第79話 残花の祠 ⑥


 トワと老騎士は抜刀して対峙する、騎士は腕装備している盾を全面に出した後の先の構えで立ち、片やもう一方のトワは両手にナイフを抜いているが構えを取らないで立っているだけでいる、勿論銃器は腰のホルスターに仕舞っている、どう見ても戦闘状態になっているとは思えない、トワは攻める動きをしないでいると老騎士が。


「構えぬのなら此方から行くぞ」


 と言い老騎士はトワとの距離を詰めて、盾で視界を遮る様にしてそのまま殴打する、所謂シールドバッシュと言われている技である、ただ盾で殴打すると思っているとお思いだが、侮ってはいけない、金属で出来た盾で殴打すると言うことは、凶器で殴ると変わらないのだから、此れに体格さや重量の差があれば受けた方は脳震盪などを引き起こし、一対一ならば決着である、正に攻守一体の攻撃である、老騎士とトワの体格さは無いが、軽装備のトワが受けたならば吹き飛ばされるであろう。


 しかし、それは『受けた』ならばの場合で、トワは片足の一歩を軸移動して躱すが老騎士もそれを読んでいて、もう片手に持っている剣を突き刺す様に出してくる、トワは剣をナイフで軌道を剃らす、金属が擦れ会う独特の音と金属の摩擦で火花が飛ぶ、老騎士は振り抜いた盾のもう一度トワに向ける、トワは盾が向かってくるがもう片方のナイフで受けずに跳脚して間合いを取る、これがトワと騎士の一合での攻防。


「流石に此処まで来ただけあるの、久しく来なかった客人だ、暫し付きおうくれまいかな?」


「断る、こちらは暇じゃ無いんだ」


 老騎士の誘いを即に拒否して、今度はトワが間合いを詰めて攻守が交替する。

 二本のナイフを時間差と死角を突いて走らせる、老騎士は剣を鞘に仕舞い、一歩下がり剣を持っていた片腕を突き出してトワとの間合いを取るが、トワは構わずに老騎士の片腕を切り落としてそのまま胴体に斬りかかろうとしたが、老騎士は既にナイフ刃の届く間合いよりも外に避けていた。


「気配がしたと思ったが、踏み込んで至ら首を落されていたか、素晴らしい、貴殿なら我を殺す事が出来るかもしれんな」


 老騎士は斬られた腕を気にもしないでいる事に、トワは不気味さに攻め込めないでいた。

 老騎士の腕からの流血の動きがあり得ない動きすると、傷口から肉塊が生え始めて、腕は元通りに成り再び剣を抜く。


「regenerator(リジェネレーター)《再生するもの》?」


「リジェなんだと?、これは呪いだ、我を殺したければ呪いが追い付かない程に我を殺し続けよ、さぁ、我を呪いから解放してみせてくれ挑みし者よ」


 老騎士は剣を振り抜いく、トワは剣を避けて老騎士の両腕を切り落とすが瞬時に両腕は再生され始めるが、トワは間髪いれずに額にナイフを突き立て引き抜き距離を取る。


「・・・言っただろうに、完全、完璧、塵ひとつ残さないように殺しきれと」


 額に空いた傷口が再生されながら老騎士は仕掛けを踏むと、部屋の至る所に剣が現れて手元に有る剣を両腕に一本ずつ握り無造作に抜き二刀流で構える、トワもナイフを握り直して構える。


 老騎士は駆け寄りながら剣を繰り出す、それをトワはナイフで受け止め剣の刃を両断して老騎士の身体を切り裂くが、老騎士の動きは止まらずに両断された剣を捨てて新たな剣を握り振り抜く、トワは老騎士の猛攻に対して堪らずに腰からスタングレネードのピンを引抜き、老騎士の眼前に投擲する、そして老騎士を眩い閃光が包み剣が空を切りトワは距離を取る、流石のトワも攻防で手一杯の為にミリアに注意する事が出来なかったから、ミリアはスタングレネードの閃光で踞っていた。


「こ、れは、何とも不思議な魔法を使いよる、ふむ、目が見えんか、しかし、こうすれば問題無かろう」


 老騎士は剣を目元に持っていき刃を引く、老騎士の顔面血塗れに成ったが直ぐに再生して元通りになる、これを見ていたなトワはげんなりした表情になる。


「これだから再生者のとの戦闘は疲れる、こちらの攻撃を気にせずに防御の概念を度外視して突っ込んで来る、本当に面倒だ」


「諦めるのか?挑みし者よ」


「冗談だろ。最近回り道ばかりさせられているからな、いい加減に任務に戻るさ、丁度よく今の光で連れの視力が回復するまで時間がある、お望み通りに塵芥も残さないようにしてやるから掛かってきな」


 トワは挑発的に手でこいこいとジェスチャーをする。


「よかろう、その大口を閉ざしてやろう」


 老騎士がトワの間合いに入り込んで剣とナイフで打ち合う、老騎士の剣は打ち合う度にトワのナイフにより使い物にならなくなっていく、幾度も打ち合うと部屋の至る所に有った剣は観るも無惨な形になり地面に散乱して、終には老騎士の武器が無くなった。


「先程の威勢はどうした挑みし者よ?、武器を破壊するだけでは先に進めぞ、我を殺す事が宝庫殿に続く道を開く鍵なのだからな」


「大丈夫だ今から殺しきる、面倒なだけであってregenerator(リジェネレーター)の殺し方を知らないわけではない、今ある装備でも、まぁ、殺しきれるだろう、では・・・行くぞ」


 トワは素早くナイフを仕舞って換わりに銃を両手に持ち老騎士に接近する、そして老騎士の近距離から凄まじい轟音を立てて銃を発射していく、老騎士の守るはずの鎧は近距離での弾丸雨注により役にもたたずに貫通していき老騎士の体に風穴が空いていく、弾を撃ちきり銃を仕舞って腰から焼夷榴弾等の爆発物を何個も放って距離を取り、ミリアの前に立ち簡易シールドを立ち上げて熱風や破片から身を守る、爆風が収まると老騎士は息も絶え絶えに成りながらも未だに生きていた、トワはナイフを抜いて老騎士に歩み寄る。


「本当にしぶといな、だが流石に致命傷だ、再生が追い付かない傷だ最期に言い残す事は?」


 老騎士は頭部と身体の一部を残して床になんとか存在している状態であり、再生する部位が多すぎ延命に殆どの再生力が回っているため、再生が止まっている状態になっていた。


「我を縛り付けていた呪縛から、そしてようやく永きに渡る勤めが終わる、我から貴殿に賞賛の言葉を贈ろう、それではやってくれ|解放者よ(リベレイター)」


 老騎士の最期の言葉を聴いてトワはナイフを振り抜き、老騎士の頭部と身体を切り離した、老騎士の頭部は宙で塵芥に成りながら消滅した。


「永劫無極の果てなんて碌なものじゃ無い、そこには永い孤独と一瞬の邂逅が繰り返されるだけだろさ」


 ナイフを仕舞いながら寂しそうな顔でそう呟いてミリアの元に歩み寄って行く。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る