張り出す。

「怯えても無駄だぜ、正々堂々と勝負しろ」

 そう言って働木は上半身裸になると、社員に襲いかかった。軽くファイティング・ポーズをとったら、両手を交互に突き出して顔面を殴打していく。パンチは正確に標的を捉え、そのリズムは規則正しい。

「おやおや、お前の退職意思はそんなに軽いものなのかい? 本気で会社を辞めたいのなら、俺を本気でれ!」

 一方的に殴られるばかりだった社員も、ようやく反撃のそぶりをみせて、泣きわめきながら、両手を大きく前後に振って、働木を攻撃しようとする。

「お前は甘いんだよ! 退職のための武装をしてねえなんて、甘ちゃんだ!」

 働木は社員によるやけくそのパンチを避けながら、尻ポケットをまさぐった。

――バタフライナイフ。課長昇進祝いに先代の社長からプレゼントされたものだ。

「ぐはっ!」

 一瞬だった。働木が突き出した左手にはナイフが握られ、そのナイフは社員の心臓に正確に突き刺さっていたのだ。

「俺を恨むなよ。会社での殺人は商行為だから、刑法の対象外だ」

 総務課遺体処理係が現場に到着するまでの間、働木は社員の胸ポケットから財布を抜き取ったのだった。

「今夜も旨い酒が飲めるぜ……」

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